おや?殿下のご様子が…
感想ありがとうございます。お返事してませんが読ませていただいております。
はい、皆さんお察しの通り。
この主人公おかしいです。
ハグを頑張ったら殿下が機能停止したのですが――――!?
お兄さまとお話しした結果、お兄さまとの距離感が世間的には恋人同士の距離感だと言われ。
ならば殿下との距離感をお兄さま対応にしなければと己を鼓舞し。
出迎えの、お帰りなさいのハグをした結果。
見事な彫像が出来上がりました!!
ご覧ください見事な硬直具合です!!
健やかな笑顔のまま動かなくなった殿下にオロオロしている私と控えるお兄さま。
動かない…ハグでも癒しきれないほどの疲労が殿下に蓄積されている…?
大分お疲れのご様子に、これは癒さねばとハグを続行することにしました。ハグは癒しですからね!!お父様もハグがあればどんな仕事の山も越えていけるとおっしゃられていました!
「成程、追い打ち」
お兄さまが何かおっしゃいましたが自分の心臓の音で何も聞こえませんでした!!
頑張ると決めましたがやっぱり恥ずかしいですねこれ!!いつも以上に心臓が太鼓です!!全身が太鼓です!!なんだか二重奏だった気がしますが私の心臓がドコドコドコドコ鳴り響いていたのでちょっとよくわからないです。
その後、殿下はドーソン様に呼ばれてお戻りに。本日のダンスレッスンはおやすみになりました。
殿下はお呼びがかかるまで、指先一つ動かない程硬直なさっていました。
なにゆえ?
それほどお疲れ…違う?原因は私?お兄さまがおっしゃるならきっと私が原因…だとしても、何が悪かった…悪かったの?ダメだったの?ビックリしたの?殿下が動かなくなるなんてよっぽどでは?突然のハグはよろしくなかったという事?
なんとなく殿下なら、余裕で受け止めてぎゅっとしてくださると思っていたのだけど。だっていつもぎゅっとしてくるのは殿下の方だし。私がわたわたしても擦り寄るのをやめないのが溺愛対応殿下です。だというのに私からぎゅっとすると機能停止とは、やはりお疲れだったのでは?
「与えるのに慣れていても受け取るのに慣れておられない、のだと思う」
「可哀想では??」
むしろ欲しいものはなんでも手に出来そうな地位の方なのに。
受け取るのに慣れていないとかそんなことがある?殿下ですよ?次期国王ですよ?
学園で遠目にですが、手作りお菓子や貢物を頂いているところを見たことが…あれ?そういえば、受け取っているところを見たことが無い気がします。
…見たことが無いですね!!受け取っているところ!!
あ、あ、あ、あれぇええ~~~??そういえばいつも受け取り拒否していた気が!!する!!
「殿下だからな。不用意に贈り物を受け取るわけにいかないだろう」
「可哀想では!?」
お、贈り物一つ一つの裏側を考えなければならない世界…!!
だからこそ不用意に受け取ることが出来ず、与えられるより与えることに慣れ、自分から行動するのに慣れ、他人からの行動に慣れていないと!?そういうことですか!?奉仕されることに慣れているからこそですか!?確かにお仕事ですものね!!
可哀想では!?
…という事はあの機能停止は本当に機能停止していたの?ビックリしていたの?どうすればいいのかわからなくて固まっちゃてたんですか?あの殿下が?なんでもそつなくサラッと熟す殿下が?
そう考えると…あれ?か、可愛い…?
え、殿下が可愛い!?可愛い気がしますお兄さま!!
固まる理由は可哀想ですが、動揺する殿下は可愛い気がしますお兄さま!!
まだ殿下に慣れませんでしたが、小さな動揺で固まってしまう可愛い所があるなら親しみを覚える気がします!
それに…。
「与えてばかりでは疲れます!婚約者として、これからは私が与える側になるよう頑張ります!」
「…頑張れ」
「何故顔を背けるのですお兄さま?」
何故です??
それから数日が過ぎ、私はお兄さまのいる生活にウハウハだった。
お兄さまがいるだけでこの目が回る様な忙しさも楽しみに変わる。詰め込み過ぎた知識で頭が痛くなっても、理解できず宇宙に打ち上げられても、視界の端にお兄さまがいれば冷静になることが出来た。冷静に…冷静かな…?じっと佇むお兄さまの真剣なまなざしにきゅんきゅんしっぱなしだった。
お仕事だと分かっていてもときめきが止まらない…そんな私は最近気づいたことがある。
お兄さまを見詰めていると、殿下が拗ねる。
お兄さまがお兄さまでお兄さまだとお話ししていても拗ねる。
最初は拗ねられていることに気付かなかったが、お兄さまに指摘されて気付いた。
いつも甘い言葉の溺愛対応の殿下が口数少なくくっついてくる時は、拗ねている時だという事に…!!
え?
拗ねているの?黙るから疲れているのかと思ったら?
え?拗ねると黙るの?
いつも流れるように美辞麗句が溢れてくるのに。こっちが照れるくらいの熱量を言葉で表すのに。拗ねると黙るの?
え?
―――可愛い。
か、可愛い~~!!拗ねて黙るの可愛い!!
私は思わず両手で顔を覆って天を仰いだ。お兄さまの胸元に頭突きしてしまった。だって寛ぐときはお兄さまのお膝に乗るから!!でも揺るがないお兄さまの筋肉は今日も素敵です!!
ハッしまった今は、殿下のことです!!
拗ねて黙っていたのだとしたら…とても可愛いと思う!!
わ、私はかまってちゃんよりじっとこちらを窺う子供の方が気になる女!!
喜ばせる言葉より包むように手を握られる方がときめく女!!
はい、ぶっきらぼうな言動が多いお兄さまが大好きな女です!!
お兄さまが困った時、こちらをじっと見つめる視線に滅法弱かったりします!!その動作を殿下がすると思えば…アーッコマリマス!!普段口数の多い殿下が寡黙にくっついて来るのはコマリマス!!ピャァー!!ギャップモエェ―――!!
ど、どうしましょう。普段の口説き文句より拗ねている様子にきゅんきゅんします。ぎゅってしてあげたくなる…年上の殿方に失礼ですよね。この想い、封印せねば…。
しかし何故…何故拗ねるのです…?お兄さまとお話ししているだけですよ…?
今も膝に乗ったり半身ぴったりくっついたりほっぺたすりすりしたりしますが、肉親として当然の距離感では…?どこに拗ねる要素が…?
確かに、この距離感は恋人のものと似ているそうですが、私たちは血の繋がった兄と妹。似ているだけで違います。
似て非なる物。
そんなこと、わかり切っていると思うのだけれど。
思うのだけれ、ど?
…え、もしや本当に、お兄さまに嫉妬を…?
嫉妬…するの…?お兄さまに…?
ええ…?何故…?
疑問が一周してしまう…答えが出ない…どうすれば…。
…ハッ!
殿下にご兄弟はおられない…つまり一人っ子!!ならば兄弟の距離感などはご存じでない!!
つまりそういう事では!?
理解しました!!成程!!
知らなければ想像するしかなく、貴族は慎み深く家族同士でもあまりくっつかないのでわからない!!私とお兄さまの距離感は他と違うところもあると聞きますし、過剰に見えたのかもしれません!!
だから嫉妬するんですね理解!!納得!!
なら仕方がないですね!!
慣れて頂くほかありません!!!!!
家族とは長く付き合うもの。これからも私はお兄さまにべったりなので、殿下にはわかっていただくほかありません。
勿論私はここここここ、こいび、こん、婚約者として!距離を詰める努力をしなければ。何故なら殿下が拗ねるのは、私の愛情不足かもしれないから…相変わらず、殿下からの触れ合いに慣れません。何だかんだ私も、殿下から来るハグには挙動不審になりがちですからね。今日も心臓が絶好調でした。そのうち銅鑼になるかもしれません。開戦の合図か?何と戦っているんだ?
それにしても、お互いがお互いからの行動に慣れないとは…何だろう覚悟の違い?行くぞって言う覚悟の違い?覚悟を決めて臨む触れ合いとは??
相手は猛獣か?
何故得たりと頷かれるのですかお兄さま。
お兄さま、私は珍獣ではありません。
勿論猛獣でもなく…何ですか猛獣令嬢って。どれだけ凶悪なんですか王都の令嬢は。猪令嬢で打ち止めをお願いします。それ以上はいりませんから。
猪令嬢がいるのもおかしな話なんですよ。しかも他称ではなく自称ってどういうことです?自分で認めれば許されるわけでは、
「お茶会をしますわよ!」
だからっ呼んでません猪令嬢―――!!!
主人公おかしいけれどおかしい人への突込みのキレがいい。
お兄さま以外のことではそこまでバグってない、はず…。
殿下視点はちょっとの間お休みです。何を思っているんですかね?