28 ジン! 静かにしなさい
午後になり、雨は止んだ。
三限と四限、いずれも三年生の授業である。
心理的提案技法論と先鋭色彩技術論。
ジン、ラン、メイメイ、そしてアイボリーが出席。
ハルニナの姿はなかった。
昼休みの部活にはいたのに。
最近、出席率が低い。
単位が危ういというのに、とミリッサは思ったが、すぐに忘れた。
出席は必須ではないが、出席してくれないことには救いようがない。授業に集中。
いずれも、論という名が授業名についているが、デザイン演習要素を含んでいる。
学生たちがプチ演習に取り組んでいる机の間を歩き回り、その場でアドバイスを与えていく。
時には、自ら学生たちの演習用紙に書き込んでいく。
例えば、こういう形状はどうだい、こういう構成の方がよくないかい、ほら、こうやって描くとテクスチャーが、というわけだ。
前から横から後ろから、年頃の娘に接近するわけだから、身体に触れないよう、いらぬ方向に目がいかぬよう、気をつかう。
胸元を押さえる学生もいるが、概して無頓着だ。
もちろん、私語は禁止。
しかし、演習ともなると、互いに見せ合ったりして会話が生まれる。
少々のことは大目に見ているが、殺人事件、という声が聞こえた。
抑えた声だが、聴きなれない言葉だけに、幾人かが振り返る。
「ジン! 静かにしなさい」
発言の主はしおらしく謝ったが、話しかけられた方のアイボリーは少し驚いたような眼をして親友を見ていた。
仲良しの二人である。いつも並んで座っている。つい、話してしまったのだろう。
ミリッサは、至急、かん口令を敷かねば、と思った。
ただでさえ白い目で見られがちな競馬サークル。その上に、殺人事件の捜査に首を突っ込むなど、大学当局に知れたら印象悪化は免れない。
四限終了のチャイムが鳴った。
デザイン演習のプリントを回収し、教室を出ていく学生たちに挨拶を返し、少しづつ後片付けを始めながら、教室に居残る学生たちを眺めた。
演習は決められた時間内に終わること。
これがモットーであるし、それが実社会に出た時にも役に立つ。
しかし、あと少しだけやらせて、もう少しで完成するから、と言う学生からプリントを奪い取るわけにもいかない。
テストであれば別だが、日々の訓練なのである。
今日の居残りには、珍しくランがいた。
いつもは終業のチャイムともに、プリントを投げ出すように提出して教室を飛び出していくのに。
ははあ、一緒に駅まで帰ろうという気だな。
ランはくりくりした目を向けてきては、プリントに目を落とす。
手はもうあまり動いていない。




