42 このみょうちきりんな話を信じて
ハルニナの声が続く。
少し遠くに聞こえる。
この世には、不思議な存在がある。
普通の人にとっては、という意味での不思議。
その存在にとっては、自分が不思議、なんて思っていないから。
PH。
そう聞いて、どう感じる。
なにか、感じない?
そう……。
まだ、何も?
でも、本当は心がかきむしられていない?
心が乱れて、いてもたってもいられないんじゃない?
どうして?
もうとっくに、マニフェストしてていいはずなのに。
いくら何でも、遅すぎるよ。
四十以上になって、まだマニフェストしないなんて。
それとも蛇に邪魔されてた?
もっと、話さなきゃダメ?
説明しなくちゃダメ?
ここだって、誰かに聞かれているかもしれない。
話したくないのよ。
言葉にしたくないのよ。
お願い。
もう。
仕方ないか……。
じゃ、もう少し話すわ。
PH。
ピーエイチ。
パーフェクト・ヒューマン。
それは、人の意識の連鎖。
言い換えれば、不滅の意識のつながり。
私はハルニナであって、ハルニナではない。
私の本当の名はさすがにここでは言わないわ。
忘れたし。
私の心はハルニナだけのものじゃない。
ハルニナは、私であって、別の女性。
その女性に、私の心は住み着いた。
ミリッサ。
あなたの名前も、ここでは言わない。
今まで通り、ミリッサ先生と呼びます。
待っているのよ。
あなたを。
強く。
とても強く。
理由があるのよ。
カニが勢力を伸ばしていて。
ルアリアンは押され気味。
戦いが始まっているのよ。
あなたの力が必要。
私を助けて。
お願い。
助けて。
私たちを。
ミリッサは、PHもカニもルアリアンも、マニフェストとは、も全く理解できないでいた。
そう言った。
しかし、ハルニナは小さくため息をつき、ここではこれ以上話せないと言った。
じゃ、どこでなら。
と思ってしまった自分に驚いた。
知りたいのか、と自問もしてみた。
はっきりしない。
知ってどうする。
興味があるのか。
このみょうちきりんな話を、ハルニナを、信じているのか。
嘘を、出まかせを、あるいは……。
ハルニナは……。
とは思わない。
ちがう。
ハルニナは正気。
その証拠……。
そうだ。
四年前の、あの下校時のこと。神社での話。
あれから続いているのだ。
ハルニナの中で、この話は。
ふと思った。
最近のハルニナの変化。
溌溂として笑ってばかりいたハルニナはどこに行った。
何が、この娘を変えたのか。
ハルニナじゃない誰かに心を乗っ取られたから?
いや、これも、違う。
四年前から、その状態が続いているのなら。
戦い?
戦いが不利だから?
それとも、別の理由が?
俺に関係した何かが?
いったい、俺がなんだというのか。
助けて?
マニフェスト?
俺の力が必要?
まさか。
まさかな。




