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色の見える少年

作者: 碓氷ミチル

「きみは、不思議な色をしているね。」

ランドセルロッカーから出し忘れた筆箱を出そうとしていた時だった。振り返ると今年初めて同じクラスになった眞栄田天まえだてんがいた。今日は小学三年生に上がってから四回目の登校日だった。

「色って何だよ。」そう聞き返すと天は何も言わず廊下の方に歩いていってしまった。「へんなやつ。」とボソっと呟き俺は自分の席に戻った。

それから数日後、今度は下校時だった。靴箱で靴を履き替えているとまた天がやってきた。また何か言われるんじゃないかとソワソワしていたが、そんな期待を裏切り何も話しかけてこなかった。天はすぐに靴を履き替え、グラウンドの先にある道路の方に歩いて行った。段々小さくなる天を見て、思わず追いかけてしまった。すると天は俺が追いつく少し手前で立ち止まり、「なんか用?」と少し低めの声で聞いてきた。無愛想なやつだな、と思いつつも追いかけた理由が自分でもわからなかった。誤魔化すようにして聞いた。

「いや、あのさ、この前のあれ、何だよ」 

「この前のあれ?」 

「なんか色がなんとかとか」

「ああ、あれね。きみは不思議な色をしているからさ。」

相変わらず何を言っているのか分からなかったが、真面目で冷静な態度から明らかに冗談ではない、ということだけは読み取れた。

「いや意味がわかんないんだけど。」

「僕、人の色が見えるんだよ。」

「人に色って肌の色とかか?」

「違うよ。言い換えるとオーラ、みたいなものかな。」

「そんなのどうやって見えるってんだよ!」

「見えるんだよ、生まれつき。」

「そんなもん信じれるかよ。」

「じゃあ信じなかったらいい。」

そう言うとまた天は歩いて行った。俺はそういう不思議な力は信じていないし、信じたくないのかもしれない。サンタだって幽霊だってそんなもん、信じてない。サンタを未だに信じている姉を見ていると、親からしたら俺は全然可愛くないんだろうな、と思った。それでも天の言う「俺の色」はなぜか気になって仕方がない。占い師とか手相の雑誌とか、そういう俺に関わることですら興味がなかったのに。気がつくとまた後を追っていた。

「なあ、教えてくれよ!」もう追いつく、というギリギリのところで俺は叫んだ。

「なんだ、まだ居たのか。」と言いながらも天の顔は少し嬉しそうに見えた。それから俺たちは近くの公園に移動することにした。夕方の公園は俺たちくらいの子供連れの親子が多かった。彼らがボール遊びや砂遊びをしている中で端の方にあったベンチに腰掛けた。

「お前の力ってのは、人の色が見えるんだな?」

「そうさ。」

「どんな色なんだ?」

「そりゃ、人によるけども。」

「俺はどうなんだ。」

「そうだな、なんか人とは違うんだよ。」

「悪い意味か?」

「いや、むしろ逆かな。今まで数え切れない数の人を見てきたけど、どんな人でも少し暗い闇の色みたいなのがあったんだ。それがお前にはない、それだけだ。」

「そうか。そんなことがあるのか。」

「まあそんな俺の力を信じたくないなら信じなくてもいいけどさ。」

「まあそうだな。」

目の前には三匹の鳩が首を前後に動かしながら歩いていた。天の力は未だに信じきってはないが、こいつの力は面白いと少し羨ましくもあった。

「なあ、お前には世界が何色か、なんてことは見えないのか?」

「そうだね、あくまで人の色しか見えないから。けど見えたとしても毎日変わっているんじゃないのかな。」

「毎日色んなことがあるもんな、学校だって毎日同じに見えて実は全然違ったりもする。」

「きみには、この世界が何色にみえるの?」

「俺にはお前みたいな力がないからよく分からないけど、世界には色なんてない、って思うよ。」

「面白いね。」

「世界の一日だけを取り出してみても、本当に色んなところで色んなことが起きてる。それは幸せなことだったり、不幸なことだったり、素晴らしいことだったり、本当に様々で。そう考えると世界には色んな色が入り混じって綺麗なのかもしれない。けどそんな色を全部かき混ぜたらどうなる。図工で赤と青を混ぜれば紫になります、なんてこと習った時に俺は配られた絵の具全部を混ぜることにした。どんな色が出来るんだろうって思って期待したけど出来上がったのは見た目はほとんど黒色だったよ。本当は綺麗な色達だって混ざってるのに、黒が入った瞬間に全てが黒に呑み込まれるんだ。ちょっとがっかりしたよ。だから俺は世界に色はない、と言うよりも付けたくないんだ。一人一人が今日も世界は美しい、そう思える世界を作りたい。今日も世界は美しい、と信じたい。」

「そうか、いい考えなんじゃないか。俺も世界は美しくあってほしいと思うよ。」

空を見上げた。空は広くて今日も青かった。青すぎて眩しいほどに。


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