70 危ない危ない 絶対に来ちゃだめ
「あなた、よく聞いてくれた! 今、大学四年生? さっきそう言ったよね。決して財団に就職しようなんて気は起こしちゃだめよ」
「そうそう。ちょっと初任給がいいからって、エントリーなんてしちゃだめ。もし、もうエントリーしてたら、すぐに取り消した方がいい」
「ほかに内定、もらってるんでしょ。ここはお勧めできないよ。絶対に」
「どうしてなんですか?」
「財団の言ってることは嘘ばかり」
「大きな声じゃ言えないけど、老人福祉部って、何やってると思う?」
「傾聴ロボットを老人に貸し出したり売ったりする事業、なんじゃないですか?」
「あら、それなりに調べてるのね。危ない危ない。もう一度言うわよ。絶対に来ちゃだめ」
「はい……」
「ケイキちゃんってのはね」
二人が言うに、老人の話し相手、相談役、サポート役とは名ばかり。
ここで二人にひと悶着があった。
組織人の端くれとして、言ってしまっていいのか、と。
「じゃ、こう言っとく」
と、言いたかった方の女性が折れた。
「ノーウェさんはその点で優秀だった。あの子、男だけじゃなく老人をたぶらかすのも抜群に上手で」
「へえ、どういうことなんです?」
ハルニナは、食い下がってみせたそうだ。
「もう少し、就活中の学生にもわかるように教えてくださいませんか」
結局、全貌とはいかずとも、少々驚くべきことを聞くことになった。
ケイキちゃん、それは高齢者を支援するためのマスコットとされている。
そこに嘘はない。
ただ、ケイキちゃんを含む、すべての傾聴ロボット。
AIが独自で判断できないことは、質問してくるのだという。本体の組織に。
平たく言えば、どう言っておけばいいですか、と。
それを担当者が、こう言っておけと伝達する。すると、ロボットは次の同じような機会が来れば、そのように反応するということ。
「でね、財団の本当の意図は、お年寄りのお金を吸い上げること」
「ま、待って! それって、言っていいこと?」
「いいじゃない。もう噂になってるし、そのうち分かること。それに、私、今月で辞めるし」
「でも!」
さすがに言い過ぎたと思ったのか、二人はハルニナに聞かなかったことにして、と恥ずかしそうに言ったそうだ。
「ハルニナ、オマエ、なんか、とんでもないことを聞いたもんだな」
「まあねえ。まさかとは思ってたけど、高齢者の自殺が増えてるのはこれだったんだ。財団のケイキちゃんロボットがそそのかしてるって噂、本当だったんだ」
「SNSネタだと思ってたけど」
「しかもよ。ケイキちゃんって、人工知能がすべて判断してるんだと思ってたけど、違ったんだね。裏で人がメッセージを考えてた」
「ノーウェも、その一人だった、てわけだ……」
あまりに重すぎることを聞いてしまった。
ノーウェの死が殺人だと仮定して始めた調査だったが、あらぬ方に拡散してしまうかもしれない。
こんな課題に突っ込んでいけるはずがない。
学生が取り組む相手ではない。
学生だけではない。自分も含めて。
「ハルニナ、どう思う? 調査、続けるべきだろうか」
返事は思っていたものではなかった。
うん、もう、やめようか、ではなかった。
「そう? 私は続けるべきだと思うわよ。だって、こんな中途半端で終われば、やはり所詮は学生のやること、って思われるでしょ」
「しかしな」
「そう思われるのは、性に合わないのよね。ミリッサもそうでしょ。よく授業の演習で言ってるじゃない。悩んで悩んで、それはそれでいいこと。けど、結論を出さないのは、時間の無駄って」
確かにそうだ。
だが、でも、という気持ちがどうしても頭をもたげる。
「ま、フウカに伝えよう。それで彼女がどう言うかだ」
「フウカは絶対にやめないと思うな」
「なぜ、そう言える?」
「だって、私が、続けようって言うから」
なるほど、ハルニナはフウカの二年先輩。
だから、か?
フウカもハルニナも、なぜ前のめりになるのか。
ただ、それを問い質す意味はないとも思った。
教師として、サークルの顧問として、指示することではない。あくまで、フウカの発案で、皆が賛意を示して始めたことなのだ。
フウカの動機がどこにあるのか、その本意はわからなかったし、今、ハルニナの真意もどこにあるのかわからない。
いずれにしろ、顧問の講師がやめておけ、と指示までするのはよくないかもしれない。
確かに、財団というブラックボックスに恐れおののいて撤退、という記憶が自分や皆の中に残るのも癪だった。
いや、だからこそ、ここは自分が泥をかぶって、学生たちを安全地帯に。
まあいい。
今、決める必要があるわけではない。
「さあて、もうその話は終わりにしよう。次は、俺のこと」
殺されかけた理由の環境的状況は、メイメイから聞いた。
その奥にある事実の説明。これをハルニナから聞かねば。




