6 プロローグ 六 ところであなた
「ところであなた、あそこで何をしてたんです?」
刑事に何度聞かれようとも、答えることはできない。
それが己の身に極めて不利になることはわかっている。
それでも、事の経緯を正しく説明することはできない。
なぜ白骨死体を発見するに至ったか、など言えるはずもない。
黙っていれば、刑事達の頭に、犯人は犯行現場に戻ってくるというジンクスが浮かぶ。
しかし、信じてもらえないことをいくら声高に説明しても、状況は悪くなるばかり。
「話せないのです」
「なぜ、です?」
「わかりません」
などというやり取りを続ければ続けるほど、己が首を絞める。
「それでは、もう一度お聞きします。死体発見当時の状況を」
「もう何度も」
「ええ、なんども同じことをお聞かせ願うのは刑事の習性ですので」
不毛なやり取りが続く。
「あなたの話は辻褄が合いません。というより、隠されていること、抜けているところが多すぎて全貌が一向に掴めない」
「……」
「ここで何泊もするのは、気がすすまれないでしょう」
「当然だ」
「なら、すべて話されたらいかがです?」
「……」
「それにあなた、数カ月前、競馬場で起きた事故にも関係されているんでしょう。その時もまさに、あなた、現場におられた。そして死んだ人、その人も、先生、あなたの教え子」
「いい加減にしてくれ……」
そのころ、同じ警察署のロビーでは、ひと悶着が起きていた。
妖怪界七人衆の一人、化け猫とは私のことぞ!
刮目するのじゃ!
これが本当の私!
大きな目がますます見開かれ、体中に変化が現れた。
ググッと背が縮んで、四足になり、衣服は消えて大きな、黒い猫の姿になった。
その顔は明らかに怒り狂い、牙を剥き出し、爪を現し、背中の毛は逆立つ。
取り囲んだ刑事から悲鳴が上がった。
拳銃を取り出す者もいる。受付の非常ベルを押しに走る刑事もいた。
それは一瞬の出来事だった。