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地獄の遊園地

作者: shin

金四郎は地獄に来てもうすぐ5年が経とうとしていた。


生前に窃盗や恐喝を繰り返し、ついには罪のない人間も複数人殺害するなど悪事の限りを尽くした金四郎は有無を言わさず地獄行きとなった。そこから5年間、金四郎は休む事なくひたすら洞窟を掘り進める仕事をしていた。


地獄では死ぬ事も出来ず何も食べる事も飲む事も出来ずにただ働くだけの毎日を送っていたが、そんな中でも今の金四郎にはとある楽しみがあった。


地獄で与えられた仕事を5年間続ければ"遊園地"に行くことができるのだ。


金四郎は生前の話では遊園地に行った事はなく興味もなかったが、今はこの過酷で退屈な生活の中での唯一の心の支えになっていた。


「へへ、ついにチケットをもらったぞ。後は3日後の出発を待つだけだ。」


遊園地行きのチケットを胸ポケットに大事にしまって金四郎は仕事に戻った。


ーー3日後ーーーーーーーーーーーーー


案内人の舟に乗って血の池を10時間かけて渡った先にその遊園地はあった。


「ここが、、遊園地?」


遠くから見ても園内のアトラクションはボロボロに崩れ落ちており、とても人が楽しむ事のできる場所ではないと分かった。


「おい!本当にここで合ってるのか!?」


乱暴な声をあげながら振り返ると、舟と共に案内人の姿はすでにそこには無かった。


「ち、、何だってんだ。どうやって帰るんだ?  いや、もう帰る必要もねぇか。」


そう呟くと他に行く場所も無かった金四郎は胸ポケットからチケットを取り出し遊園地の入り口まで歩いた。


「誰もいないんじゃねぇのか、、?」


金四郎が辺りを見渡すと、園内の奥から目を疑うような巨大な牛の着ぐるみが歩み寄って来た。しかしここは地獄、驚くような光景を飽きるほど見てきた金四郎に動揺はなかった。


「"おかえり"金四郎さん。チケットを貰うよ。その後は僕に付いてきて」


「おかえり?俺はここに来た事なんてねぇぞ?」


素直に疑問を投げかけたが、チケットを渡した後には着ぐるみは一言も喋らなかった。


着ぐるみに付いていくとアトラクションには目もくれずに奥へ奥へと一直線に歩いて行った。その途中で辺りを度々見回したが、ベンチや観覧車、ジェットコースターは血の跡のようなものがこべりついていた。


時間が経つにつれて何事にも動じなかった金四郎の中にも沸々と恐怖心が芽生えていた。


(何なんだよここは?一体いつまで歩かせるんだ?どこに向かって歩いているんだ?)


「着いたよ」


突如着ぐるみの足が止まり、下を向きながら歩いていた金四郎も足を止め顔を上げた


「射的場、、?」


目の前には大きな射的場が現れた。


「ここで遊ぶのか?」


着ぐるみはその大きな体を揺らしながら初めて笑った。


「はっはっは!! 遊ぶって、、!? 君はここに遊びに来たの!?」


「ど、どういう事だ?」


金四郎が戸惑っていると、次は暗闇から巨大な鶏の着ぐるみが現れた。


「あぁ、いらっしゃい。やっと人間になれたのに、また振り出しに戻るんだね。」


「だから、何なんだよさっきから!?俺はここには初めて来たぞ!」


鶏の着ぐるみもその事に関しては口を開かなかった。


「じゃあ、最初にこのクジを引いて。」


鶏の着ぐるみが取り出した黒い箱は強烈な匂いを放っていた。金四郎はこの匂いを嗅いだ事があった。血の匂いだ。


「大丈夫。ただのクジ引きだよ。手を入れて一枚引いて?」


金四郎は言われるがままにクジを引くと、それは数字の13が書かれたボロボロの紙だった。


「13回か。じゃあ、これで次は好きな生き物の仮面を1つだけ撃って。」


銃を手渡されると、壁一面に不気味にかけられた大量の仮面を撃ち抜けと指示が出た。牛や豚、虫などの気味の悪い生き物ばかりだった。


「どれでも良いのか?」


「どれでも良いよ。でも、玉は3発だけだからよーく狙ってね。」


鶏の着ぐるみが説明をし終わると、間をおかずに金四郎は3発全てを乱暴に仮面に向けて撃ち込んだ。


そして3発中2発が仮面を撃ち抜く。豚の仮面と蟷螂の仮面だった。


「はは、2枚も撃ち抜いたぜ!どうだ!?」


「、、、、、、、」


着ぐるみは2人ともその光景を見て沈黙していた。


「何なんだこの茶番は!くだらねぇ!!もうこんな気味の悪い場所に要はねぇんだよ!早く俺を元の仕事場に戻せ!!」


「分かった。じゃあ、僕たちに付いてきて。」


着ぐるみ達に付いていくと射的場の裏に古びたトロッコがあった。


「これに乗って。すぐに動き出すから。」


「これで戻れるのか?」


「うん。それも元いた人間界に戻れるよ。」


予想もしていなかったまさかの返事に金四郎はその場で飛び跳ねた。


「本当かよ!?こりゃあ真面目に5年も仕事をした褒美か!?ここは本当に楽園だったんだな!!」


浮かれた笑顔の金四郎を乗せてトロッコは走り出した。その様子を着ぐるみ達は見つめていた。


「さようなら」


そういうと2人は振り返り、暗闇に向かってゆっくりと歩いて行った。


<1時間後>


しばらくトロッコは走り続け森林地帯に入った。このトロッコがどこに向かっているのかは分からなかったが、そんな不安も掻き消されるほど金四郎の気分は時間が経つごとにどんどん高揚していった。


「またあの世界に戻ったら、まずは俺を裏切りやがって警察に売りやがった龍太を殺してやる。そしてもう捕まって死刑になんかならねぇ。"地獄の果て"まで逃げ切ってやるよ!!」


長い間金四郎の高笑いが辺りに響いていた。そしてしばらく続いた森を抜けると正面に巨大な火山が見え始めた。


「ははは!こりゃ壮観だな!ここが地獄の絶景スポットか!?」


軽口を叩いた金四郎だったが、徐々に自分の置かれた立場を理解し始めた。


「お、おい、、。このトロッコの線路、、火山の中に続いてねぇか、、?」


線路の行き先は確実に火口に向かっていた。


「このままじゃ、、俺は一体どうなっちまうんだ!?」


金四郎の不安を煽るようにトロッコは突如急激に速度を上げた。そして金四郎はすでにトロッコにしがみつく事しか出来なくなっていた。


「何で、、登ってるのに、、速度が上ってるんだ!! 誰か、、止めてくれ!!」


泣き叫ぶ金四郎だったが、トロッコは最後まで止まる事はなく溶岩の中へ消えて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(ん、、?ここはどこだ?)


金四郎は真っ暗な闇の中目覚めた。


(君は元にいた人間界に戻るんだよ)


聞き覚えのある声だった。


(この声は、、、お前は牛の着ぐるみか!?どうなってる!本当にここから俺は戻れるのか!?)


(戻れるよ。でも人間としてじゃない。)


(どういう意味だ、、?)


(さっきの射撃場は君の来世を決める大事な場所だったんだ。射撃で当てた仮面の生き物に"まずは"生まれ変わる。それから君の引いたクジ、あれは次に何回死ねばまた人間に生まれ変われるかを決める物だったんだけど、君は13回後だね。幸運だよ?何も書いてないクジを引いたらもう二度と人間には戻れなかった。)


話の内容を理解できないまま、金四郎は暗闇の中でひどく動揺していた。


(ちょっと待てよ、、だとしたら俺は仮面を2枚撃ち抜いたぞ、、?)


(そうだよ。一体次はどんな生き方が待っているんだろうね。でも運が良ければまたすぐ人間に戻れるよ。)


その言葉を聞いたのを最後に、再び金四郎は意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<アメリカ南部のとあるサーカス会場>


「さぁ皆様!!今宵のショーの最後にお見せするのは世にも奇妙なこちらの"豚"です!!」


ピエロの格好をした恰幅の良い男が巨大な檻を覆っていた赤色の布を取り外した。


現れた檻の中には緑色で6本足の巨大な豚がいた。そして前足の2本は骨が変形して鎌のような形をしていた。


観客はその容姿を好奇の目で見て歓声を上げていた。そして緑の豚に向かって観客席から大量の金貨が投げ込まれる。


「ありがとうございます!ありがとうございます皆様!!それでは!これにて本日のショーを終了させていただきます!」


司会の男の挨拶でショーは幕を閉じた。


<終演後>


公演で使った道具を荷物にまとめる最中、演者の2人は檻に入った奇妙な豚を見ながら呟いていた。


「全く、、こんな気味の悪い生き物と一緒に移動なんて勘弁して欲しいぜ。さっさと殺せば良いのによ。」


「お前知ってるか?この食い物にもならねぇ、見世物としてしか価値のない豚でも一応金は稼げるってんで、このサーカスで永久に飼う事にしたらしいぜ?」


「永久にって、、どうやって?」


「聞いた話じゃ、、こいつは俺たちがブローカーから買った後に、あまりに珍しいってんで心臓とか体内の複数部分に色んな機械を埋め込んだんだ。そのおかげで、適当に飯を与えときゃその機械に不具合でも起きない限り一生こいつは生き続けるんだとよ。」


「け、、永久に見世物として生き続けるのか、、。よっぽど前世の行いが悪かったんだろうな。」


そう言うと準備の終わった2人はどこかへ歩いて行った。


次の日の朝、緑色の牛は檻に入れられた状態で分厚いカバーに覆われたトラックの荷台に積まれていた。

次のショーの会場へ移るため走り出したトラックがしばらくして停止した時、緑色の豚はカバーに空いたわずかな隙間から外を眺めた。


見えたのは広大な農場の一角にある小規模な"遊園地"だった。それを見た瞬間緑色の豚は暴れ出し檻を破り外に飛び出してきたが、駆けつけた飼育員に麻酔銃で眠らされどこかに連れて行かれた。


遊園地の入り口に付近に立つ大きな木の下では一匹の牛と一羽の鶏がその様子をただじっと見つめていた。

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