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74 真意よ、伝われ

 ガリにどう語りかければいいのか。


 競馬サークルであの事故の調査を始めたとは、言えるはずもない。

 即刻、学生にそんなことをさせているんですか! と厳しく反応されるだろう。

 フウカが、などと言おうものなら、責任転嫁ととられて、ますます形勢は不利に。



「思い出話をしようとしたんじゃないんだ。純粋に、彼女のことをもっと、ちゃんと知っておいてあげたいなと」



 誤解しないでほしい。

 ノーウェは僕が教えた学生の一人。

 競馬サークルのメンバーでもあった。

 競馬場でもちょくちょく顔を合わせた。彼女が勤めている財団のイベントで。


 でも、なんていうか、彼女が亡くなって、思った。

 彼女のこと、何も知らないなって。


 講師である僕が言うのもおかしいけど、ノーウェだけじゃない。

 学生達とある期間一緒にいて、いわば何十時間も顔を合わせていたのに、そしていろいろな話をし、指導し、評価までつけていたのに、卒業とともに関係は一気に薄くなっていく。


 いつしか、街ですれ違っても気づきもしない。

 たとえ気づいたとしても、知らん顔して往きすぎる。

 ノーウェのように、変な縁で、つまり競馬場で顔を合わせるということはあっても、だからといって、学生時代のように関係が深まることはない。


 学生がどうというんじゃないよ。

 僕の方。


 かれこれ、もう四百人はいるだろ。

 僕が教えた学生。

 でも、名前を憶えていて、かつ顔と一致し、なんて人は数えるほどしかいない。

 電車で見かけても、自信をもって声を掛けられる人は十人、いや、五人いるかどうか。

 なんだか、なんていうか、申し訳ないような気がしてね。



 ガリは書籍庫にもたれ、閉じたアルバムの上に肘をついて聞いている。



 正直に言うよ。

 ノーウェが死んでから、彼女の噂をいろいろ耳にした。

 実に、知らないことだらけ。

 ノーウェの、ごく一面、いやごくごく一部しか知らなかったんだなと。


 講師だから、それでいいのかもしれないし、それ以上を望むこと自体、間違っているのかもしれない。

 けど、なんとなく、寂しい気がしてね。

 僕が男で、彼女たちは素敵な女性。

 だから、そう思うのかもしれないけど。


 でも。


 いや。


 もうやめるよ。

 僕が女子大の講師として、まだ半人前、ということだろうから。




 ミリッサは、一気にしゃべったのではない。

 むしろ、詰まり詰まり、ガリの反応を見ながら、真意よ伝われ、という一心で話した。


 しかし、もう、引き上げるべきときだ。

 ガリから話を聞き出すのは、自分には無理なことだった。


 ノーウェに関する噂の数々。

 すべて真実として、受け入れなければいけないのだろう。


 ノーウェの幻想。まさに幻を見せられていただけのこと。

 そう思うしかない。



「じゃ。三限なので」

 と、ミリッサは背を向けた。

 ガリは何も言わなかった。


 ノーウェの噂の真偽を確かめようとする試みは見事に失敗に終わった。


 授業準備室を出て、階段を降りようとした時、ガリが部屋から出て見送ってくれていることに気づいた。

 ひょいと手を挙げると、向こうは小さく頭を下げた。

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