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5 プロローグ 五 これまで味わったことのない感覚

 オレは、ヒキを咥え、側溝に身を落ち着けた。

 底は砂や落ち葉に湿り気があって心地よい。

 ここでこやつを。


 と、ヒトの気配。

 数人連れのハイカーが登ってくる。

 やれ、お楽しみの刻だというに。

 だが、じっとしておれば気づきはしまい。


 が、ヒキめ、ここぞとばかりに暴れだしよった。

 枯葉が乾いた音をたてる。


 ちっ。


 近づいてくる。


 くっ。

 こやつら。

 スマホまで構えて。


 ヒトの目に映る姿をしておったのがまずかったか。

 オレは見世物じゃないぞ。


 クソッ。


 鼻先にレンズを突き付けられては、こやつを飲み込むこともできやせぬ。

 無念だが、まあ、また捕えればよい。

 ここはひとまず退散。

 忌々しい。



 咥えたヒキを離し、若衆の足元に飛び出した。

 娘の足に噛みついてやる!

 フン!

 せいぜい仰天すればよいわ!



 あっ!

 な!

 尻尾をつかまれた!


 あああっ!


 逆さ吊りにされたかと思うと、たちまち首元を掴まれた。



 砂利を満載したトラックが勢いよく通り過ぎていった。

 痛っ。

 娘の声。

 跳ね飛ばされた石が当たったようだ。



 ん!


 オレを掴んだ娘。

 顔を近づけてきて、オレの目を見つめている。


 こやつ!


 えっ!


 頭部に唇を寄せられた。

「巳さん、危ないでしょ。道路に飛び出したら」


「わあ、アンジェリナ、蛇、触れるんだ!」

「さっきのカエル、まだそこら辺にいるでしょ。さ」

 と、藪の中に逃がしてくれた。

「ごめんね、お食事の邪魔をして」



 確かに。

 運が悪ければトラックに轢かれていたやもしれぬ。

 その後に待つ運命は砂利道に貼り付いた干物だ。



 オレは、アンジェリナという名を覚えた。

 そして、胸にこれまで味わったことのない感覚が生まれた。

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