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「はじめまして。私『キンモクセイ』という名で『花の妖精』です。こちらの『スイレン』は『水の妖精』です。私達は『エルフの国』に住んでいました。メルフィーナさんに、皇子様の許嫁として選んで頂き、凄く嬉しいです。『スイレン』は話すのが苦手なので、私が代わりにごあいさつをさせて頂きました。『スイレン』はとても素晴らしいので、オススメです」


 幼女が2人、一歩前に出る。キンモクセイと名乗る少女は、ふわふわした翡翠色の長い髪に、橙色の小さな花が散りばめられている。


「君は『キンモクセイ』? 翡翠色の髪についているのは、本物の花? 凄く甘い香りがするね。僕は10歳なんだ。君は?」

「皇子様は、キンモクセイの花がお嫌いですか? 私の髪には橙色のキンモクセイを散りばめています。『スイレン』の左右の耳横には、桃色のスイレンの花飾りをさしています。皇子様は、お花の柔らかい香りがお嫌いですか?」



 アルテミスは、キンモクセイの隣に佇む『スイレン』を見た。つやつやのショートヘアーの髪は藤色で凄く綺麗だ。スイレンの髪にも桃色の花がある。


「いやそんなことはないよ。この王宮の中庭にも、たくさんの『サクラ』の花の木があるよ。桃色で中庭は賑わっているよ。僕は花が大好きだ」

「まあ! 私も皇子様のことを気に入りました。『スイレン』は恥ずかしがり屋ですが、スイレンも皇子様に興味があるみたいです。私達も10歳です。皇子様、仲良くして下さいね」

「うん! キンモクセイ宜しく! スイレン、仲良くしよう!」


 アルテミスは、『スイレン』の髪と同じ色合いの藤色の目をじっと見てから、にこりと微笑む。『スイレン』は小さく会釈する。

 それを見たキンモクセイが、髪と同じ翡翠色の目を潤ませて、嬉しそうに笑う。


「陛下。私もご挨拶させて頂きたいのですが、良ろしいですか?」

「はい、どうぞ」


 アルテミスとキンモクセイと『スイレン』の、マイペースなやり取りに、痺れを切らしたウィズリーが口を開く。

 キンモクセイと『スイレン』よりも前に出て、アルテミスの視線を独占しようとしている。


「私はウィズリー・バルトと申します。陛下、『ウィズリー』とお呼び下さい。見た目は20歳ですが、私はエルフですので150歳ほどです。人で言いますと15歳くらいです。陛下、これから宜しくお願い致します」


 エルフという割りには、耳は目立たない。人に近いエルフの種族なのだろう。黒髪の美髪は、ローツインテールにしている。

 ウィズリーの金色の眼のせいか、印象としては『黒猫』のようだ。キリリッッとした眼に、長身である。長身であるが、筋肉質なのか、細見な感じはしない。

「うん。ウィズリー、宜しくね」


 アルテミスはウィズリーと右手を重ねて、挨拶をする。


「お初にお目にかかります。私、ミリアリア・ビクトリアと申します。平和の国『オアシス』から参りました。アルテミスキラ様が住まわれる、こちら共存の国『Dear(ディア)』の隣国にございます。『オアシス』の隣国には、戦火の盛んな、帝国の國『ラミアス帝国』があり、脅威に怯えていました。私が『正室』になった暁には、『ラミアス帝国』を支配し、再構築して、種族関係なく穏やかに暮らせる国を創ることに、賛同して頂きたく、お願い申し上げます。アルテミスキラ様のお力添えを何卒、宜しくお願い致します」


 次に現れたのは、赤毛のミリアリア。『赤眼』の眼光が燃えるように強い。ポニーテールが凄く似合っている。

 珍しい真っ黒なドレスを着て、首から下は全て隠れている。


「文献や新聞しか知らないけど、『ラミアス帝国』は荒々しいようだね。違ったらごめんね。『ミリアリア』の瞳は『赤眼』だけど、それは……『ラミアス王家の証の『赤眼』』とは違うのかな?」


 アルテミスの言葉に、ミリアリアは涙を一筋零す。ミリアリアはドレスの胸元から真っ白なハンカチを出して、涙を拭う。


「私、私の母は、『ラミアス王家に乱暴をされて』、それで産まれたのが、私です。あの忌々しい『ラミアス王家』の血が私にも流れているかと思うと、ぞっとします。私は私と母の二人家族ですので、母の幸せと、『ラミアス王家』への復讐を求めます」

「あらあら。それはまあまあ。私、初耳ですわね。そのような動機でしたら、アルテミス様の妃候補として、相応しくございません。ご辞退下さいませ」


 ミリアリアの個人的な要望を聞いたメルフィーナは、冷淡な声音で促す。アルテミスは、メルフィーナの様子を眺めていた。


「私を、『妃候補』から外すのなら、この女性を殺します」


 ミリアリアは、近くにいた妃候補であるカナリアーナの肩を乱暴に掴む。そして、いつの間にか持っていたナイフを、カナリアーナの首筋に斬りつける。


「や、やめて!」

「動くな! 刺すわよ」


 カナリアーナはセミロングの青い髪を振り乱して暴れる。そのせいで、ミリアリアのナイフがカナリアーナの白い首に少し刺さる。


「カナリアーナ・エルリックは無関係ですわ。今すぐ解放しなさい。ミリアリア、貴女はこの王宮から『強制排除』します」


 メルフィーナは台詞よりも早く、風を使って、ミリアリアのナイフを取り上げる。


「ま、待って! メルフィーナ、僕はミリアリアと話がしたい。僕は将来、『ラミアス帝国の一方的な殺戮』や『因果による種族の争い』『奴隷など貧富の差』を無くしたいと考えている。僕とミリアリアの目指す場所は、一緒にならないだろうか?」


 アルテミスは、このままじゃミリアリアが危ないと思った。メルフィーナの怒りを宥めようと、ミリアリアとメルフィーナの間に立つ。


「アルテミス様、お言葉ですが、そのアルテミス様と一緒に未来を歩む女性は、ミリアリア以外に4人います。第一歩で争うような、相性の悪い女性をわざわざ選ぶ必要はありません」

「だけど!」

「私が認めた女性しか、アルテミス様の妃候補になれないのです」

「待って!」


 メルフィーナは、アルテミスの静止の声を無視して、魔法でミリアリアを宙で拘束する。

 

 まるで滝のように流れる、メルフィーナの銀髪のように容赦がない。風が鎖にもなる。そして偉大な風は、メルフィーナの人差し指一本を動かすだけで、ミリアリアを王宮から遥か彼方の空へと飛ばしてしまった。


「メルフィーナ!!! ミリアリアが死んじゃうよ!」

「ご安心下さいませ。木の枝に落としておきました。死にはしません。悪漢には襲われるかもしれませんが」

「酷い!!! 僕、今からミリアリアを助けに行く!」

「わかりました。このメルフィーナがお相手致します」

「違うよ! 何で邪魔するんだ!」

「私の役目は、アルテミス様を真っ当に育てあげることでございます」

「僕が真っ当に育ったから、『道徳』『慈愛』を持って、ミリアリアを助けたいんだろう!」


「『全てのモノに平等を』『悪しきものにも情けを』等とは、私は教えたつもりはございません。『見極める』『選び抜く』それが、アルテミス様には出来ておりません」

「でも!」

「返って『答えを先延ばし』にすることで、『余計に悪化』することもございます。見せかけの同情など必要ないのです。ご理解頂けましたか?」

「わかった。だけど、ミリアリアが乱暴させるのは、許せないよ。助けて」

「申し訳ございません。アルテミス様、私は『アルテミス様を試した』のですわ。初めから『ミリアリア』は妃候補ではなかったのです」


「……そう、なんだ」

(メルフィーナ、それはさすが、僕も傷付くよ)



 アルテミスは、メルフィーナからの試練にまんまと騙されたということ。何に怒るべきか、何を考えるべきなのか、わからなくなった。

 アルテミスは、食事を止め、無言で食堂を後にする。今は誰とも、話したくなかったのだ。



……

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