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一人、一人のその一人

作者: 佐藤 金

午前2時、彼は病院のベッド、丁度きれいな夜景が見える角部屋で心に灯るが何かを伝えたいように揺らぎながら消えて行った。

人の死に際に直面した時、この世の色が滲んで消えていく・・・。

遠くで誰かが鳴らしたクラクションだけで今は成り立つ消沈の夜。


病院の廊下で彼のご両親、私の両親、それ以外は電話をかける余裕すらなかった。

外は傘をさしていない人たちがちらほら、、

なのに私が見るもの全てはぼやけて見えて上を向くことさえ出来なかった。

上を向くと雨粒が律儀に頬をつたって落ちて行く。


その日は一人になった家にタクシーで帰った。

いつもより重いドアを開け「おかえり」と頭の中であの日の声が。

彼は本当に意地悪だ、、、。早く起きてよ。

夢を見てると思いたい。

布団に横たわる、彼が持っていた腕時計、歩数をカウントする機能もついていて「8181歩」で止まっている。

湊は仕事中に倒れたみたい。

私が3年記念でプレゼントした時計を大切に持っててくれたんだね。

その日は時計を握りしめて沈痛の中に深く沈んだ。


かのん!かーのーん!涙なんて流して怖い夢でも見た?


なんで湊がいるの?私、、病院から帰ってきて、、あ、、痛い、。


大丈夫?変な夢でも見たんだね。仕事は今日休んだら?たまには良いと思うよ。今日、俺帰り遅くなるから、終わったらすぐに帰ってくるからね。


うん。分かった!

心は逆の言葉を彼を止めようと必死にもがこうとするが寝ぼけと、頭痛が邪魔をした。


行ってきます!ちゃんと寝てるんだぞー?

手を振るその腕の時計が朝日の光を照り返す。私からは逆光で影の中に彼がいる。


私は冷蔵庫にあったハムと卵をフライパンに落とし、茶碗にご飯を装った。

テレビのニュースではアナウンサーが梅雨入りの報道を私に向かって話してる。

朝方、雨が降ったみたい。

地面は人が通る足跡を残していつしか空に昇っていく。足跡が生まれたら刹那を進み最後は人の一瞬に生きる。これは昔から変わらない永遠のベーシックだ。


ピコン!

今、会社についたよ、薬は飲んだ?

帰りにゼリー買って帰るから今日は遠慮せずにいつもの休日と思ってね。


優しいな...。

彼とは3年半の付き合いで、こんなダメな私を小さなところまでフォローしてくれるそんなかわいい彼、、、。


今はまだ湊が私から、そしてこの世から居なくなるなんて知るわけもないまま眠りに手招きされた。


涙が乾いた後に出来る白い跡は目から耳にかけて、手には何かの印のように握りしめている物が、、。


彼の時計だ!

私は夢を見ていた?、、、

時刻は7時30分を少し回ったぐらい、もちろん手に握った彼の時計も私の悲しみに付き合うことなく同刻で躊躇なくチクタク刻んでいく。

時計の歩数計、、。

「8181」、、。

彼はきっと最後に「バイバイ」って言いにきたのかな。

どこまでもばーか。


この世界にはたくさんの人がいます。

一人、一人、その人のドラマの中過ち幸福が描かれて「世界」という1つの作品になっている。

たくさんいて霞むこともあるでしょう。

たくさんいて嫌になることもある。

たくさんいて嬉しく愉しいこともある。

群れると分かりづらい。

だけど、あなたはこの世界には必要で大切にされるべきだ。

一人一人のその一人があなただから。

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