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書籍発売記念SS

本日11/22 プティルブックス様より

事故チューだったのに! 発売です。

以下、発売記念SS!



「発売日ですお兄さま!」

「そうだな」


 楽しみで仕方がありません!

 先日、お兄さまから勉強しろと渡されたロマンス小説…を書いた小説家の冒険小説が本日発売です!

 ロマンス小説? 一応読みましたが冒険譚の方が好みでした! 続きが気になります!


「まるで音楽が聞こえてきそうな文章でした…宝の地図を見た時のときめきも、仲間と苦難を乗り越えた時の高揚も、ここで冒険が終わってしまうのかと主人公が苦悩する悲痛な叫びすら、楽器を通して奏でられる音楽のようでした…」

「珍しく詩的な感想だな。ロマンス小説に対する感想はないのか」

「全部読みましたが途中から主人公達のやりとりが、こう…恥ずかしくて恥ずかしくて記憶がありません」

「ロマンス小説も読め。後学のために」

「後学のために!?」


 後々必要となると!?

 お兄さまがそう言うなら間違いないかもしれませんが…ですがそれよりもまず、読みたい本を読みたいです!

 今までお爺さまに渡された兵法や軍略などの本を読んできましたので、新鮮な気持ちです。物語といえば絵本くらいしか…真実の愛が絶対の絵本くらいしか読んできませんでした…!

 私ってば極端過ぎません? これからはいろんな知識を必要とするので、他の本もたくさん読むべきですね。

 でもまずは冒険譚です!


「こうしてはいられません。いざ書店へ…」

「いけないぞ」

「はっ」

「忘れているかもしれないが、お前が外に出るなら大勢の護衛が付くことになる。それだけの人を動かすには申請が必要だし、通ったとしても書店が埋まるほどの護衛が付いてくることになる」

「そ、そんな営業妨害な。最低限に削減できませんか」

「安全性の確保のため削れる箇所ではない」

「そんなぁ!」

「そもそも買い物の仕方が違うだろう。商人を呼んで取り寄せろ」

「書店で他の本を見比べながら購入の検討がしたかったのです。胸踊る冒険譚はきっと他にもあるはず! もしかしたら別ジャンルで興味が引かれる本に出会えたかもしれないのに…!」

「まずロマンスの勉強をしろ」


 ロマンスの勉強とは!?


 うう…でも仕方がないです。貴族の買い物は本来、商人を呼んでするもの。自ら出向くことの方が希少…わかっています。

 因みに図書館では駄目なのかと言う質問に対しては、自分だけの本が欲しいと返します。

 私の…! 私のが欲しいのです…!


「気持ちはわかるよ、イヴ」

「…殿下!?」


 あっれえ当然のようにお隣に殿下が! お忙しいはずの殿下がいつの間にかお隣に!

 いつの間に入室してお隣にお座りに!?

 お兄さまはいつの間に壁際までお下がりに!?


「図書館に並べられたたくさんの背表紙は憧れだけど、やはり自分の本が欲しいよね。返却しなくてはならない本よりも、いつまでも手元に置ける自分だけの本が」

「は、はい。そうなのです…!」

「自分の本なのだから、自ら赴いて迎えに行きたい気持ちもわかるよ。もしかしたら似合う小物や調度品と出会えるかもしれないから、出歩くことの大切さはわかっているつもりだ」

「はい! その時だけの出会いが…あれ? 本のお話ですよね?」


 なんかちょっと違うの混じっていませんでしたか?

 にっこり笑顔でお返事がない。殿下? 何故お応えしてくださらないのです殿下?


「ところで、欲しい本はこれの続きかな」

「は、はいそうです。こちらの続きです」


 私ってば前作をしっかり胸に抱いていました。お恥ずかしい。


「これは僕も読んだよ。まさか宝があんなところに隠されているとは思わなかった」

「殿下もお読みに…! はい! それは私も大変驚いたところなのです!」


 まさか殿下も拝読なさっておられたとは! 知りませんでした。もしかして感想を交換したりできますか? 驚いた点とか好きな点とかお話ししても許される? 感想合戦します?


「イヴは登場人物で一番好きなのは誰?」

「勿論主人公の少年です!」

「なるほど。僕もへこたれない主人公が好きだよ」

「好奇心旺盛で、すぐ罠に引っかかりますが、誰もが諦めた宝を目指して突き進む姿勢にとても憧れます…騎士とはまた違った憧れです!」

「騎士とは随分違うからね…この冒険で、海賊が自分だけの宝を抱えて海に沈む描写があったよね。主人公が唯一手に入れられなかった宝を持って」

「アレは驚きました…」


 とても衝撃でした。

 作中でラスボス扱いだった海賊が、主人公が謎を解き明かして見つけた宝を抱えてボロボロの船で海に出るのです。泥船のように沈む海賊船。その甲板で一人、宝…女神像を抱えて海に沈む海賊…。


 その女神は船乗り達を守護すると言われていて、海の男達はその女神を手中に収める者こそが海の覇者だと、そう信じていたのです。


 沈む一部始終を高台から見守った主人公達。

 迷信に縋るなんてと吐き捨てる人。命より大切な矜持と理解を示す人。

 そんな仲間達の中、主人公は否定も肯定もできず、ただ宝の求心力だけは理解して、次の冒険へ向かったのです。

 主人公は宝が好きなのではなく、宝を目指すことが好き。

 だからなのか、宝に固執して破滅する人たちをたくさん見送ることになります。

 とても深い作品です。


「彼は海の底まで宝を抱え、誰の手にも触れない場所まで連れて行った…イヴはそんな執着をどう思う?」


 あっもしかして感想合戦が始まりましたか? これ感想合戦ですか!? 感想を伝え合う感想合戦開始の鐘が鳴りました!?

 登場人物の行動についてですか。それも特殊な終わり方をした海賊…。


「海の底は極論でしたが、つまりあの海賊は誰の手にも宝を触れさせたくなかったと殿下はお考えで?」

「そうだね。彼は他の宝に目もくれず、女神像だけに固執していた。アレは船乗りだけが信仰している女神で、値打ち物でもないただの彫像だったにも関わらず」


 そういえばそんな描写もありました。

 宝の山の中、金銀財宝の中で見劣りすらする像だったと。

 だからこそ理解できないと吐き捨てる仲間もいたわけです。価値を見出す信仰を持っていないから。

 深いですね。深いです。海の底よりふか…いけません海の底に沈んだ話しでした。


「イヴはどう思った?」

「海賊は女神様が大好きだったんだなぁって思いました」


 …はっ! とても頭悪そうな感想…!


「執着というか妄執でしたが、想いを貫く姿勢には敵ながら天晴れでした! 何より彼は情報戦でこそ負けましたが宝は守り切りましたので、最終的に勝ったのは海賊だったと思います!」

「勝ち負けなんだ?」

「男同士のやりとりは常に勝敗が付随しているとお爺さまが…」


 男は常に争っているってお爺さまが言ってた…。

 大きさ、速さ、高さ、力…とにかく何でも争うって言ってた。


 何はともあれ。


「執着とは恐ろしい物ですが…本人が幸せならそれでいいと思います」


 海に沈みましたが、そうしてまでも独り占めしたかった宝。

 自ら決行した海賊は、受け取る人によりますが不幸ではなかったと思います。

 想いを貫く強い意志、嫌いではありません。騎士に必要な根性ですから。


 私のとっても個人的な感想を聞いた殿下がにっこり笑う。


「幸せにするね」

「…登場人物を!?」

「幸せにするよ」

「…どのようにして!?」

「一先ず新作を買おう。気に入りそうな物語もたくさん買ってあげる」

「…感想合戦終わりました!?」


 冒険譚の登場人物について語っていたはずなのに何故私の手を握りながらそのようなことを仰るのです殿下! そして今ので感想終わりですか!? 終わっちゃう感じですか!?


(殿下が知りたかったのは小説の感想ではなく、執着への感想。もっと言えば執着する姿に忌避感がないかだ…)


 壁際に立つお兄さまのとっても静かな視線に見守られながら、私は殿下に促されるまま隣室…いつの間にか控えていた商人達に本をたくさん勧められた。


 たくさん本が買えて嬉しいですがこれじゃない、これじゃないです殿下!

 じ、自分で歩いて見て探して買いたい――――…!!







「事故チューだったのに! 本日11/22から書籍発売! 電子書籍も対応しておりますのでよろしくお願い致しますー!」

「突然どうした」

「叫ばねば、いけない気がしました…!」


 よろしくお願い致します!


作中の冒険譚は即席で作ったお話しなので詳しい内容は特に考えていませんが、多分好奇心旺盛な謎解き大好きな主人公が宝を求めてあちこち旅をする短編小説集。


本日11/22 プティルブックス様より

本作 事故チューだったのに! が発売しました!

店舗で書籍が並んで居る…電子書籍もあります!

イラスト:日下コウさん。可愛いイヴと甘々なアルバートだけでなく、不動のお兄さまとお騒がせロレッタも描いてくださいました。是非書籍を手に取って確認だ!

よろしくお願い致します!

挿絵(By みてみん)


ちなみに「あなたが奇跡を得るのなら」

シリーズに追加された短編は猪令嬢マデリンの恋物語。


そして新連載「絶対呪ってやるからな!」

イヴ達の世界、ずっと未来のお話しです。

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