33 長居をしすぎたかもしれない
アケビ。
実っているという斜面に差し掛かった。
渡れるところは。
ここだな。
ミリッサは道を外れ、沢の斜面を降りていった。
一応は見ておこう。
守衛に報告もしなければいけない。
ランはついてこない。
下の水面までわずか。
草が生えているばかりで、視界を遮るものはところどころ、馬酔木の茂みのみ。
五メートルほど下って、沢岸に降り立った。
振り返って、ランがそこにいることを確かめて川面を向いた。
大小の石が水面から転々と濡れた顔を出している。
増水しているとはいえ、水は浅い。せいぜい、足首を洗うほど。
ただ、学生たちは渡れまい。
何人かは足を水に落とすだろう。
なるほど、あれか。
川岸のヤマモミジにアケビが絡みついている。
来週、授業をするとしても、自分だけ行って実を取ってくるのがいいだろう。
おとなしく道で待っているだろうか。
ミリッサは、まずは渡ってみて、と考えて、一つ目の石に足を延ばした。
と、声がしたような気がした。
チガウ、と。
そしてまた。
ワタルナ。
チガウ。
ラン?
冷たい風が吹いてきて、急に寒気がした。
思わず、あたりを見回した。
何も変わったところはない。
ただ、水音がするだけ。
なんとなく気分がそがれた。
そこまでする必要はない、という気がした。
アケビを見せて、というアトラクションは是非にでもする必要があるわけではない。
やめだ。
径まで上がった。
ランは黙って待っていた。
少し心配そうな顔をして。
「なにか、言ったか?」
問うと、ランは怪訝な顔をし、首を横に振った。
それでも、何も言わず、今度は考え込むように眉間に皺を寄せた。
長居をしすぎたかもしれない。
つい、ランの快調な足取りに、気分がハイになっていたのかもしれない。
もうすぐ陽が落ちる。
そうすれば、ここは闇に覆われる。
星々と下界の明かりだけが頼り、という世界が訪れる。
まだ日没までには小一時間ほどあるだろうが、山の日暮れは早い。
急ごう。
下り始めてすぐ、振り返らずにランが聞いてきた。
「私、何も言ってませんけど、なにか聞こえたんですか?」
ミリッサは、聞こえた気がしただけ、と応えた。
十分ちょっとで十二号館のバックヤードまで帰りついた。
ここまで降りてきてみると、まだ西の空には浅い夕焼けが広がっている。
学舎がその茜空の助けを借りて、より鮮やかなレンガ色を際立たせている。
いつもと同じ。
学生たちの明るい笑い声が聞こえてきた。
「ありがとうございました」
ランがぺこりと頭を下げた。
「楽しかった」
「ああ。じゃ、帰ろうか」
「はい。でも、来週の授業、予定通りで」
「どうするかな」
「お願いします」
駅へ向かうバス通り。
ランの言葉数は相変わらず少ない。
以前ほどではないにしろ、話したとしても、短い言葉の連続。
が、思いもかけない誘いを受けた。
来週も一緒に帰りたい。大切な話があるから。
ランがそんなことを言うとは。
トラップではない、とミリッサは思おうとした。




