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265 初詣? 妖の私が?

「初詣? 妖の私が? 変だと思うけど」

 というランを無理やり連れだし、競馬サークルR&Hは、京都藤森神社でお賽銭をあげていた。

 もう、ノーウェやアンジェリナの話題も、フウカの話題さえ出ることはない。



 あのお館様の御殿の白砂の上でフウカが語った直後には、ハルニナはこう言ったものだ。


「だから最初に言ったでしょ。馬が教えてくれるって」


 京都競馬場、秋のG1レースの勝ち馬。

 覚えてる?

 こうよ。



 秋華賞

  一着 イトシノレイチェル、の「イ」

  二着 ウタエチョットマ、の「ウ」

  三着 ジェイピーゼロイチ、の「ジ」

  四着 ミンナノレイチェル

  五着 ニゲロアヤ


 菊花賞

  一着 ハクシュウノリキガク、の「リ」

  二着 レイチェルノウソ、の「ウ」

  三着 マコトノデンセツ、の「デ」

  四着 アレガハツコイ

  五着 ハクシュウノウワキ


 エリザベス女王杯

  一着 アイラブサリ、の「ア」

  二着 マモノノカタオモイ、の「カ」

  三着 ライラノロマンス、の「ロ」

  四着 ツレナイニニ

  五着 ワスレジノ


 マイルチャンピオンシップ

  一着 ルンチャッチャ、の「ル」

  二着 イコマファイル、の「フ」

  三着 ウソノカオリ、の「ウ」 

  四着 サリノオモイデ

  五着 オレガワルカッタ



 ね、それでね。


 各一着の馬名からは、ルリイア。

 各二着の馬名からは、フウウカ。

 各三着の馬名からは、デジロウ。


 という名が連想される。



「でも、外したよ」

 と、茶化すジンに、

「往々にして一番人気は来ないってこと」

 とハルニナは笑いを取ったものだ。


「もし、マイルチャンピオンシップにボクラノレイチェルが来たら、ルリイアの代わりにアイボリーとなるところだったし、ミリッサもアサツリもここに名を刻む可能性はあったんだよ。例えばアサツリなら」

「もう、意味ないし」

「じゃ、ミリッサの場合は」

「聞きたくないって」

 と、ジンが笑って切り捨てたものだ。


 それきり、あの事件の話題は封印されたわけではないが、誰も口にしない。

 フウカのフクロウにも草、つまり何らかの小妖怪が取り付いていたという。

 そいつが何者なのか、どうなったのか、ミリッサ含めて、誰も関心はない。



 むしろ、関心はR&Hの幸いな未来。

 次の三年生には、入部希望者がたくさんいると聞く。

 初めて他の学部からも。ミリッサの授業を受けていない学生も。



 今、部長は欠員。

 春になれば、決まるだろう。

 ジンか、アイボリーに。

 ランの可能性だってある。

 学校をやめると言い出しているが、さて、どうなることやら。

 きっと、残ってくれる。


 もちろん、実は妖怪だ、なんてことは白砂に集ったメンバー以外には知られていない。



 あれ以来、ミリッサは誰とも個人的に話す機会はなかった。

 ジンともアイボリーともルリイアとも。

 できればハルニナとは話しておきたかったが。

 話し足りないことがあるような気がして。


 そして誰よりも、フウカと。

 何を話すか、難しいが、お館様が言ったように、自分の気持ちをきちんと言葉にして。

 そして謝らなくては、と思っていた。




「ガリさんのこと、どうする?」

 ジンとアイボリーが話している。

「職員がサークルに入ったらダメっていう決まり、あるのかな」

「さあ」

「入ってくれたらうれしいね」

「彼女、ストイックだから、的中の嵐だったりして」

「じゃ、ミリッサ先生、形なしだ」



 ハルニナは、今度こそ卒業をものにすることができるだろう。

 大学をやめると言い出したが、引き止めが奏功し、猛勉強を始めたのだ。

 今更ながらだが、卒業論文にも精を出している。

 もともと、頭はいい。

 無事卒業できるだろう。

 PHカニとの抗争次第ではあろうが、こちらはメイメイがきちんと補佐している。



「来季のサークルのルール、見直さない?」

「追加でしょ」

「パドックは見る」

「先輩後輩の区別はなし」

「レースとパドック以外では人を束縛しない。自由行動」

「各自勝負レースを決め、買い目公表」

「ミリッサが言うように、各人、常に品格ある行動を」

「これまで通りね。それ以外に?」

「こんなのはどう? ペットロボット禁止」

「えっ、ジン。三四郎、連れてこないの?」

「うん」

「ふーん。でも、競馬と関係ない禁止事項はねえ」

「じゃ、G1レース日は複勝転がしをやる」

「それはいいかも。楽しいし。でも、それってルール?」

「部活、たまにはテニスコートの庭園でやる。藤棚のベンチで」

「さあ、先生がいいって言ったらね」

「それから、それから、えっと、もう思いつかないね」

「結局、ほとんど今まで通り、よね」


 年末の有馬記念現地参戦は、中止になった。

 四年生のハルニナとスペーシア。

 私のために気を使わないで、とスペーシアが固辞したのだ。

 ハルニナはもともと多忙。行けはしない。

 ジンとアイボリーが話し合い、次年度に繰り越したのだった。 



 ジンのトカゲに、妖怪はもういない。

 しかし、ジンのペット熱も冷めたようだ。

 アイボリーは卒論のテーマを変更した。

 公営競馬の地域経済に与える影響(京都編)、という無難なテーマに。

 メイメイは大学職員の道を目指すという。

 ポーハーハー・ワイの仕事は続けるつもりのようだ。

 ただ、サークルの部長就任には全く興味はないし、時間もない。



「うわお! 手、舐められた!」

「神馬であろうと、馬はニンジン、好きだからね」

「よし。明日の金杯まで、手は洗わないっと」

「汚ね」



 ヨウドウの推挙により、R&Hは最優秀サークルの特別賞を受賞することになった。

 恩を売られたのだ。

 ヨウドウのごり押しによって、来春から担当する科目を追加され、通学する曜日を増やされてしまった。



 ミリッサはあれ以来、妖怪の村にも、コアYDにもUDにも、足を踏み入れていない。

 わずかふた月ほど前のことだが、どことなく、遠い過去のことのように感じた。

 あの妖怪のマスターは元気にしているだろうか。


 お館様の声。お館様の舞。

 あれは現実のことだったのだろうかと思うことさえある。

 しかし、ランの目の下のほくろが大きくなったり小さくなったりするたびに、あれは本当にあったこと、と思い直すのだった。




 藤森神社の境内は押すな押すなの大賑わい。

 その波にジリジリと押し流されながら、ハルニナがミリッサの左腕を、ランが右腕を取ってきた。


 ハルニナのもう一方の手をメイメイが。

 ランの手をジンが、ジンのベタつく手をアイボリーが。

 ランの服の裾をスペーシアが。


「歩きにくいぞ」

「照れやさん」

「はぐれないようにね。迷子、嫌だし」



 ミリッサはハルニナを引き寄せた。


「前に話してくれた件」

「なに?」

「パクチー汁、飲ませてくれないか」

「え」

「俺は今の俺でいたい。余計な経験や知識はいらない。むしろ」

「むしろ、なに?」

「なんでもない」

「オマエたちがいてくれるなら、でしょ」

「ま、そういうことにしておこう」



 ジンが言った。

「さ、明日は京都金杯。みんな、行くだろ!」

「おう!」

「ルリイア先輩から連絡があったんだ。京おせち、ご用意してお待ちしてます、って」

「うへ! 今度こそ、お金払えるようしなくちゃ」

「当たっても当たらなくてもね」





最後までお読みくださり、まことにありがとうございました。


書き始めのころ、もうちょっと謎解きの場面を多く、と思っていましたが、書きたいエレメントが多すぎて、結果はこの通り、犯人探しという意味では中盤から見え見えの状態になってしまいました。


でも、これはこれで楽しいお話になったかなと、自画自賛しています。

(書き終わったことによる高揚感ってやつですのでご容赦を)



推理小説の執筆に挑戦し始めて、かれこれ20年ばかりが経ちました。

最初のころは、推理小説らしく、誰かが誰かを殺して、その犯人を動機と共に暴いていく、というストーリーでした。

誰かか誰かを恨んでという暗い面を、なんとか払拭しようと、楽しいサブストーリを盛り込むようにしていました。

おかげで、長すぎる、登場人物多すぎて名前覚えられない、結果として登場人物が立っていない、というご批評も常にいただいておりました。


WEBで読む小説が暗すぎても嫌ですよね。もっと明るく、さらっと、ニヤリと笑って。

人が何か恨みを抱いて、誰かを殺すというのもなんだかなあ。

それを考えるのも疲れるし。


ということで、十年ほど前からは、いっそのことサブストーリー重視の「ミステリー風」にしようと、スタイルを転換してきました。

「ニューキーツ」から始まる「トゥシーイントゥザヒューチャー」の4部作がそれです。

しかも人が殺されないミステリー小説。(人は死ぬんですが、それがメインじゃない)

今回は、近未来の日本が舞台ですが、空気感は「トゥシーイントゥザヒューチャー」の4部作とよく似た感じになったと思います。



いかがでしたでしょうか。

もし、ご意見、ご感想をいただけるようでございましたら、幸いに存じます。


本当にありがとうございました。

いつのことになる分かりませんが、次回作もよろしくお願い申し上げます。


まだ、「ニューキーツ」から始まる「トゥシーイントゥザヒューチャー」の4部作をお読みいただいておられない方は、どうぞそちらの方へお回りくださいませ。

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