67 立場の違いを強調したい奴の常套手段
水曜日午後十七時。
ミリッサは、大阪の本町にある日本活力再生財団関西支部のビルの前で、ハルニナを待っていた。
遅まきながら、ミリッサが自ら手を挙げた聞き込みである。ハルニナが補佐役。
もちろん、メイメイから聞いた話を確かめるためにも、ハルニナを呼んだのだった。
御堂筋と四ツ橋筋の間、河原町にそのビルはあった。
青く塗られたエレベーターシャフトが目立つ六階建てのそのビルは、全フロアを再生財団が占めていた。
エントランスは、外からでもわかる物々しい警備でガードマンがあちこちに立っている。ロビーでハルニナを待つことさえ躊躇われた。
夕方の時間帯を選んだのは、ハルニナの授業の関係もあるが、首尾よくヒアリングが運んだ暁に、ゆっくり話がしたいと思ったからである。
ハルニナはいつものように黄色いローブ姿で現れた。
ミリッサと一緒でうれしいな、と言って、じゃ、行きましょう、と早速ロビーに入っていく。
受付に聞くと、ノーウェが所属していたのは老人福祉部という部所であり、上司を呼んでくれるという。
ロビーで待つことしばし、背広を緩く着こなした瘦身の男がやってきた。
どこか、ミーティングスペースにでも通されるのかと思ったが、ロビーの隅の立ち話で済まされるらしい。
男の名刺には、ツータック(二択)と名。老人福祉部広報宣伝課課長とあった。
同世代か少し下に見えたが、やけに尊大な態度で、
「ご用件は?」
と聞いてきた。
受付で、ノーウェの普段の様子などについて聞きたいと伝えてあるのに、改めて聞いてくるのは、立場の違いを強調したい奴の常套手段だ。
ミリッサは幾分ムッとしながら、それでも丁寧な言葉づかいで言った。
「お忙しいところ、突然押しかけまして、まことに申し訳ございません。私は」
と、大学時代の彼女との関係を話し、同級生としてハルニナを紹介した。
「彼女のことをもっと知っておいてあげたいと思いまして」
ツータックはかすかに鼻で笑ったようだった。
それなら、もう遠慮は無用。
ずけずけ聞いてやろう。
「あなたにとって、どんな部下でしたか」
ツータックは、たちまち落ち着かない様子を見せ、吐き捨てるように言った。
「警察にでも聞いたらどうです。一週間前にも刑事が来て、同じようなことを聞いていきましたよ」
構わず次の質問を繰り出す。
「ノーウェは、御社のイベント担当でしたよね。競馬場で。それはいつ頃からでしょう」
「入社当時から。これでもう、いいですか」
「ほかにもご担当されている方がおられるのでしょうか」
「当然でしょう。とても重要な仕事ですから、数名で。おたく、何を知りたいんです?」
「ノーウェは生き生きと働いでいましたでしょうか?」
「は? ええ、まあね」
「あのイベント以外に、彼女が関わっていた仕事にはどんなことが?」
「それをおたくに話す必要はありませんね」
と、そこを二人の女性が通り過ぎようとする。
ツータックが呼び止めた。
「おい、帰るのか。あれ、できたのか?」
女性たちは、明日しますねー、失礼します、と立ち止まりもせずロビーを出ていく。
ハルニナが黙って追っていった。
ミリッサはなおもいくつかの質問を続けたが、もうこの上司とやらから意味ある言葉は聞けなかった。
いかり肩でエレベーターに乗り込むのを見届けてから、ミリッサは再び受付に向かった。
「老人福祉部の責任者にお会いしたい。アポは取っていませんが、ノーウェのことについてお聞きしたいので」
受付の女性は、
「かしこまりました。少々お待ちください」
と言ってくれたものの、結局は不在とのこと。
シャットアウトされてしまった。
しかたがない。
ハルニナに連絡を取ろうとしたが、どこに行ったのやら、繋がらない。
ロビーに展示してあるケイキちゃん。
見て回るか。
連絡がつくまでここにいよう。




