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50 どんな嘘でもつく

 やっと詰所からジンが顔を出した。

「データ移行完了~」

「やれやれ」

「なにが、やれやれなんですか!」

「いや、こっちのこと」

「もしかして、遅すぎって怒ってた? 早送りで見ながらダビングしてたから」


 ジンがメモを取っていた。

 簡単に説明してくれる。

 動画は三時間分。開始時刻は午前十時零分。

 事故があったのは、第四レースの少し後、午前十一時三十五分ごろ。


 映像には、二階廊下が映っている。

 事故のあった廊下を南側から、つまりノーウェが落ちた階段の降り口を左手に見る格好で、廊下が続いている。


「動画の中ほどで、ケイキちゃん姿のノーウェ先輩とルリイア先輩が突き当りの右から出てきて、こちらに向かって歩いてきます。そこからが問題のシーンです」

「うむ。じっくり見てみよう」

「ですね」



 警備員に礼を言って立ち去りかけると、声をかけてきた。

「これより前や後の動画も必要でしたら、またお声掛けください。なにも映っていないようでしたけど」

「ありがとうございます。念のためお聞きしますが、当然、警察もこの動画、同じものを見てるんですよね」

「むろんです。むしろ、元データはまだ警察にあります。お渡ししたのは、常に取ってあるバックアップのコピーです。少々画質は落ちますが」




 二階の売店まで戻ってきてジンと別れた。

 売店の店員や、付近の客に聞き込みをするのだという。


 清掃員の女性と目が合った。

 手招きされて近づいていくと、声を潜めて言われた。


「さっき、アサツリと話していたね。気を付けた方がいいよ。昨日も言ったけど、あいつ、曲者だから」

 清掃員は、苦々しげに口をゆがめると、清掃の手を止めずになおも言う。

「あいつは、ルリイアさんのためなら、どんな嘘でもつく」

 そのせいで、清掃員も含めて多くの者が迷惑をこうむっているという。


「そうなんですか」

「聞きたいかい」

「ええ。お願いします」

「フン、つまらない話。例えばね」


 ある日、二階のラウンジで、暴れだした男性客がいたという。

 負けた腹いせに、設えられたソファーに酒をぶちまけた挙句に横倒しにしたという。

 それをルリイアがなだめて、元通りにしようとしたことがその男の神経を逆なでした。

 ますます暴れて大騒ぎになったという。

 その原因を作ったのは、客の方だったが、ルリイアの対応のまずさもあったのかもしれない。

 しかし、アサツリが書いた報告書には、警備員と客とのトラブルとされてあり、警備員の接客研修が必要とまで書かれてあったという。


「まだまだあるよ」

 来場者向けのイベントとして開催されたセミナーの開始時刻が遅れたことがあった。

 原因は、ルリイアのうっかりミス。開始前にセッティングしておくべきチェアが足りなかったことだが、これも、事前の会場清掃の遅延による不手際、ということになっていた。


「大迷惑だったよ。ま、あれだよ。あいつはあれでルリイアさんに尽くしているつもりなんだろ。でも、相手にされない。あの子は賢いからね。で、エスカレートしてるんだろ。今度はどんな嘘をつくのか、知れたもんじゃないよ」


 ご忠告、ありがとうございます。

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