61 なにか、あるはず
依然、何も起きない。
十分経過、十五分経過。二十分経過。
ようやく突き当りからルリイアが姿を現した。
直後、ケイキちゃん。
突き当りのところで、二人が立ち止まった。
ケイキちゃんが繋いだ手を振りほどいた。
ルリイアが手を差し出し、繋ごうとするが、ケイキちゃんはそれを無視して歩いてくる。
仕方なく、という様子でルリイアが追い越し先に立った。
階段のところまで来て、立ち止まった。
振り返って、頭を下げながら何か話している。
と、ルリイアは元来た道を戻り、突き当りを右に消えた。
画面に目を凝らす。
ケイキちゃんの様子に。
周囲の変化に。
画面の縁に現れるかもしれない何かに。
ケイキちゃんは、背を見せ、突き当りの方を向いてルリイアの戻りを待っている。
下り階段のすぐそばで。
一歩でも左に動けば、階段の一段目。
一分、二分と過ぎていく。
ミリッサは、少しほっとした。
ノーウェが自分の姿を見たわけではない。
エレベータには背を向けている。
しかし、もうこのことはどうでもいい。
画面の変化に注意せねば。
ん!
ケイキちゃんが右を向くと同時に右足を後ろに引いた。
あっ。
踵が階段にかかった。
ああっ!
ケイキちゃんがバランスを崩した。
危ない!
のけぞるようにして、ケイキちゃんは背中から階段に落ちていき、画面から消えた。
それだけだった。
ミリッサは、最初の方針を変更して、二人が突き当りから現れるところから再生した。
なにか、あるはず。
でなければ、ケイキちゃんがあんなふうに足を引くことはなかったはず。
ん、待てよ。そうか。
着ぐるみ、足元は見えていないのではないか。
さらに言えば、階段のすぐ横に立っていると思ってさえいなかったのではないか。
いや、足元は見えずとも、階段のすぐ横に立っているのはわかっていたはずか。
何度再生してみても、ケイキちゃんの動き以外になにも発見できなかった。
データエラーであろう黒い小さな点が右端にちらりと現れ、白い筋が走っただけ。
ケイキちゃんが階段に落ち込んでから四分半経過。
突き当りからルリイアが現れた。
走ってきて、画面下に消えた。
再び訪れる静寂。
しばらくして画面下から警備員が走り出てきた。
階段のところまで行き、下を見て一瞬立ち止まり、慌てふためいて降りて行った。
すべてがそれだけだった。
動画は終了した。
ミリッサは椅子の背にもたれ、目を瞑った。
深夜零時をとうに回っている。
目の奥が重く感じる。頭も淀んでいる。
警察もそれこそ何度も見たことだろう。
あとはジンの観察を待つのみ。
もう自分が何度見直しても、発見できることはないだろうと思った。




