29 一応はさよなら、と小さく手を振って
居残った学生が一人去り、二人去り。
ランとメイメイだけに。
ランと違って、メイメイは盛んに何かを書き込んでいる。
デザインのスタイルは人それぞれ。
いきなり書き始める子や、頭の中でじっくり構成を考えてから書き始める子。書き直しばかりをして全く進まない子。
メイメイは、丁寧に下書きをして、その段階で推敲に時間をかけ、最後の最後に一気に仕上げていくというタイプ。
ミリッサ自身と似ている。
ランはと言えば、いきなり書き始めて最後までその最初の構想のまま突っ走っていくタイプ。
いいアイデアからスタートした時には仕上げにも時間を使えるが、今一つのアイデアからスタートした時には、途中で投げ出しそうになっている。
小柄な二人。
フェアリーカラーとエメラルドグリーンの瞳を持つランに比べて、メイメイはラン以上に小柄で童顔。若草色の髪以外に特徴はない。
どうしても見劣りしてしまう。ただそれは、外見的存在感という意味であって、メイメイが芯の強い大人の女性であることをミリッサは感じ取っていた。
そもそもこの二人。
他の三年生とはほとんど交わらない。
常に、ひとり行動だ。
メイメイはたまにハルニナと話していることがあるが、ランは競馬メンバー以外と話をしているのを見たことがない。
その二人が今日、ここで静かなバトルになるとは。
いや、我慢比べ。
メイメイが、チラとランを見た。
まだ、続ける気?
というわけだ。
こんな時、ふたり同時に終わってくれたらいいのに、とミリッサは思う。
三人で帰ればいいじゃないか、と。
しかし、決してそうはならない。
意地の張り合いなのだから。
最後まで居残り勝ちした人がミリッサと帰ることになる、あるいは一緒に帰る権利を得るという、いつしかできてしまったパターンには、いささかうんざりしている。
時間の無駄。
お互いに。
それに、なんとなく不公平。
陰口を叩かれているかもしれないのだ。ミリッサ先生は気に入った学生を居残らせて、一緒に下校しようとしていると。
そういえば、職員が居残りの様子を見に来たこともあった。
何かいい手はないものか、と思うが妙案はまだ浮かんでこない。
案の定、メイメイはかすかにため息をついて、
「できました! すみませんでした! 先生、遅くまで」
と、ランにチクリと嫌味。
そうか。
メイメイは、サークル入部一週間も経っていない。
入部の動機など、なにか話したかったのかもしれない。
それなら、なおさらランと一緒に、ということになるが、誰に対してもミリッサの方から一緒に帰ろうか、とは絶対に言えることではない。
とうとう教室にはランだけに。
もともと手は動いていない。
メイメイが出て行ってすぐ、ランも一応はさよなら、と小さく手を振って教室を出て行った。




