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75 私、先生が好き

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 妖にとっても雨はおっくう

 身体が濡れる

 気は滅入る

 妖力は薄れる

 雨に打たれてまどろみもできやせぬ


 教室に入っておってもよいが、中には、ワレを厳しい目で見る女子おなごが何人もいる

 しかもヘビまで


 ミリッサという男の見張り

 このお役目の意味が、少しだがわかってきた

 ワレラと同類になるときを見逃すな、というわけだ

 そして異常な行動をせぬかどうか、蛇が悪さをせぬかどうか、見ておれというわけだ

 かつ、危急のことあれば、助太刀せよと



--------



 三限、四限と、いつも通り進む。

 雨のため、裏山行きは中止。

 誰からもブーイングは聞かれない。

 唯一、ランががっかりした顔を見せただけ。


 メイメイと目が合うと、つい一昨日、あの神社で聞かされた話が蘇ってくる。

 今、デザイン演習に取り組んでいるメイメイに特段変わったところは見られない。

 彼女は彼女なりの取り組み方で、頭をひねりペンを動かす。ただそれだけ。

 あくまでいつも通り。

 一緒に下校する約束のあるランも同じ。

 ハルニナは、学校に来ていないのか、姿を見せない。


 ただ、今日のランとの下校。

 単に、一緒に帰ろうね、というシンプルなアトラクションではないだろう。

 きっと、とんでもない話を仕掛けてくるに違いない。

 なにしろ、いつもと趣がかなり違う。

 黒装束。まるでくのいち。

 頭巾こそ被っていないが、首元から足首まで、しかも靴まで黒ずくめ。

 ノーウェの件について、掴んだことが何かあるのかもしれない。

 胸騒ぎがする。


 様々な思いが頭をもたげてくる。

 だが、授業に集中しよう。



 毎回のことであるが、デザイン演習には居残る学生がいる。

 メイメイとランはさっさと出ていってしまい、残るは一人。

 彼女が一緒に下校を、と思っているなら気まずいことになるが、そこそこのところで満足したのか、ものの十分もしないうちに提出して出て行った。


 後は、一人で教室の整理整頓。

 窓の外は雨。

 しかも土砂降り。

 ふと、誰かに見られているような気がして、ブラインドを閉めた。




 正門で待っていたランは、フェアリーカラーの髪に黒装束がかなり目立つ。

 案の定、大事な話があるんです、と大きな瞳をさらに大きくした。


 学校前の下り坂。

 並木のクスノキの葉に雨が降り注ぎ、騒々しい。

 歩道を打つ雨脚もいよいよ激しくなってきた。

 いたるところで水が歩道の上を勢いよく流れている。

 正門まで戻って、待機中のタクシーに乗ろうかと思うが、学生と一緒だと、それもはばかられる。


 追い越そうとしたタクシーが急停止した。

 おっ、メイメイ。

 乗っていく? というように手招きしてくれる。

 が、ランは、いえいえ、というように手を振り返し、拝む仕草で謝意を表した。

 ちょっと怪訝な顔を見せたメイメイ。

 彼女を乗せたタクシーは水しぶきを上げて坂道を走り下っていった。



「ミリッサ、だいぶ前に、授業で雑談したでしょ」

 と言って、歩き出したラン。


 やれやれ。

 乗せてもらえばいいものを。


「神の存在は信じないけど、妖怪はいると思うって」

 意表を突く質問に、ミリッサは思わず身構えた。

「ああ、言った、と思う」


 実は、失言だったと後悔している。

 神を信じるかどうかは個人の問題。

 そこに教師たるもの、言及してよいはずがない。

 しかも、断言してしまったことに。

 大学から注意を受けること、必然。


「それ、今も変わりません?」


 答えに詰まる。

 ランがクスリと笑った。


「あれを聞いて、私、先生が好きになった」

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