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「夜分に申し訳ございません。アルテミスキラ様。私、ご挨拶が出来ておりません。扉越しで構いませんので、私の話を聞いて下さいませんか?」


 カナリアーナはネグリジェの上にカーディガンを羽織り、アルテミスの部屋の扉をノックする。カナリアーナが10分ほど待っていると、扉が開き、アルテミスが顔を覗かせた。


「ごめんね。カナリアーナ、首の怪我、大丈夫?」

「アルテミスキラ様。お休みのところ、お顔を見せて頂き、ありがとうございます! あの差し出がましいのは存じていますが、もし良かったら、お部屋に入れて下さいませんか? メルフィーナ様、許可は頂いております」

「メルフィーナ?」

「はい! 『正室』になれるかは、アルテミスキラ様と仲良くならないと、可能性はありませんから。私20歳ですから、立派な女性です。一夜をともにして良いですか?」

「それは、メルフィーナが許可している?」

「もちろんです! 明日は他の候補がアルテミスキラ様のお部屋にいらっしゃるそうです」

「カナリアーナ、申し訳ない。けど、僕が愛しているのは」

「良いではありませんか。私にも希望を見せて下さいませ。ねえ、アルテミスキラ様?」


 アルテミスは、胸が凄く痛くて、どうしようもなく悲しかった。メルフィーナへの苛立ちを、カナリアーナにぶつけていいのか、揺れていた。


 カナリアーナは、アルテミスに拒否されないことに安心して、一緒に部屋の中に消えた。


………



 アルテミスは倦怠感に抗うように、上半身を起こした。ベッドの中で隣に寝るのはカナリアーナ。寝顔はあどけなく幼く見える。

 アルテミスは戸惑う。これが大人になることだろうか?

 自分の本心を誤魔化して、結末が誰か傷付けるとわかっているのに、誰かに甘えて。


「おはようございます。私の初めてもアルテミスキラ様の初めても、この2人で凄く嬉しいです」

「身体は辛くない? まだ寝ていていいよ。僕は日課を色々しないといけないから。メルフィーナに会ったら、『朝食はいらない』って伝えてくれる?」

「わかりました。まだ朝の4時ですよ?」

「僕は大丈夫だ」


 アルテミスは独り言を残し、ささっと身仕度を整え、部屋を出て行く。


 広大な中庭の一角は、砂地になっている。アルテミスの稽古場所の一つだ。目に見える範囲に簡易的な武器庫がある。しっかり施錠されている。

 メルフィーナの魔法によって、アルテミスが手をかざすことで、カギが開いたり閉まったりする仕組みになっている。


「僕は大丈夫だ!」


 アルテミスはそう自分に言い聞かせる。重量のある槍を振り回す。無駄なことを考えないように、肉体を酷使したい。

(メルフィーナはこれからもっと、僕を突き放す)


「僕は大丈夫……」


 アルテミスは台詞が終わらぬうちに、嘔吐する。メルフィーナに反抗したいがために、カナリアーナを抱いた自分に嫌気がさした。

 逞しい精神だと自負していたアルテミスは、自分のメンタルの脆さに呆れた。もっともっと強くなりたい! アルテミスは固く願った。


 その日から、アルテミスは勉学も鍛錬もがむしゃらにやった。自分を強くするために、何でもやった。無論、毎晩婚約者と一緒に過ごした。



…………………………………………………………………




 アルテミスキラ皇子は17歳になった。まだ『正室』は決めていなかった。


 アルテミスは、ドラゴン最強と言われるブラックドラゴンの末裔であるメルフィーナよりも、強くなっていた。


 正確にいうと、メルフィーナが普段使う『風の魔法』よりも、様々な魔法を扱えるアルテミスの方が優れていた。

 武器の使用や身体能力は、メルフィーナよりもずっと強くなった。


 しかし、それでもメルフィーナは、アルテミスのそばにいた。

 アルテミスは、7年という月日をかけて、メルフィーナへの愛を断ち切った。


 最近は『アクアマリン』と『キンモクセイ』の間をうろうろしている。どちらかが『正室』になるかは、時間の問題だ。


 アルテミスはたまに刺激を求めて、カナリアーナの元に行く。カナリアーナは27歳になった。お盛んなアルテミスの要求に応えるのは辛くなってきた。


 『スイレン』とは淡白すぎて、アルテミスは退屈になり夜は過ごさなくなった。しかし、『スイレン』の歌声と踊りは素晴らしく、アルテミスは凄く気に入っている。


 ウィズリーとはたまに一緒に眠る。ウィズリーはエルフだからか、メルフィーナに少し似ていた。ウィズリーと一緒にいると、メルフィーナのことを想ってしまうので、アルテミスはウィズリーが苦手だった。

 しかし、ウィズリーの独特の雰囲気がアルテミスを凄く安心させてくれる。


 だから、アルテミスは優柔不断で、7年かかっても、『たったひとり』を選べずにいた。




「あら? 一昨日も来たのに、私の元に来たのね」


 カナリアーナの嬉しそうな声が夜の部屋に響く。ここはカナリアーナの部屋だ。アルテミスが自分の部屋に呼ぶのは、『アクアマリン』と『キンモクセイ』と決めている。


「ねえ? 『フレイヤ』はどうするの? まだ牢に入れたまま? 死んじゃうわよ?」

「フレイヤは、寂しがり屋で嫉妬深くて、目を離すとすぐに外に行き、不貞を働く。もう10度目だ。もう庇いきれない。メルフィーナに見放されるに違いない」

「でも、アルテミスの中で一番美しいのは『フレイヤ』なのよね?」

「そろそろ静かにしなよ。せっかく僕が来たんだから、愉しいことをしよう」


 アルテミスはストレス発散に、カナリアーナを抱く。カナリアーナもそれを知っているから、アルテミスはたまに、カナリアーナのお願いを聞いてやる。等価交換というやつだ。


「アルテミス、今日はあなたが目隠しをしない?」

「僕が? 僕がしてもなんも面白くない」

「私のお・ね・が・い」

「ふーん、高い宝石が欲しいとかじゃなくて? 先月みたいに、『私の誕生日は一緒にいて』とかじゃなくて?」

「ええ。いつも無理なことをお願いして、アルテミスに嫌われたら、嫌だもの」

「わかった」

「ありがとう!」


 カナリアーナがにこにこ笑顔で喜ぶので、アルテミスは不思議に思った。何がそんなに嬉しいのだろうか? と。

 早速2人とも裸体のままで、アルテミスはカナリアーナから目隠しをされる。アルテミスは不便さに戸惑う。

 目隠しはキツくない。アルテミスの両手は自由だ。本気で嫌なら、アルテミスが自分で目隠しを外せばいい。


「ああ! 嬉しい!!! やっとこの日が来たのね!」

「? そんなに嬉しい?」

「ええ! 7年耐えたわ」


 どういう意味だろうか? アルテミスはカナリアーナの言葉が凄く気になった。だから、目隠しを取って、カナリアーナを見た。


 アルテミスが見た光景は、カナリアーナの狂喜に満ちた禍々しい表情。そして、カナリアーナが両手で握った鋭利な剣で、アルテミスを殺そうとしている場面だった。



………


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