21 ケイキちゃん殺人事件、と呼ぶことにする
「そうよね。ミリッサも今日、倒れたし」
こう言ったのは、ランだった。
瞳をきらめかせ。
「ん?」
関係があるのか?
「茶化すつもりじゃないから勘違いしないでほしいんだけど、何か、いわゆる目に見えない何者かの意思が」
「なんだよそれ! ボクは、そんなわけのわからないことじゃなく、ただただ、本当のことを知りたい。それだけ。僕は参加する」
ジンの言葉で、場の大勢は決まった。
ルリイヤが帰ってきた。
フウカが説明する。
口々に賛意を示すメンバー。
「いいことだと思う。私も力になりたい。競馬場内のことはいろいろ役に立てると思う」
車座に入ったルリイアに、ジーオが大きく頷いた。
「ありがとう。先生、いいですか?」
「もちろん」
「はい。それじゃ、手始めに」
フウカの提案が続いた。
「いわゆる聞き込み? これしか、私たちにはできないと思う。今のところ」
「うん」
ミリッサは、自分が主体的に活動する場面がどこかで来るだろうと思った。
それまでは、フウカに任せよう。
その方が気が楽、ではない。
男性の講師としてノーウェに接してきた希薄さより、この娘たちの方が大学内での人脈もあるかもしれない。より多くの情報を手に入れるはずだ。
たとえ、一緒に授業を受けていなくても。
一緒に競馬したことはなくても。
会えばあいさつ程度の仲であっても。
これでいい。
フウカにはリオンという刑事もついている。
自分はサポートに徹しておればいい。
サポートすることがあるかどうかも怪しいものだし。
「結論となりうることは、何と何?」
フウカがジンに質問している。
「ボク? んー、そうだな」
単に、本当に事故だった、という結論がまず一つ。
何らかのアクシデントがあって……、そう……。
ここまで言って、ジンはトカゲの三四郎の背を撫でた。
考えが整理できたのか、よどみなく言った。
それが人為的なものであったり、ある別の事故、事象?の連鎖として先輩の転落が起きた。ということも考えられる。
でも、最悪のパターンもあるよね。誰かが仕組んで、先輩の転落が起きた。
あるいは、もっと最悪なのは、誰かが突き落としたとか、つまり、意図してというか、極端に言えば、殺そうと。
ここでジンは言葉を切った。
ここまで言っていいのか、と思ったのだろう。こちらに目を向けた。
しかしすぐに目をそらすと、編み込んだ髪をほどいた。
意識してリラックスしようとしているかのように。
メイメイが、途端に娘らしくなったジンを眩しそうに見た。
フウカよ、どうする?
どういう結論まで、視野に入れる?
「ありがとう、ジン。どの結論が望ましいか、なんてことはないわ」
フウカは決然としている。
「先輩自身の過失であれ、不運な事故であれ、誰かが意図した事故であれ、はたまた殺人事件であれ」
「サツ、ジン……」
「まさか……」
ジーオとルリイアが顔を見合わせた。
「ええ。どんな可能性も排除しない」
背筋を正し、
「ケイキちゃん殺人事件、と呼ぶことにする」
「え……」
そして、宣言した。
「ふざけてるんじゃない。それくらいの真剣な気持ちで取り組みたい」
確かに、警察が再び捜査を始めたというなら、その可能性を踏まえてのこと。
なぜ、再捜査になったのか、いずれ、フウカが恋人から聞き出してくれるだろう。
「ケイキちゃん殺人事件……」
ジーオの戸惑いには、かすかな喜びがある。
一言も発言しないハルニナも、諾というように小さく頷いた。
さっきは渋い顔を見せたメイメイも目を見開いている。
ミリッサはまた思った。
素敵、としか言いようのなかったノーウェのことを。
彼女の姿、表情、声。
そしてあの日々のことを。
それとともに、またあの日のことを思い出した。
事故の直前、ミリッサは現場のごく近くにいた。
昼食前の散歩に、普段あまり足を向けることのない競馬場北端部に広がる厩舎群を眺めに行ったのだ。
その帰り、人けのないエレベーターを使った。
二階でエレベーターを降り、スタンドの客席に向かったのだが、その時、小さな悲鳴を聞いたような気がした。
振り返ってみたと思う。が、誰もいなかったと思う。
エレベーター横に置かれたベルト式伸縮柵にスタッフオンリーの札が揺れているだけ、だったと思う。
その後知ったことだったが、そこがまさにノーウェが転落死した現場だった。




