66 そろそろ、してくれてもいいころ
それで、メイメイとハルニナはどうなのだ。
「ハルニナと私、二人ともルアリアン。私は昔からメイメイ。この体も意識もメイメイ」
「いつ、その誰かさんの意識が、んっと、混じってきたんだ?」
「いい質問ですね。でも、ある日と特定はできません。四、五年程前かな」
「四、五年前……。で、自分で、変わったってわかったのか?」
「いいえ。いつの間にか、私、変わったなって思う程度。でも、新しい知識とかはある。以前はこんなこと知らなかったのにな。とか、物事を違う目で見るようになったな、とか。だから、ちょっとは私も、いつしか大人になったんだなって、思ってました」
「自分がPHだと意識したのは?」
「またいい質問ですね。さすが」
「先を急げ」
「ハイハイ。きっかけは、実は鮮烈でした。ある日、というか、二年生の時、先生の授業が終わった時、ある学生が話しかけてきたんです」
「ほう」
「ミリッサ先生をいつもよく見ておいて。なにか変わったことがあれば、すべて報告しろって」
「俺を? 報告……?」
「それがハルニナ」
「えっ、そうなのか」
「でも、私、全然不自然に思わなかった。その時、すべてわかったんです」
「なにが?」
「私がPHだってこと。それに、この女性、ハルニナがルアリアンの総帥だってこと。そして、私のやらなくちゃいけないことも」
「総帥!」
「ですよ~」
「ん……、ちょっと待ってくれ。ということは、メイメイ、俺を見張るのが、君の仕事だってことか?」
「そうなんです。見張るって、人聞きが悪いですよ」
「よく見ておけって、見張るってことじゃないのか」
「うーん。ちょっと違うんです。なんていうか、先生がマニフェストしたかどうか、が重要なんですね」
「ちょっと待て。俺がPH?」
メイメイが微妙な笑みを見せた。
「ハルニナもそう言ってたでしょ。先生はPH。まだマニフェストしてないみたいですけど」
「おい!」
「そうなんだから、もう」
「俺は、だな!」
「もう、覚悟を決めてくださいよ」
「決められるか!」
「でもね、普通はそんなこと、総帥がごちゃごちゃ言うことはないんです。でも、先生は特別」
「なにが!」
「その理由は私の口からは言えませんよ。ハルニナに直接聞いてくださいな」
予想していたこととはいえ、こうストレートに言われては、心わななかせるほかない。
「なあ、メイメイ」
心の整理をするために、かなり意識して穏やかに言った。
「俺は、俺はPHとかいう、そんな人間じゃないと思う。誰かの意識が流れ込んできて、今までの俺とは違う人格になっている。そんなこと、露ほども考えていない。それにだ……」
「それに、なんです?」
「そもそも、PHなんて……」
「先生、これだけははっきりさせておきますね。私もハルニナもPHです。ルアリアンです。本人がそう言うんですから、信じてもらうしか」
思わず頭を抱えた。
他人の意識が自分の意識の中に含まれている?
「普通、マニフェストしてない人に、こんなお話をすることはありません。混乱させてしまうだけだし、そもそも意味もないから。でも、先生はハジカミに襲われた。もう、普通の人じゃない。PHなんです。マニフェストしていようがいまいが。それに」
自分は襲われ、殺されかけた……。
立ち眩みじゃない。地下馬道で倒れていたわけじゃない。
そうだ。
そうなのだ。
自分の身に起きた事実をきちんと見据えなければ。
その理由を、正しく知らなければ。
それにしても……。
「聞いてください」
「ああ……」
「今日、こんなお話をしたのも、ハルニナの意思」
「うん……、だろうな」
「彼女は、何としてでも、できるだけ早く先生にマニフェストして欲しいと考えてる。それには理由があるんです」
メイメイの手が滑って、太ももを撫で、落ち着かせようとしている。
ミリッサは、思わずその手の上に自分の手を重ねた。
「その理由。私からお話しするのはやっぱりやめておきます。これにはハルニナの個人的な思いも混じってるから。私が説明するのは違うと思う。先生自身で、ハルニナに聞いてください」
ミリッサはそれからもいろいろな質問をメイメイに投げかけた。
しかしそれからのメイメイは、ハルニナに直接聞けというばかり。
「だって、私の役割、つまり先生に前提となる事実を解説しておく、という役割は十分果たしたと思うから」
と、言うのみだった。
そして、とうとう言葉が途切れた時、メイメイは手を内股に滑り込ませ、
「そろそろ、キスしてくれてもいいころだと思うんだけど」
と、ゆっくり瞬きをしてみせたのだった。
「へへ、冗談ですよ。ハルニナに怒られるし」
と、笑いながら。
「それに、逆セクハラかな」




