71 酔っぱらったあなたに話せる?
「ミリッサ、ハイボール、もう四杯目。しかもダブル飲んでるし」
「でも」
「あんまり強くないでしょ」
「いや、大丈夫」
「ダメ。前に食事した時、へとへとになってたでしょ。お風呂からなかなか出てこないし。溺れてるんじゃない、って心配したよ」
「あれはだな」
「素面の時じゃないと、話せない」
「なに言ってるんだ。メイメイが」
「私から聞けと言ったんでしょ。彼女はとても賢い。自分が話していいこと、いけないことはちゃんとわきまえてる」
「だから聞いてるんだ」
「酔った勢いで聞く話じゃないよ。とてもとても大切なこと。それに、どうしても今夜聞かなきゃいけないことでもないしね」
「俺は聞きたいぞ」
「だから、そういう言い方すること自体、ミリッサ、酔ってるよ」
なんとなく情けなかった。
これではまるで、駄々っ子がお姉さんのハルニナにたしなめられているようなものだ。
ため息交じりに大きく息を吐き、まずはハルニナに礼を言った。
「礼を言ってなかった。助けてもらって、ありがとう」
「あらら、それって、私のためにしたこと。お礼を言われるようなことじゃないし」
「殺されかけた俺を助けてくれた」
「違うよ。助けたのはメイメイ。そう聞かなかった?」
「それはそうだが、メイメイは君の指示で動いてるって」
「それはそうだけど、ミリッサを助けたのは、明確にメイメイのしたこと。私はあわてて駆け付けただけ」
意味ある会話はここまで。
確かに酔っていた。
頭はどんより。
聞き方も、たどたどしかった。
「なぜ、俺は殺されかけたんだ?」
それはもっと落ち着いてる時に話すね。
「まだマニフェストしていない人に、あれこれ話すのはイレギュラーだと。どうなんだ?」
そうね。でも、それも今度。
「俺とオマエの、その、関係? ってのは?」
それこそ、次のベストなタイミングに。
酔っぱらったミリッサに話せる?
「じゃ、なぜ、俺を見張ってる?」
見張ってなんかいないよ。
とても関心を持って見守ってるだけ。
そう言ってなかった?
「だから、なぜ」
答えはさっきと同じ。次の機会。
「オマエとメイメイ、あそこで、ん、と、コアYD? でいったい何を?」
それ、今聞いてどうするつもり?
「ルアリアンとカニの抗争、どうなんだ?」
今、あなたにとってはどうでもいいことじゃない?
それに、ちゃんと理解できる?
「あ、そうだ。蛇だ。今も俺にとり憑いてるのか」
今はいないよ。
「いつから知ってたんだ?」
さあ、ずいぶん前から。
「もう、いなくなったのか? 大丈夫なのか?」
私に聞いても知らないわよ。
ハルニナは何も語ってくれなかった。
店を出るなり、急ぐからと、北浜の駅へ歩いていってしまった。
ミリッサはタクシーを捕まえた。
まだ、深夜というには早い。しかし、地下鉄とJRを乗り継いで帰宅する気力がない。
疲れていた。
今日のことも、先日来続く、非日常の出来事にも。
タクシーの中で目をつぶっていると、フウカから連絡が入った。
イベント会社、周山企画のことを調べるつもり。
アイボリーには内緒で。
あの日来ていたアルバイトにもヒアリング。
担当は私がします、と。




