事故チューだったのに! 後編
「僕の天使」
お兄さまが「頑張れ」と声援を残して退室して、日が暮れて。
豪華な夕飯を済ませのんびりしていると、私の客間に殿下が滑るようにやって来た。
絹糸の様な金色の髪に、星を散らしたような黒い瞳。
すっと伸びた背筋はとても姿勢がよく、廊下を歩く姿からきっと身体を鍛えているんだなと私はずっと思っていた。姿勢から、なんとなくわかるのだ。程好く鍛えた筋肉が隠れているのが。あっもしやこれは不敬!?どこを見ているの私!
さっと視線を逸らそうとしたけれど、滑らかな動きで私の隣に座った殿下に視線が吸い寄せられる。だって、自分の膝の上に添えていた両手を両手で掬い上げられて、薄い唇がちゅっと触れたのだ。ぴゃー!?沸騰した薬缶の如く高い音を出しますよ!?何なら噴火しますよ何してんですか!?
「君が待っていると思うと僕のやる気も満ちてくる。こんな気分よく仕事が捗る日が来るなんて思わなかった。どうかその羽根でどこにもいかないで、僕の傍で羽を休め続けて欲しい。君がいないと僕はとんでもない役立たずになってしまうんだ」
自虐ネタやめてください。
これ絶対魅了にかかってた役立たず期間を自分でディスってる。
でも私がいればそんな事態にはならないって言ってる。言いながら指先にちゅっちゅするのはやめてください心臓が破裂して死んでしまいます。なんで一々ちゅっちゅする必要が?真実の愛故に?おやめください心臓が、きゅっと、止まります。
…しっかりするのよイヴ。殿下が麗し過ぎて心臓が煩いだけ。身分が違い過ぎるもんね仕方がないね。このドキドキは不敬を働き続けているからよ。いつバッサリ罰せられるか不安なのそうに決まっている。何より動揺で心臓が忙しないの。だからドキドキするのは仕方がない仕方がないこれはときめきじゃない。勘違いしてはダメ、だっておかしいでしょう以前は別に殿下のことは殿上人と思って距離を置いて見ていたのにこんなことになるなんてきっと裏があるに違いないそうこれは動揺を恋と勘違いしている吊り橋効果で私は殿下にときめいてなど―――…。
「ふふ、剣を握る手をしている。僕の天使は勇ましいね。その勇気と愛が僕を救ってくれた…ああ、僕の戦女神。どうか愚かな僕を見捨てないでくれ。君が僕に触れた時から、君の体温が愛しくて仕方がないんだ」
ときめかせんな――――!!
誰でも対等に扱うはずだった殿下は、まさかの熱愛溺愛系だった。
殿下があまりにもぐいぐい来るから、魅了の呪いが路線変更しただけなのでは?という疑いも出ていた。
でも誰が見ても呪いの気配はなく、殿下は正気だった。呪われている間誰の話も聞かずロレッタ嬢だけに従っていた殿下は、別に私に忠実なわけではない。周囲の言葉を聞くし問題なく会話が出来るし、今までの不甲斐なさを詫びて自ら仕事を増やし、遅れた分の執務に励んだ。その様子を見て、周囲も殿下が普段通りに戻ったと安堵した。
私への溺愛は、真実の愛を見つけたからこそのもので、魅了されていた様子からもともと愛したら一直線の人だったのだなと周囲は納得していた―――何より殿下の熱愛にあっぷあっぷしながら羞恥で身悶える私を見て、生ぬるくも優しい視線で見守られることになったのだ。助けてお兄さま。ひたすらに、皆さんが私を見る目が、恥ずかしい。
真実の愛によって救われた殿下は、真実の愛を示したご令嬢にご執心だという噂は、絶対この殿下の態度から来ている。
ちなみに、殿下の婚約者だと思っていたマデリン・エフィンジャー公爵令嬢は、婚約者ではなかった。婚約者候補筆頭だった。いやそれほぼ婚約者じゃん…?と思ったけれど違うらしい。ロレッタ嬢に単身突撃するほど殿下を想っているのかと思いきや、悪事を許せない正義感溢れる猪さんだった。この発言は、ご本人の口からきいた言葉である。そう、自称猪さんは私が王宮の客室に通されたその日に自らバーンと扉を開いてきた。普通公爵令嬢は自分で扉を開けない。侍女が開ける。侍女が開ける間もなくバーンッとご入場した。心臓飛び出るかと思った。
マデリン様曰く、婚約者候補筆頭であれど婚約自体はなされておらず、だけど筆頭だからこのままだと卒業後には結婚するんだろうなーっと思っている程度だったそうだ。万が一別の令嬢が選ばれることも視野に入れていて、彼女的に殿下以外の婚約者候補もしっかりいるので自分に遠慮せず殿下を支えてやって欲しいと頭を下げに来た。びっくらこいた。ここまでするなら逆に全部詭弁で殿下に恋しているのでは…?と疑った私は、愛らしく頬を染めて殿下でなく別の方に恋慕しているのだとこっそり教えていただいた。びっくらこいた。だってお相手、え、いいんですがマデリン様、そいつ頭空っぽと噂の女性大好きナンパ野郎…確かに女性に優しいし伯爵家の跡取りで優良物件だし女性大好きだけど交際中は浮気しないと噂の放蕩息子ですよ。女性と長続きしない理由は頭空っぽすぎる所為ですよいいんですか。え、そこが好き?世の中いろんな人がいる…!
マデリン様は自分という婚約者がいるから私がずっと秘めた恋をし続けていたのだと思い、真実の愛で呪いが解けたのだから自分という婚約者は気にせず是非仲良くやって欲しいと思ってその日のうちに誤解を解きに来た。そうですね、マデリン様その場にいましたからね。何なら事件の当事者です。目をきらきらさせてお伽噺の奇跡を目に出来るだなんてと興奮気味でした。やめてそんな目で私を見ないで。
もう一人の当事者、むしろ容疑者のロレッタ・アップルトン嬢。
彼女は殿下の様子に狼狽えて、呆然としている間に殿下の護衛が事件の事情を聞くという言い分で確保した。常に令息たちに囲まれ守られているロレッタ嬢を障害無く確保するチャンスだったのだ。むしろ殿下にもう一度魅了の呪いを掛けられる前に確保する必要があった。
ロレッタ嬢は、容疑を否認し続けている。呪いなどかけていないと繰り返し、現在は呪い封じの牢屋で隔離されている。お抱え呪い師によれば、彼女から魔女の気配を感じるので、自覚なく魅了をかけ続けている可能性があるとのこと。特に成績がよくないのにチャンル学園に推薦されたことも何か理由があるかもしれないので、彼女を推薦した男爵も確保されたらしい。酌量の余地があれば永遠の呪い封じを埋め込まれてお家に返されるらしいが…否認し続けているので、まだまだ時間がかかりそうである。
このあたりは本当にどうなったのかわからない。何せまだ三日目で、私は客室から全然出ていない。情報を持ってくるのは突撃自称猪令嬢マデリン様と、熱く愛を囁くアルバート殿下だ。本日新しく加わったお兄さまは、お仕事があるので滅多に会えない。くすん。
…何が言いたいかって、そう、じわじわ外堀を埋められている気配がこう、バンバンするのだ。じわじわどころかガンガン埋められている気がする。
お伽噺はいつだって、真実の愛の口付けで、呪いを解いて終わっていた。
真実の愛で呪いが解けて―――二人はめでたく結ばれました、と。
それが、現実になろうとしている。
私は最低限でも淑女教育されている伯爵令嬢。身分は足りないけれどお爺様は陛下の覚えが目出度い忠義に溢れる家臣。お兄さまは殿下の護衛騎士に抜擢される実力者。
我が伯爵家はどこの派閥にも属しておらず、あえて言うなら中立。領地を持ち困窮もしておらず、富過ぎているわけでもない。ほどほどののんびり経営が成功している領地だ。お父様には野心もなく、後ろ盾として強すぎることも弱すぎることもない。正直可も不可もないだろう。
しかしそこに加わる真実の愛。目に見えない漠然とした思いではなく、呪われた王子様を助け出した実績。民衆が大好きな、お伽噺の様な愛の奇跡。
現在周辺諸国に軋轢もなく、目だった不穏分子もない。真実の愛に救われたのだと掲げれば、アルバート殿下の伴侶を巡って問題が勃発することもない。何故なら、二人に横槍を入れるのは真実の愛に横槍を入れるという事。政治として正当性があったとしても、愛の奇跡に沸いている者たちが何と言い出すかわからない。この勢いのまま婚姻をまとめてしまったほうが魅了の呪いにかかった醜聞も愛の奇跡で上塗りされる。
殿下がぐいぐい来るのはこのあたりの事情もあると踏んでいるのだが、星空みたいな目を熱でとろとろ溶かしながら見つめてくるので、断言が出来ない。これが全部演技なら騙されても文句は言えない気がする!みんな騙されるに決まっているもの!!
私はどっくんどっくん跳ね続ける心臓を何とか鎮めながら、麗しい殿下をそっと窺った。すぐ殿下と目が合って、とろりと微笑まれる。嘘です全然鎮まりませんこの心臓。このままだと早死にしてしまう。鎮まれ我が心臓、何故そうも荒ぶるのか。心臓が止まる前に私が溶けそう。
この三日間、殿下は夕食後に必ず私の客室を訪ねた。どうやら食事の時間を圧して遅れを取り戻そうと忙しいらしく、本当なら私とこうして会うのも時間が惜しい程の忙しさらしい。完全に火がついている。それを何とか調整して夕食後、こうして顔を合わせている。
一日一回は必ず私に会いたいし触れたいからと言って。
…。
…三日なんですが…。
三日なんですがそんな扱いされたら自惚れて惚れちゃうじゃないですかあああ思春期の思い込みの激しさを舐めないで下さいよぉおおお!!
正直殿下の呪いが解けたのが、本当に私の愛の力なのかわからない。だってそんなつもりは本当に髪の毛ほどもなかった。でも呪いが解けた瞬間を多くの人が目撃して、状況的に私のく、口付けが理由にしか見えなかった。
だから何かの間違いで勘違いじゃないかって思うのに、呪いを解く最大の魔法は愛だと、この国の者なら幼子だって知っている。私も知っているし信じている。信じているから、私が自覚していないだけで殿下を愛していたことになる。羞恥しかない。
それでも信じられなくて戸惑うのに、殿下は呪いが解けたその瞬間から私をお姫様のように扱って、天使のように女神のように褒めたたえて愛でて…戦女神とかちょっと嬉しかったそうです私ちょっと強いんですうふふえっへん…そんなふうに扱われて、ころっと恋に落ちない思春期女子がいるなら教えて欲しい。私はころっと転がされてしまいそう。
チョロイとかそんな、だってだってだって…そもそも私が殿下を愛していたなら、殿下に愛を返されて嬉しくならないわけが無くない?つまりそういうことでは?ここは喜んで転がるところ?淑女として未熟な私はこのまま流されていいのか不安で仕方がない。
その不安を、殿下の熱烈なお言葉と態度で溶かされてしまいそうで、怖くて仕方がない。
真実の愛があったから、殿下は私に愛を返してくださる。だけど私にその自覚は薄く、むしろ熱烈な殿下に振り回され気味。
だって事故チュー。私にも殿下にもそんなつもりはなかった。結果呪いが解けたけど、きっかけは事故。それなのにここまで大きくなったお話に、根っこにある戸惑いが隠せない。
そんな私に、アルバート殿下はとろりと微笑みかける。
「愛しい僕の戦女神。僕の愛だけじゃ、不安かな?」
「あい…っ!?いえその…私がちゃんと、出来るかが不安で…私は伯爵家の者ですし、淑女として修業中の身ですし、殿下に何も出来ておりませんし」
「君がいるだけで僕は何事もこなせるのだから君の存在自体が力なのだけど…不安なら、君の愛をここに示してくれないかな」
「ふげっ!?」
長い指がここ、と示したのは笑んでいる男性的な口元。ほげぇ!?
「ななんあぁなじぇでしゅか!?」
「君が真実の愛を僕に与え続けてくれるなら、僕は何でもできる。君は何も心配しなくていい。愛しい戦女神、どうか与えてくれないか?憐れな下僕に貴方の愛を」
殿下が下僕とか言っちゃだめぇえ!!
いやほんとなんでそうなったの!?
「何より呪い封じの牢に居るとはいえ、未知の力を持つ魔女だ。もしかしたら少しの油断で呪いを再度かけられるかもしれない。そうならないよう是非、僕に君の愛を与えて欲しい」
あー!なんか三日前呪い師もロレッタ嬢を未知の生命体とか言ってましたねー!?危険はまだ去っていないからここに居て欲しいとは言われましたー!!
…え、なんでニコニコしながら黙っちゃうの?待ちですか?待ちの姿勢に入られた!?
確かに私がここに居るのは殿下を愛していて、呪いを解くほど愛していたからで、そんな私に今できるのは殿下に愛を示すことだけ―――になるのそうなの何かおかしくない!?助けてお兄さま!
あああ殿下が目を閉じて完全に待ちの体勢に…!何ならちょっと身を屈めて届きやすくして下さって…その気遣いが出来るなら何故この流れに持って行きましたか!!淑女としてこれはよろしいの!?淑女からゴーとかいいの!?あーそもそもファースト接触は私からでしたね!!つまりそういうことだと!?血を吐きそうです鼻から!!
ぐ、う、私に出来る最大の魔法…!ここに居る意味…殿下を呪いからお守りすること…わ、私の口付けで殿下が心置きなく活動できるなら捧げるべき…なんかもう婚約の流れに乗ってるし不埒者にはならない…よね!?行くのよイヴ・ベルンシュタイン!女は決断、行動力!
自分を鼓舞して身を乗り出す。震える手を殿下の肩に添えて、ぎゅっと引き結んだ唇を微笑んでいる相手の唇へ…向けた瞬間、角度がよろしくなかった。思ったよりも殿下と身長差があって、よいしょっと背伸びした勢いが良すぎた。私はレイピアを握る握力と腕力をいかんなく発揮してうっかり、殿下をソファの上で押し倒した。
ファアアアアア何してんだ私ぃいいいっと思う間もなく殿下の背中はソファの腕掛けに。勢いよく乗り上げた私は思ったより強い力でむちゅっと。ちょんっと触れるだけのつもりだったそれがむちゅっとした感触に変わっていた。ファァアアアアアア!?ちょ、これ、ファースト事故接触の二の舞…!
触れた場所からふふっと笑い声が漏れる。うっすらと星空を覗かせて、殿下が艶やかに笑った。
「僕の天使は可愛い」
ごっふ。
きゅうっと目を回した愛しい人に、笑みが止まらない。白い頬を薔薇色に染めて、淑女らしく気絶する様子は守ってあげたくなるほど初心だ。騎士の家系で武骨に育てられながらも、孫娘や妹可愛さに男を近づけなかった家族の過保護具合が透けて見える。
そんな彼女が目を回し、真っ赤になりながら必死に今を飲み干そうとしている様子は、愛らしくて仕方がない。
アルバートは自分の胸に倒れ込むように気絶している少女のまろやかな頬に触れて、その体温にうっとりと目を細めた。
(よかった。やっと捕まえた)
魔女の呪いは本物だった。自覚がないくせに強力で、偽りの愛を植え付けられた。反発すればするほど深くなり、夢と現実が曖昧になる。自分の言動が曖昧になり、魅了者の望む行動をとるようになる。
姿が変わったり眠りについたりする呪いでない分発覚が遅れ、被害は甚大だった。だが呪いが一つ解かれたならば、そこから綻びが生まれて全体の呪いは解けていく。魔女と距離を取ることで、その威力も落ちるだろう。この三日間で正気に戻った者もいて、彼らは信用回復の為奔走しているようだ。それはアルバートも例外ではない。アルバートの場合、解呪のきっかけとなったので皆が好意的に受け止めているに過ぎない。何せ、奇跡の一幕を見ることが出来たのだ。
真実の愛の口付けで、魔法は解ける。
お伽噺のような本当の話。この国の者たちはそれを信じていたけれど、実際目にする機会はほとんどない。そもそも呪いが頻発しているわけでもないし、真実の愛を示して口付けを交わすものもいなかった。
…アルバートは王家なので、この真実の愛の裏側を、実は知っていた。
真実の愛は、恋慕でなくても構わないこと。
たとえ両想いでなくても構わないこと。
言ってしまえば親子の無償の愛情でも適用される。純粋に誰かを想う口付けが、邪な呪いを跳ね除けるのだ。それを王家の教育で知っていた。
さらに言うなら愛する者との口付けは、どちらが愛していても変わらない。呪われた方でも、呪いを解く方でも構わない。それなのに呪いを解く方が真実の愛を必要としているかのような風習は、覚悟がいるからだ。呪われた者と口付けを交わす行為は、呪いを解く方により覚悟がいる。呪われた方は、愛していても姿かたちが変わった状態で愛している人と口付けを交わすことが出来ない場合の方が多いので、この事実にはなかなか気づけない。
呪いで姿を変えたものに、何の想いも抱いていない者が口付けをできるか?出来るわけがない。出来るのは、真実の愛を抱くものだけ―――ということだ。だから真実の愛は、呪いを解く側に必要だと思われていた。別に呪われた側が愛しているなら、その人との口付けで呪いは解けるのに。出来るかは別として。
だから別に、イヴがアルバートを愛していなくてもよかった。
アルバートが、イヴを愛していたから。
アルバートはずっと、イヴ・ベルンシュタインだけを見ていた。
護衛騎士のエディ・ベルンシュタインに仔犬のようにじゃれついている様子を、ずっと見ていた。
近づかなかったのは、王子としての責任感。近づけば欲しくなってしまうから、無責任な行いをしないため近づかなかった。アルバートは一番条件の良い令嬢と婚姻を結ぶのが決まっていた。たとえその令嬢が別の男に恋をしていても、お互いどうすることもできない。最有力のマデリンは戦友だったが、愛していたのはイヴだった。愛妾など争いの種にしかならないので、アルバートは恋心に蓋をして閉じ込め続けるつもりだった。
だけど、無知な魔女が現れて。
運命は―――アルバートにとって都合がいい方向へと回転した。
ふふ、アルバートはとろけるように微笑んで、まだ目を回している愛しい人を見つめた。流されることに戸惑って、何とか踏ん張ろうとする彼女に心の中で囁く。
(大丈夫、今は戸惑っても―――…いずれ、全部真実になる)
たとえ勘違いでも、思い込みでも―――繰り返せばそれが真実。
どくどくと胸を高鳴らせながら、アルバートは熱い呼気を吐いた。ずっと求めていた人が、手を伸ばせば触れられる場所に居る。嗚呼なんて幸運な事だろう。
これは家臣たちが心配していた呪いでも、勘違いでも、思い込みでもない。
とっくの昔にアルバートの想いは本物だ。
だから今度はイヴが、勘違いでもいい。思い込みでもいいから、アルバートを愛せばいい。
必ずそれを真実にして見せるから。
幸い、真実の愛の口付けは、呪いを解く方に必要だというのが一般的。アルバートが何をしなくても周囲は勝手に誤解して、イヴもそう思い込んでいる。たとえ誰かが疑っても、アルバートの呪いが解けたのだから真実の愛は本物だ。その愛が、イヴにあるかアルバートにあるかの違いがあるだけ。
だから何の問題もない。
「愛しているよイヴ」
ちょっと回復してきた愛しい彼女に囁いて、真実の口付けを落とす。
愛しい天使は複雑怪奇な悲鳴を上げて、頭を抱えて叫んだ。
「事故チューだったのに!」
事故なら責任を取ってもらわないと。
嘆くイヴに、アルバートはただにっこりと笑った。
自分は彼を愛しているんだと思い込まされる令嬢と、転んでもただでは起きない棚ぼた王子のお話でした。本当は…吊り橋効果的なお話が書きたかったんですが無理でした…。
ありがとうございました。
投稿した後に誤字が見つかる現象を何とかしたいですね!!(嘆き)