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58 教える側の印象とあまりに違う噂、あるいは事実

「ノーウェ先輩とジーオ先輩は仲良し。でも、もう一人いたんだ。仲良しが」

 ハルニナが微妙に笑ったが、何も言わなかった。

「アンジェリナっていう人なんだけど、職員の間で話題になったらしい」


 ノーウェと仲良しとはいえ、まるで上司と部下。

 もっと言えば隷属的でさえあったという。

「いつもノーウェ先輩に用事を言いつけられていて」



 ミリッサは、アンジェリナという名、ノーウェとジーオと一緒にいた学生、という言葉を、当時の授業中の光景の記憶の中に転がしてみた。

 名前はピンとこない。

 授業中の光景の中にもない。

 成績は?

 これも記憶を蘇らせる効果はない。



「情報源を明かすのはどうかと思うから言わないけど、泣いてる姿を見かけた職員もいたのよ」


 ミリッサの中に、おぼろな記憶が姿を現した。

 おとなしい、目立たない学生で……。

 顔や姿は見えてこないが、なんとなく、ノーウェがいつもきつい調子で話していた学生……。


「そういや、アンジェリナって人、大学の助手してなかった?」

 そう言ったのは、アイボリーだった。

「去年、ちょっとの間、いた人」



 完全に迂闊だった。

 そうだった。


 ほんのひと月ほどだろうか。

 結局、挨拶もしなかったし顔を合わすこともなかったが、アンジェリナがアルバイト的に大学に来ていると聞いたことを思い出した。

 それほど、ミリッサにとって印象の薄い学生だったわけだ。



「メイメイ、でも、それって、その先輩が今度の事件に絡んでるかもってこと?」

 フウカの問いにメイメイは、首を横に振った。

「さあ、わからない。アリかもしれないけど、どうかな」

「ウーム」

 ハルニナが首を傾げた。


「ま、何でもかんでも、怪しいって方向に持っていこうとしてるんじゃないし。そんな情報も出てきた、ってだけのこと。さっきも言ったけど、全部、噂レベルだし」

「そう?」

「先生はどう思う?」



 どう思うと聞かれても……。

 ミリッサは、ノーウェに対する気持ちをこの娘たちに見透かされているのではないかという気にさえなった。

 教える側の印象とあまりに違う噂、あるいは事実。

 これを突きつけられて、まともに相槌を打つこともできなかった。


 幸い、メイメイはしつこく聞いてくることなく、報告は以上、とハルニナにバトンを渡した。




 ハルニナの担当は、ノーウェの会社の交友関係を洗うこと。

 だが、まだ報告することはない、とのことだった。

 当然である。

 ミリッサが担当で、ハルニナは補佐役。

 申しわけないが、実際、まだ何もしていない。



 ジンがスペーシアを見ている。

 スペーシアはどこ吹く風で、巻き寿司に手を伸ばしたかと思えば、ピザを頬張る。

 ハイボールの缶に口をつけ、今度はたこ焼きに爪楊枝を突き刺す。

 会議が始まってから、一言も口をきかない。

 何が話し合われているのかさえ、分からないだろう。

 誰も教えようとしない。

 それならそれで、聞けばよいものを。

 ミリッサも少し意地悪な気持ちになって、触れないでいた。

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