64 言い方を変えると、死んでも蘇る人
「私、話の組み立てが下手ね。ごめんなさい。蛇の話は置いておいて。先生」
「ん? 置いておくのか」
「そう。で、先生。人って、ひとつの種族だと思ってるでしょ」
「だろ?」
「大きく捉えれば、そうなる。でも、ちょっと違う」
「人種ってこと?」
「いいえ、それはもっと小さな差異。もう少し大きな違いが」
「新説だな」
「ううん。今、ゾンビって話題になってるでしょ。そのゾンビって種類。でも」
ゾンビではない。
そうとしか表現方法を思いつかない人がいるから。
実際は死なない人。
言い方を変えると、死んでも蘇る人。
「先生、人は死ぬと、どうなると思う?」
「死体というただの有機物」
「そう。でも、精神は?」
「脳が死ぬんだから、消えるだろ」
「正解。でも、じゃ、意識って?」
「脳内に発生する化学反応によって……。おい、質問じゃなく、ストレートに話してくれ」
「はい。すみません。意識ってものは脳内で発生するけど、それに伴って、いくつかの微粒子の集合体が作られる」
その集合体は、脳内に留まるだけではなく外部にも放出される。
人に見られている気がして振り向けば、そこに人が、ってこと、あるでしょ。
テレパシーと言われることもある。
それらの現象は、意識の微粒子が外部に放出されてるって証拠。
微粒子はそんなに長くは生きられない。
どんどん解体される。
でも、ある規模の集合体になると、話は変わってくる。
少しは長生きできるようになる。
と言っても、コンマ数秒とかの間。人によって違うけどね。一、二分とか。
人が死んだとき、そんな意識の集合体も寄る辺をなくして消滅する。
瞬時に消滅する人もいるし、しばらくはそのあたりに浮遊している人もいる。
でも、かなりの時間、消滅しない、つまり、とても強い集合体を作り出す人もいるわけ。
それらの人は、死んでも意識の集合体は周囲に留まり続ける。
いわゆる人魂ってやつ。
実際は目に見えないけどね。
留まるだけじゃなく、寄る辺を探す集合体もある。
元々、微粒子の塊。さらに言えば素粒子の変異体が膨大な量、固まったもの。
だから、どこにでも行ける。というより、どこにでも同時に存在することさえできる。
寄る辺となる他人を見つけて、そこに移り住むために。
というわけ。
「既存の意識と共存する、あるいは乗っ取る」
「それって、とんでもないことじゃ……」
「そうね。他人の意識が入ってきた方の人にとってはね」
「それが、PH……」
「そう。パーフェクトヒューマン」
「にしても、乗っ取るってのは……」
「完全に乗っ取っちゃうわけじゃない。それに、他人の意識が入ってきたことを意識させないやり方もある」
「ふうむ。それが?」
「PHの中のルアリアンと呼ばれるグループ」
「ルアリアン……。もう一つの方、えっと」
「カニ、ね」
「で、そのカニってのは?」
「二つの意識が並列して存在することになる」
聞いたこともない話だ。
鵜呑みにはできない。
聞き流す程度に聞いておこう。
「どっちの方がいいと思う? どっちの方が紳士的?」
「なに言ってるんだ。どっちもよくないだろ」
「そう? 本当に、そう思う?」
「当たり前だ。どっちにしろ他人の意識に入り込むんだろ」
「そうなんだけど。いいこともあるよ。長い長い間に蓄積された知識や経験の一部がその人のものになるんだから」
「そんなもの、自分で習得していくべきものだろ」
「とも、言えないのね」
「なぜ」
「だって、結局、世にいう天才って、ほぼ、そういうことなんだから。彼らが人類の文明を作り上げてきたとも言えるんだから。でしょ?」
メイメイは力説していたわけではない。
そういう考えもあるんじゃない、と半ば他人事のように解説してくれる。
小さな体をわななかせるわけでもなし、強い視線を向けてくるわけでもなし。むしろ、足元のアリに言い聞かせているかのように、穏やかに話してくれている。
そうだ。
ここで拒絶したり熱くなっても意味はない。
もともと、メイメイは他の学生とは少し違う大人の女性。この認識。これは変わらない。
誠実で真面目、静かだが強い心、この印象も変わらない。
他の学生ならいざ知らず、メイメイが、そういう人類がいると言うのなら、まずは受け入れなければいけないのかもしれない。
信じる信じないに関わらず。
「で、マニフェスト。この説明をまだ聞いてないぞ」
「簡単なこと」
他人の意識の塊が自分の意識に流れ込んできたからといって、自動的に変革が訪れるわけじゃない。
入り込んだ意識が、活動を始めるっていうのかな、どういえばわかりやすいかな。
つまり、入り込まれた人が変化していく、逆に言うと入り込んできた意識を自分のものにしていく、そのステージに進んだ状態をマニフェストした、っていうのよ。
「なるほど、意識の塊は寄る辺となる人を探し出し、そこに乗り移るが、だからといって、悪さはしない状態もあるってことか」
「悪さって言い方は別にして、そういうこと」




