47 あく・じょぉ?!
ミリッサは、昨日、彼らから聞き取ったことをジンに話して聞かせた。
「監視カメラの画像、もらう予定だ」
「おっ、すごいすごい。飯食ってる場合じゃないな」
「まあな。昼飯はおにぎりでも買おう」
清掃員、警備員、どちらでもいい。
まずは探し出そう。きっと、同じ持ち場にいるだろう。
ノーウェが死んだあの階段の辺りに。
二人して歩き出すと、ジンが体を寄せてきた。
「スペーシアにも参加してもらうのかな」
「さあ、フウカが決めるだろ」
「あの子、事件の時、いたかな」
「いた」
「そう……」
ジンは、スペーシアを苦手としている。
ジンだけではない。
フウカは、さわらぬ神に祟りなし、という態度だし、ハルニナやランはほぼ相手にしていない。
スペーシアが自分から動くことはない。
全体のために、という意識がないのだ。
しかし、全員で何か事を成し遂げたときには、記念写真の中央に収まる。
そんなタイプ。
授業でのグループワークでもそうだし、サークルにおいてもそう。
いわゆる困ったちゃんなのである。
ミリッサは講師として、また顧問として、分け隔てなく接していても、呼応してくれなければ手の施しようがない。
「結束がどうなるか、だよね」
ジンの危惧はもっともだが、こればかりは成り行き任せにならざるを得ない。
「岡山のおばあさん、もっと長生きしてくれたらよかったのにね」
「おいおい。それ、意味、違うだろ」
ノーウェ殺人事件の真相調査というデリケートな課題に、スペーシアはどう反応し、どう行動するだろう。
決して面と向かっては言えないが、できることなら関わって欲しくない、と思うのはジンだけではあるまい。
「でもさ」
ジンは、さらに言いにくいことなのか、声を潜めた。
「なんていうか、これって、無駄じゃない?」
「ん?」
「決して、いやだって言ってるんじゃないよ。なんていうか」
と、じれったい。
それはそうだろう。
疑問はもっとも。
素人探偵に何ができる、と言いたいのだろう。
しかも、今やジンの心にはスペーシアが影を落としている。
少し違った。
「ノーウェ先輩って、ミリッサ、どう思う?」
「ん?」
「だから、好きかってこと」
「好きとか嫌いとか、はないけど」
「まあね。でも」
どことなくジンは、ノーウェのことが気に入らなかったらしい。
ストレートに言う。
「あの人、良くない噂があるし」
「へえ、どんな?」
「競馬場では見かけたけど、ボクは直接話したことはないと思う。挨拶くらいはしたかなあ」
確かに学校で、サークルで、ジンとノーウェに接点はない。
フウカでさえそのはずだ。
「でも、噂は何年も学校内に残るもんだし。特に、ああいう死に方をしたなら」
ジンが、少年のように肩をすくめた。
「いわゆる、悪女」
「えっ?」
我ながら、変なリアクションだったと思った。
「あく・じょぉ?!」
「そうさ。噂ではね」
「どんな?」
「男をさ、そう、たぶらかしては、ひどい捨て方をする、というか、男を漁って遊んでるって」
相槌を打つことはできなかった。
「そんな噂が?」
「先生たちはあまり知らないかもしれないけど、授業準備室とか、職員連中の中では有名な話らしいよ」
「へえ」
「だからさ、なんかこう、殺人事件ってのは、あり得るかもなあと思うんだ。解決を目指してって、なにか、あまり気乗りしないんだな」
「……」
「なにか、本当にどろどろしたところに嵌っていきそうな気がして」
ジンは、だからって手は抜かないよ、と顎を引いた。




