73 変な思い出話にするのはまだ早い
「アルバム? 懐かしいでしょ」
あ、この年の子たちね。
面倒ごとの多い年でしたね。
と、横から覗き込むガリ。
「卒業してまだ二年なのに、ずいぶん昔のことのよう」
いい出だしだった。
ミリッサはこの同年輩の女性事務員とそれほど懇意ではない。
きっちりしすぎる性格と、短く刈りつめた髪に、ほぼノーメイク。
少しやせた頬に、鋭い目つき。
いつも濃紺のスーツを着込んだ女性に、親しみを感じなかった。
苦手といってもよかった。
が、この調子で、ノーウェのことを聞き出そう。
「ガリさん、ノーウェが亡くなって、半年だね」
と、ミリッサは切り出した。
「そうね」
ガリはまだアルバムに目を落として、ページをめくっている。
「あの子は……」
と、言いかけたが、見てこれ、とある写真に指を落とす。
「このときのこと、先生、覚えてます?」
「もちろん」
大学祭の出し物としてクラスで演劇をすることになり、その練習風景。
学生たちがふざけ合って、めちゃくちゃなメイクを互いにしあって、しかもレオタード姿ではしゃいでいる。
ミリッサは、ストレートに聞こうと思っていたが、遠回りをすることにした。
「この学生」
「アデリーナ」
「ああ。素敵な人だったね」
「あれ? 先生、ノーウェがお気に入りじゃなかったんですか」
そうか、見透かされていたのか。
さすが、女子大の事務員を長年務めているだけのことはある。
言葉に詰まるが、ここはうまく、
「これがノーウェだろ。覚えてるよ」とかわしたつもり。
が、ガリの導火線に火をつけてしまったようだ。
「先生、その言い方、ちょっと違うと思いますよ」
「ん?」
「だって、ノーウェが死んだとき、京都競馬場で。先生、そこにおられたんでしょ」
知られていたのなら、もう隠すことはない。
「そう。その日、俺たち、競馬サークルのメンバーは競馬場にいた。驚いたよ」
「何に? ノーウェが死んだことに? それとも、ノーウェがケイキちゃんの着ぐるみに入っていたことに?」
この女性にあいまいな話し方は許されない。
怒り、あるいは蔑み、といった気持ちが表情に、言葉に表れてくる。
「なんていうか、それもこれも、いろんなことに」
「わからないですね。それに、彼女の死を変な思い出話にするにはまだ早いし、失礼だと思いますよ」
「全く同感」
ミリッサは、やはりストレートに話さなければ、この女性から何かを聞き出すことはできないと悟った。




