表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/265

1 プロローグ 壱 戦闘員的なクリーム色のユニフォーム

 売店の冷めた串カツにかぶりついたその時。


 先生!

 大変!

 先輩が!


 先輩?


 早く!


 スタンドからエスカレーターを駆け下り、連絡通路を走り抜けて駆けつけてみると、階段の下に人だかり。

 すでに警戒線は引かれてあるが、なにしろ日曜日の京都競馬場。

 第五レースメイクデビューのパドックもまだ始まらない、昼休み。

 野次馬が群がっていた。


 いわゆるVIPエントランスと呼ばれる、馬主専用エレベーターのある受付ドアの手前、あまり使われることのない階段。

 そのすぐ下。

 インターロッキング敷きの青い地面に、大きく派手な着ぐるみが横たわっていた。


 その頭部はすでに外され、中の人物の顔が見える。

 動かない。

 地面に広がる長い髪。


 競馬場詰めの警察官と多数の警備員に混じって、場内の医務室の女性看護師ひとり。

 懸命に心臓マッサージをしている。

 傍らに転がるAED。


 救急車のサイレンはまだ遠い。


「下がってください!」

 その声に逆らって、講師は警戒線を超えた。



 着ぐるみ。

 競馬場で毎週のように見かける、傾聴財団マスコット。

 その中に入っているのは、大学の教え子、のはず。


「通してくれ! 知り合いだ!」


 足が震えた。

 顔を見れば、分かる。

 手遅れだ……、もう……。


 樹脂コーティングされた細いステンレスワイヤーが喰い込んでいた。 

 愛しい教え子の首に。



「先生……」


 次々に学生たちが警戒線を超え、集まってきた。

 抱き合う者。

 涙をこらえる者。

 まだ温かい遺体にすがりつこうとする者……。


「なんで……」

「先輩……」

「どういうこと……」



 横たわった着ぐるみ。

 体長約二メートル少々。


 クリーム色の戦闘員的なユニフォーム。

 エレメントとして、女性っぽいアイコンがちりばめてある。リボンや花、蝶やハート形。

 短めのフレアスカートに、ラメ糸で花鳥が刺繍されたワインカラーのブーツ。

 肩幅ほどもある大きな白いつば付き帽子。

 黄色やオレンジ色、水色と、色とりどりのリボンが結んである。


 アクロバティックなアクションで、いつもイベント会場を盛り上げているマスコット。

 今、首は切り離され、ただの布袋に戻って、死んだ女性を力なく包むのみ。


 なんとか脱がそうとする学生たちは警官に制止され、青ざめた顔で立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ