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切っ掛け探索中


 私が自覚するより早く結果として出てきて(呪いを解いて)しまった真実の愛。


 おかげさまで私が否定しても、目の前に証拠があるのだからただの言い訳にしかならない。私だって、歴然と輝く愛の証明(口付け)に逃げることが出来ないのはわかっている。


 私は殿下を愛している。


 ただ、その…自覚が全く無い。

 接点…接点何処?私は一体いつ殿下にフォーリンラブ決めたの?

 お知り合いお付き合い、愛を自覚する段階をすっ飛ばして「呪いが解けたよ。君は彼を愛していたんだね。おめでとう!彼の婚約者になれたよ!」とか言われても寝耳に水だわ。

 周囲が私に「そうだったの!?」と驚愕するけど、私だって自分に「そうだったの!?」と詰問したい気持ちで一杯。そうだったのいつの間に!?ホントいつの間に!?


 色恋的意味で異性とは全く関わっていなかったので、どうしたらいいのかもわからない。

 私は将来、お父様の選んだ方と領地を治めるお兄さまを支えることが出来たら幸せだなーっと呑気に思っていたもの。お父様が私を大事にしてくださっているのはちゃんとわかっていたから、酷い相手に嫁がされることはないだろうとのんびりしていた。のんびりお兄さまと鍛錬に励んでいた。のんびり鍛えてました。ふんすふんす。

 …逆に嫁の貰い手がなかったかもしれないわ。騎士相手ならワンチャンだったかもだけど、その場合絶対お兄さまと比べてしまいそうだから難しい。あのがっしり具合が堪りません。素晴らしい鍛えられた筋肉。私は常にお兄さまの後ろをひよこのように追いかけて、お兄さまの素敵な背中しか見ていなかった。


 …えっと、私ってば本当にいつ殿下を見初めたの…?


 ずっと考えているけど迷走中です。大迷路で迷子になってます。

 殿下が魅了されている間の騒動だって、殿下どないしたんやって愕然とするばかりで、傷ついた覚えはないのだけれど…。

 もしかして愕然とし過ぎて傷つく間もなかったの?確かにいつもと違い過ぎて目を疑う光景だったけど。現実味を帯びる前に接触事故(事故チュー)を起こしちゃったのかしら。私ってばどこまで鈍いの?


 頑張って考えているのだけれど、答えがなかなか出てこない。

 殿下のことを考えると出てくるのは、廊下ですれ違うだけの殿下ではなく…私に愛を囁く、溺愛対応の殿下。

 思い出す度に容量オーバーで動悸息切れ眩暈がやってきて勝てる気がしない。恋愛初心者にその対応は翻弄しかされません。好きな人だと自覚してすぐそんな対応されるとか爆発案件では?もうちょっと手加減をお願いします。

 とにかく、真実の愛で婚約が決まったのだから、その真実の愛があやふやとか大問題。私は三か月後までに、胸を張って殿下が好きですって誰にでも宣言できるようにならないと。

 …いや想いを自覚していてもかなり恥ずかしくて難易度高すぎ。サラッと愛を語れる気がしない。


 ちらっと隣の殿下を窺えば、うっとりとした目と合った。

 おぐぅなんだその目は私を殺す気か。この一週間ずっとそんな目で見られているけど一向に慣れる気配がない。慣れるんですかこれ?正気か?慣れでなく麻痺では?

 照れてもぎゅっと口を噤む私に、殿下はちょっと困ったように眉を下げた。やめて困った猫さんにならないで。私の手は相変わらず殿下にすりすりされている。やめて!令嬢らしからぬ固い手ですので!!気持ちよく(柔らかく)ないでしょう!!


「僕と婚約式をするのは嫌?」

「いいいいいやでは、嫌ではないです光栄ですっ」

「ならやはり急すぎることが気になる?」

「さ、流石に急かなとは思いますが決まった事のようですし」

「うん、ごめんね。君の意見を聞くべきだったけど僕の我儘で決めてしまった。どうか僕を嫌わないで欲しい。天使()に嫌われたら、僕は何を投げ打ってもその膝に縋りついて離れられなくなってしまう」


 駄々っ子か。

 しかし麗しの青年が私の膝に泣き縋るとか想像すると耽美でしかない。おやめになって私が膝から崩れます。変な扉を開けるような真似はなさらないでください。そちらの扉にも鍵をどうぞ。


 いやすらっと変な脅迫しないでくれませんかね殿下!?嫌われても離れないぞってある意味アグレッシブですね!許しを請うとかじゃなくて嫌わないでって。離れないぞって単純だけど強いですね!単純だから強いのか!

 えーと私は怒っているわけではないので、一つ頷くだけにとどめた。怒っているのではないのです。テンパっているだけなのです。ほんとどうしてこうなった。


 殿下は頷いた私にほっとしたように力を抜いた。

 私の前で殿下は、わかりやすく感情表現をしてくださる。

 えーん私相手にはとりつくろわないんだなとか思っちゃうよえーん!そう見せているだけですよねー!?そう見せて頂いているんですよねー!?そうだと言って!!そうだとしてもときめきが止まらないので!!くっそう恋愛初心者ですよ!ゆるゆる変わる表情にキュンキュンしていますよ!!ま、負けてたまるか…!


「急いでしまったからこれから忙しくなる。ドレスや宝石は母上が仕切ってくださるけど、デザインは僕たちで決めることになるし、招待客やしきたりを覚えてもらうことになるから…君に苦労を掛けるけれど、嫌にならないで欲しい」

「今までゆっくりさせていただきましたし、忙しくなるくらいがちょうどいいです。私に出来ることなら、何でも言ってください。何でもしますっ」


 いやほんとに私に出来ること何か下さい暇しています。室内で何もない時間を過ごすの苦手です。刺繍も出来るけど、出来ることと得意なことは違うんです。読書だって本の内容より本の重さが気になるんです。暇しています。

 それに殿下は本当に忙しい人だ。その殿下の負担を少しでも支えたい。私に出来ることなんか少ないだろうけれど、何かないですかね。

 殿下を護衛中のお兄さまにお会いできる機会があるかもとかそんなこと考えていませんよ?本当ですよ?遭遇してもお仕事中だからくっつけませんし。本当ですよ?遭遇出来たら職務中のお兄さまも素敵!ってなるだけです!!素敵ですお兄さま!!

 ふんすふんすとやる気を見せる私に、殿下は柔らかく微笑んだ。

 少しだけ、いつも感じる熱を抑えめに。

 しかし今までの熱愛ぶりを抑えると…あえて(・・・)抑えている印象が強くなり、逆にそわっとする。その裏側に燻る想いが、滲んでいるようで怖い。え、怖い。


「何でもか…迷うな」


 んん―――????


 今何でもって言ったよね?という幻聴が聞こえたのは何故でしょう?殿下は何故そんな柔らかく微笑むのでしょうか。逆に感情がわかり難い。しっとりとした空気を察知。

 そしていつの間に私の両手が拘束されているのです?さっきまで自由だった右手もしっかり握られている。え、いつの間に?いつの間に隣に座りながら手を取り合って膝を突き合わせるような形に?あれれーおかしいぞー??


「それなら…こうして会えた日は、僕に君の愛を与えて欲しい。きっと忙しい日が続いて毎日は会えなくなるから、君からの愛を強く感じたい。どうか僕に天使()からの慈悲を」


 んっきょうふぁぐぁ―――!?

 前回そう言えば似たようなやり取りしましたねぇえー!?

 つまり愛ってあれですか!?ちゅーですか!?確かにあれからちゅーはしていない…というか出来なかったけども!!

 だって恥ずかしいじゃないですか!!恥ずかしいじゃないですか!!なんで皆恋しい人と頻繁にちゅっちゅ出来るんです!?私羞恥心で気絶したの初めてでしたよ!?


 あ、あ、あ~~~婚約式でもちゅーするんですかマジで?マジでするの?婚約式ってそうだっけ?え?私たちの婚約が真実の愛の口付けによるものだと印象付けるため?普通はしないけど大事なことだからするの?バルコニーで?マジなの?公開羞恥プレイでない?後悔しかしなくない?私爆発しますよ!?いいんですか目出度き良き日に汚い花火が打ち上げられますよ!?


「婚約式で気絶しない為にも慣れておこうね」

「慣れ!?」


 な、慣れるかぁ~~~い!!慣れるとお思いですか~~~い!!湯顔から湯気が出そうです!!助けてお兄さまぁ!!


 びゃっと逃げ出そうとしたときにはもう遅く、殿下の手が私の肩に回りぐっと引き寄せられていた。片手は私の頬に添えられて、俯こうとした顔を上げられる。金色の髪が視界の端で揺れて、星空の様な目がキラキラと私を写していた。


「イヴ、僕の最愛(天使)


 ここで名前呼びますか。

 なんでそんなことするんですか。慈悲深いと思ったら無慈悲でした。

 冷静でいられるわけがないでしょうそんな、声音で愛を告げられて。しかもそんな熱烈な声音で名前を呼ばれて。心臓がどっかん噴火意識が空の彼方まで飛びそうです。いっそ飛びたい。ここが気絶時でしょうなんで意識があるんですか。飛ぶのだ。背中に羽根がなくても空だって飛べるはず。天使って言いますけど私の背中に羽はないです殿下!


 意識がどっかんしている間に近づいて来た男性的な唇が、戦慄く私の唇に近づいて―――。


「殿下、そろそろお時間です」


 部屋の外からかけられた声にピタッと止まりましたファ――――――ッ!!

 部屋の中で存在感を殺している侍女さん達でなく部屋の外で護衛をしている騎士さんのどなたかの声ですね―――!?


 私は固まった殿下の腕からぬるっと逃げた。ガチの拘束でなければ抜け出すなど容易いこと…!いえ今までは動悸息切れで動けないことの方が多かったから全然逃げられてなかったんですがね!?

 殿下は逃げた私には何も言わず、すっと姿勢を正して扉の外に声を掛けた。


「もうそんな時間か?」

「ドーソン様より、急ぎの執務が入ったと知らせが入っております」

「マーヴィンか…」


 殿下が仕方なさそうに息をつく。待ってこれからお仕事なの?もうそろそろ寝る時間ですよ?思わず殿下の目元を確認してしまった。隈はない。しかしちょっとお疲れの様子が窺える。

 ちなみにドーソン様とは、殿下の側近であるインテリ眼鏡のマーヴィン・ドーソン男爵子息のことだ。

 こちらも遠目でしかお目にかかったことはないけれど、チャンル学園では未来の宰相として期待されていた。ただ、殿下と一緒に魅了の呪いにかかっていた一人で、現在は信用回復もかねて溜まった執務を泊まり込みで片づけているらしい。こんな時間に殿下に声がかかるなら、ドーソン様も現在進行形でお仕事中ですね。寝てください。倒れますって。


 ゆっくりとした動作で立ち上がった殿下は、どっかんどっかん煩い心臓を抑える私にすまなそうに微笑みかけた。


「ごめんね。今日はここまでだ」

「むしろお忙しい中わざわざすみません…」

「そんな。一日の楽しみだから、僕からこの時間を取り上げないで欲しい。明日もまた来るよ。その時はダンスの練習でもしよう」


 そう言って実にスマートに、ちゅっと私の額に口付けを落として殿下は去っていった。

 おやすみ、とひそやかな挨拶を残して。


 …えっ今デコちゅーされた?

 あれ?された?むしろおやすみのちゅーされた??

 あ、されたね?うん。


 …流れるようにデコちゅーされたぁあああ!!


 私は寝支度を整えに来た侍女に声を掛けられるまで、長椅子に突っ伏してふぉおおっと令嬢らしからぬ声を上げたのだった。




なんでもするって言ったよね?って笑顔で追い詰めていくタイプの殿下ですがまだ手加減しています。

もう二度と言っちゃだめだイヴ。二回目は逃がしてくれないぞ。


次回アルバート側のお話になります。

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[一言] 連載してた! うんあまーい! 続きお待ちしてます!
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