第25話 再会
物語は新たな章へ。月の秘密が明らかになってくる章です。
第25話 再会
エリア51の広大な地下基地にはおよそ二千名の兵士や職員が働いているとのことであった。俺は食事を終えると基地司令のあるビルへと案内される。地下空間なのに15階建ての立派なビルだ。すでにナターシャが入り口で待ち構えており、そのまま一緒にビル内の貴賓室と表示された部屋に入る。ごく普通の応接室といった感じで窓から人工太陽の灯りが燦々と降り注いでいる。ちょっと明るすぎるのかナターシャがブラインドをおろし減光する。ソファーに座ると目の前のテーブルにはポットに入ったコーヒーが用意されていた。ナターシャが紙コップにそれをそそぎ俺に勧めてくれる。ちょっと熱々で猫舌の俺は添えられていたミルクポーションを3つも入れてそれを飲む。
「う、不味いわね。苦いばかりでちっともコーヒーらしくない」
思わず声が出てしまった。ここはアメリカでも片田舎だということを思い知る。流石に都会の洗練されたカフェのようにはいかない。
「インスタントの安物よ。このコーヒーでいつも現実に戻されるのよね。私たちはこの世界の最先端の技術を担っているのに現実世界はちっとも変わらない」
ナターシャの言葉に思わず頷く俺。
さらに待つこと30分。その間にたわいない話をナターシャとする。ナターシャは祖父がロシア人であったが冷戦時代にアメリカに亡命してきたとのこと。単騎でミグに乗りアラスカに不時着したそうだ。当時最新鋭のミグ戦闘機ですぐに軍によりその事実は隠蔽されたとのこと。そんなナターシャの祖父の武勇伝を聞いているとドアがノックされた。
入ってきた人物に俺はびっくりする。大統領補佐官と聞いていたがベルフェゴールだった。ビシッとスーツで決めいかにも政府高官といった身なりだが間違いないくベルフェゴール。俺は即座に念話で会話する。
「にしても大統領補佐官とは大したものだなベル。どういう塩梅だ?」
「これはこれは大魔王様。ご機嫌麗しゅう。お元気そうで何よりです」
「水臭いぞベル。アーク、いや今はユリカと呼んで良いぞ。敬語はいらぬ。で、どういうわけだ」
「ではユリカ様。いえユリカ。実はすでに大統領も私の支配下になっております。もはやこの国は大魔王ユリカのものと言っても過言ではありません。何なりとご要望をお願いします」
「すでにメリダから情報が伝わっているかもしれないが、あのアスモデウスがこちらに帰還してきたようだ。すでに月の裏側にいるのでそこまで迎えに行くぞ」
「何もユリカが行かなくても私が行きますのに」
「私が行きたいと言っているのだ。まあ俺のわがままだと理解してくれ」
「ならばそういうことで手配します。地球製の円盤には魔石が必要とのことですが月までとなるとかなりの量ですからね。ユリカいえ、今はアリアですね。アリアはその魔石が少しずつしか出せいなということで同行するというのはどうでしょう」
「ちょっと苦しい言い訳だがそれで良い。ではそれで進めてくれ」
俺と大統領補佐官であるベルフェゴールのやり取りは念話であったため2分間ほど見つめ合ったままで微妙な雰囲気となる。ナターシャが、
「ええっと、二人ともどうしたのかしら。何か顔にでもついているのかしら」
するとベルフェゴールが、
「いえいえ、アリア様とは亡命国家樹立の際にアメリカも尽力しましたのである程度旧知の仲とも言って良いでしょう。久しぶりにその美しきお顔を拝むことができ感動に浸っていた次第です」
「男性にとってはアリアは傾国の美女というわけね。まあ納得。私も初めてアリアに会った時はしばらく見惚れていたもの」
その後、基地司令であるフォード大将が入室し会談というか打ち合わせの運びとなる。航宙士として同行するマーベル中尉という女性士官も同席する。
結果として俺は魔石の供給をする役目として月の裏側に同行することとなった。あのグレイ達も一緒だ。アメリカの意向としては戦艦ウロボロスの乗員を迎え入れ、あわよくば極東地域への入植者とするつもりだとのこと。ウロボロスにいるラカル帝国の末裔は魔王たる俺の信者であり俺の支配下となることは目に見えている。まあ、もし従わなければ実力でどうこうすることもできるがそこまではないだろう。まあ各陣営での色々な思惑があるのだろうが、今は俺の我儘を通すことに専念する。
にしても極東シベリア地区にラカルの末裔の入植を提案したのはベル本人だそうだがなかなかの良い案だ。
極東連合は極端な少子化で今や風前の灯火であることは過去の人口統計からもわかっており現在入植者を募集している。が、なにぶん寒冷地であるため人口の多いアフリカや東南アジアからの入植者はほとんどいない。ここにアメリカの息のかかった入植者を入れることは自由主義圏の利益に適う。いや、アスモデウスの支配下たる者は俺の支配下の者と同じだ。つまり俺の世界征服にも寄与することと言える。
細かな打ち合わせをベルフェゴールや基地司令、ナターシャと行なった後、出発は明日ということになった。元々ナターシャは極東連合から燃料となるエーテル素子の塊、つまり魔石を奪うこともミッションに入っていたとのことでナターシャが戻ることがわかった時点で地球製の円盤、形が円形ではないので今後はTRと呼ぶことにするが、その準備が進められていたそうだ。今回のミッションは月の裏にある巨大戦艦ウロボロスの偵察とその脅威の算定ということに表向きはなっている。が、すでにアメリカ政府はウロボロスの目的が判明したため俺をウロボロスまで送り届け無事にアスモデウスと再会させることが主要な任務となった。メンバーは俺とナターシャ、それに航空士のマーベル中尉。マーベル中尉も女性である。が、筋骨隆々の体に金髪のショートヘア。遠目には男性にしか見えないが大きな胸とお尻で女性とわかる。
・・・いかにも米軍の女将校と言った感じだな
グレイのカルキンとクリアも同行する。グレイの体内にある魔石がウロボロス内の扉等の解除キーとなっているため必要不可欠と判断されたためだ。カルキンによるとウロボロス内の隊員達は全て冷凍睡眠状態でありそれを目覚めさせるためにも体内の魔石キーが必要だとのこと。もし魔石キーがないと次のルーティンによる交代要員は一年後にしか目覚めないとのことであった。
翌日、簡易宿舎で目覚めた俺は用意された宇宙服に着替えるためにTRの駐機している格納庫に併設された準備室に赴く。途中、ナターシャと合流して電動カートで移動。5分もかからずに到着する。するとそこに同行するマーベル中尉が待ち構えていた。なぜか白いタンクトップに迷彩ズボンのみという軽装。
「アリア准将。まあ名誉准将とのことなのでこの際はっきりさせたいことがある。どう見ても私にはただの小娘とにしか見えないからな。これからアメリカ最大の極秘ミッションが遂行されようとするのには一番似つかわしくない者と言って良いだろう。私はいささか不安なのだよ。ナターシャからそれなりの武術を極めていると聞いているがそれが本当か試させてほしい。私の憂いをなくすためにも」
つまり手合わせしたいということだな。
「ええ、よろしくてよ。まあせいぜい怪我しないように手加減してあげるわ」
その言葉にマーベル中尉はかなりムッときたようだ。俺も着ている軍服を脱ぎタンクトップ一枚とパンティのみとなる。ズボンはダブダブなので足にまとわりつくからだ。
「これ履きなさいよ。ここには男性もいるからね」
ナターシャが俺に短パンを渡してくれた。おそらく自分用のものだろう。やはりちょっとブカブカだがないよりはマシだ。それを履くと俺は身構える。
「まあ、一端の形にはなっているな。が、容赦はしないよ。もし怪我でもしたらミッションには来ないでくれ。魔石だけ置いて行ってもらうよ」
マーベル中尉は本気でやるようだ。俺も本気で相手することにしよう。ただし魔法抜きで。格納庫前に大勢の隊員達が集まってきた。おそらく百人は超えているだろう。ほとんどが女性隊員だが男性もわずかにいる。聞いたところによるとこの基地の9割は女性だそうだ。なぜか不思議に思っていると突然メリダから念話が入る。どうやら基地内のシステムに侵入できたようだ。俺の無事を確認した後、
「現在のアメリカ共和国の人口の7割が女性です。出生率こそ減ってはいませんが、なぜか40年前から生まれてくる子供のほとんどが女性だそうです。今や米軍の9割が女性なのもそのためです」
心あたりはある。異次元のゲートが開いたことにより男性のY染色体を好んで食べる超小型の魔物がアメリカに侵入してきたことが原因である。確かミッドガリアとかいう世界だったかな。冒険者時代に訪れた所だ。ここでもやはり女性ばかりで男性の俺は三日とかからずハーレム状態となったところだ。ほぼ女性ばかりの世界。その原因はその超小型の魔物。それが異世界ゲートを通じてやってきていたのだ。
人と人の性接触でウイルスみたいなこの小型の魔物は繁殖していたはずだ。原因がわかっているので対処は容易い。メリダにこの魔物を消し去る魔石ワクチンをアメリカに売りつける算段をするように命令する。これで俺の資産はまたまた増えるな。
そんなことを一瞬にして脳内で処理しているとマーベルはすでに戦闘体制。いつでもかかってこいと手招きしている。
「では行きますわよ」
俺は縮地で一瞬にしてマーベルの懐に入る。肘で胸をつくが素早いステップバックで瞬時にかわされた。
「おっと、流石だな。が、速いだけでは格闘術では勝てても実際の戦闘では勝てないよ」
今度はマーベルが低い姿勢から回し蹴り。俺はそれを予測して飛び退く。が、さらに連続して回し蹴りが。俺はその足を取り自らを回転させ相手の体重を利用してマーベルを地面に叩きつけようとする。が、読まれていたようで地面に到達する前に受け身を取られる。さらにその受け身の体制から体を捻り俺の後頭部に手刀を繰り出す。瞬時に俺はそれをかわすが手刀の速さに髪の毛が数本切られて飛んでいった。
・・・どんだけ速いんだよ、にしても甘いね。下半身がガラ空きだ
俺はマーベルの尻に思いっきり蹴りを出す。ドンっと鈍い音と共にマーベルが前のめりとなる。やったかと思ったのも束の間、マーベルはその場で前転しさらにジャンプ。空中で向きを変えたかと思うと着地とともに再びジャンプ。かかと落としで俺の頭を狙う。咄嗟に避けるがかわされたと見るや瞬時にまた回し蹴り。今度は俺の胸を掠める。乳首にそれが当たり一瞬痛みが走る。
「Cカップでよかったな。Dだとお前の負けだぞ」
ちょっとムッとする俺。慎ましやかな胸で悪かったな。
俺は体勢を整えると、そろそろ終わるにするために魔界の拳法を使う。千年以上かけて編み出された武術の究極形の数々。そのうちの一つ蜃楼拳を繰り出す。まさに蜃気楼のように俺の攻撃は相手にはブレているようにしか見えない。ゆっくりのようで超速の動きも混ぜる。
「ハイっ、これでおしまい!」
俺の超速かつ多重露出のような突きはやはり相手には見えないようだ。マーベルは一瞬にして十回以上の突きを受けその場に転倒してしまった。まあ、威力は十分の一に抑えたので大したダメージはないだろう。気絶したようだがすぐに医務班が駆け寄って手当をする。すぐに気を取り戻したようで、
「ま、まいった。私の方が倍の体重もあるし話にならないと思ったのだが思い違いだったようだ。許してくれ。これからはちゃんと姫様に従うよ」
姫じゃなくて女王なんだけど、まあ良いか。
その後、乗船する隊員は準備室で宇宙服に着替えることになった。乗船中はトイレに行かれないために女性隊員によって俺の尿道に排尿用のカテーテルが突っ込まれた。ちょっと恥ずかしかったが仕方ない。さらに恥ずかしいのは俺の生理が終わりかけていたのだが対応するためナプキンではなくタンポンを突っ込まれることとなる。ナプキンでは途中で交換できないため大きめのものを装着するそうだ。俺自身は装着方法がわからないため女性隊員にやってもらうことにする。
「はい、椅子に手をついて前屈みになってね。足は大きく開いてお尻を突き出してくださいね」
若い女性隊員に装着してもらうのだが恥ずかしさマックスだ。タンポンにも経血排出用の管が付いており排尿用の管と途中で一緒になっている。女性隊員によるとほぼ終わっているみたいなのであまり意味はないかもしれないと言っていた。それよりも到着したらすぐに普通のタンポンに付け替えるように注意された。予備のタンポンは足首に巻かれた小さなポーチに入っているとのこと。
・・・女性とは、かくもめんどくさい物だな
さらに言えば15時間のフライトになるため大の方はできないとのこと。そのための昨日の夜からの絶食だった。栄養ドリンクのみの摂取となり空腹が心配だ。この体、女の子のくせによく食べる。まあ摂取したエネルギーを魔力変換しているのでカロリーはそれなりに必要だ。小一時間かかりようやく準備は整う。
そして基地のみんなに見送られていよいよ出発だ。薄いグリーンの宇宙服は思っていたより軽いが体にかなりフィットしてボディラインが顕になる。生命維持装置はランドセルより少し小さいくらい。それを背中に背負うので椅子に座ると心配だが椅子にはその部分用の窪みがあるとのこと。出発時に一時的に船内が減圧されるとのことでヘルメットを着用。まるでかつてのアポロに乗り込むクルーのようにたくさんの隊員に見守られ乗船する。
グレイのカルキンとクリアも機密服を着込んで乗船。俺ことアリア、ナターシャ大佐、マーベル中尉も乗船。合計5名のクルーが新型のTRに乗った。船内はかなり狭くグレイ達の円盤の半分くらいの広さだ。日本風に言うと四畳半くらいか。天井も低くせいぜい1メートル70センチくらい。ヘルメットに厚底の靴では立つと頭を天井にぶつけそうになる。操縦するマーベル中尉と今回は航行担当のナターシャ大佐が少し低い位置のコクピットに座る。その後ろに予備クルー用の椅子が3席あり俺とグレイ達が着席する。船内は薄暗く50インチくらいのモニターが5つあり、そのうちの3つが船外の様子を映し出す。残りは各機器の作動状態を表しているようだ。ヴォーンという振動を伴った音と共に機体は浮き上がる。基地の天井が開き、そして漆黒の夜空へと機体は舞い上がる。ナターシャが、
「すべて順調だ。オールクリア。我々は月に向かう」
その言葉に少し安心するが、これから椅子に固定されたまま15時間も耐えねばならない。かなり苦痛だ。まあ半分は寝るとしても残りをどうするか。するとマーベルが、
「ヘルメットにはエンターテイメント機能が付いているよ。椅子にあるコントローラーを操作すると地球のネットにも繋がるし映画なんかも観ることができるわよ」
地球との通信には最新の量子スピン遠隔伝達装置が使われているとのことでタイムラグなく地球との通信が可能とのこと。俺は早速メリダに連絡をとる。ネットアプリで簡単にメリダに繋がった。念のため通信を秘匿モードに変える。スクランブルをかけ他のものには通信内容が知れないように出来る。米軍の装置なので無理かもと思ったが難なく設定できた。俺のヘルメットには小型カメラも付いているのでテレビ通話ができる。
「メリダ、一応内容は把握していると思うがあのアスモデウスだ。どう接すれば良いと思う?」
実はアスモデウスはかなり偏屈で気難しい。俺の今の姿を見て素直に大魔王アークサタンであることを説明というか証明するのには骨が折れることが予想される。まあ、大魔法の一発でもぶちまかませれば良いのだが、なにぶん他のクルーもいる。安易に俺の素性をばらすわけにもいかない。
「ええっと、ではあの時の約束を果たせば良いのではないでしょうか。つまりアスモデウスを七将軍の一角に据えると。今は私とベルフェゴール。それにベルゼブブしかいませんので空きがありますから」
七将軍か。懐かしい言葉だ。魔王軍の最高軍事顧問である。将軍とはいえ実質的には参謀だ。メリダにベルフェゴール、ベルゼブブ。そしてかつてはカムシン、マリンダ、ハルザール、エルザがいた。カムシン、マリンダ、ハルザール、エルザはすでに300年前に亡き者となった。いくら永遠に等しい寿命を持っているといっても強大な物理攻撃の前にはその生命を維持することは困難となる。俺やメリダ、ベルフェゴール、ベルゼブブはすでに肉体を捨てて半ば精神体になっている。現生のこの姿は仮の姿。本質は第五次元とも言える場所にあるのだ。
「かの者達は精神体になる前にその命が潰えてしまった。これも大魔女マーベラのせいだ。絶対にこの報いは受けてもらう」
メリダとの通信が終わるとアスモデウスと別れの日を思い出す。ラカル帝国の存亡をかけた宇宙脱出劇。その片棒を無理やり担がせた俺の責任。本人の希望が9割と言ってはいたがそれは言い訳。もっと他の手段はなかったのだろうか。今となっては少し悔やまれる。にしても700年ぶりの再会だ。あのイケメンでちょっと気難しいやつがどうなっているのか。楽しみだ。
すでに地球の引力権を離れ一路月へと向かう。2時間経過後に少し水を飲む。ヘルメット内にあるチューブに口をつけ吸い込むと自動で出てきた。
俺はヘルメットの内側に映された映画を鑑賞。目の前にあたかも巨大なスクリーンが投影されたような感じだが、基本的な技術はもう50年以上も前に確立されていたそうだ。最近は体が女体化したせいもあるかもしれないが恋愛モノのドラマが好みだ。しかも高校が舞台のものが好ましい。男女共学の高校にも少し憧れる。今の高校は女子校なので男子との絡みが全くない。これはこれで俺としては面倒なことに巻き込まれることもないので良いのだが。
今の俺の見た目は完全なる美少女。こんな美人を男子がほっておくわけがないからな。まあ、そんな青春モノの一時間恋愛ドラマを3話鑑賞。少しうとうとして来たので残りは帰りに鑑賞することにして少し睡眠を取ることにした。目が覚めればかなり月に近づいているはずだ。
夢を見ていた。直前に見たドラマのせいでもないだろうが俺が男子の告白を受けている場面。俺は「ごめんなさい」と言って植え込みの影に隠れている女生徒に目配せをする。するとその女生徒が植え込みから飛び出した。そして俺に告白した男子に近づき「私を見てください」と言って手紙を渡す。おそらく告白のラブレター。その女生徒はどうやら俺にとっての親友らしかった。振り向いたその女性とは元のユリカ。顔立ちは俺と同じだが元の金髪に戻っている。男子はなぜか花菱剛毅。かつての勇者でありユリカの兄である。
・・・変な夢だな。兄妹で恋愛ごっこか・・・
遺伝子的には俺はユリカのクローンである。つまり剛毅は俺にとっても兄である。不思議な恋愛ドラマに浸っていると突然の強い衝撃に俺は一瞬、椅子から浮き上がる。この機体には重力制御装置が付いているので余程の衝撃がない限りGは感じないはずだ。なのに強い衝撃。俺は一瞬で夢から覚め周囲の状況を確認する。コクピット内には白い煙が充満している。ナターシャが、
「非常事態発生。現在、我々は何者かの攻撃を受けている。月まですでに1万キロを切っている。明らかに月からの攻撃と思われる。マーベル中尉。すぐにステルスモードに変更し最大速度で攻撃範囲から離脱せよ」
「了解。すでにステルスモードに変更終了。ジャンプリアクター作動。みんな最大8Gがかかるわよ。体を椅子に密着させて!」
言うと同時に体にとんでもないGがかかる。思わず失禁するがカテーテルが素早く吸い取ってくれる。顔が引き攣り舌が喉の奥に引っ込むのがわかる。この機体には重力制御が付いているので、もしなければ実際には30Gくらいの力が体にかかるはずだ。本当なら全身骨折で即死だろう。舌が奥に引っ込むせいで息ができない状態が1分ほど続く。あわや失神という寸前でようやく加速は終わったようだ。が、急加速の後は完全な無重量状態となる。
「うわっ、これはこれでとても気持ちが悪いものですね。吐きそう」
俺は慣れない無重量に最悪の気分となる。特に胸の脂肪というか乳房がフワフワと宙に漂うようで違和感だらけだ。マーベル中尉が、
「吐かないでね。最悪の事態になるから。ここのダストポーザーを作動させてから吐くのよ」
掃除機の吸引の先のようなものが天井から伸びている。これで異物は吸い取るのだろう。が、なんとか我慢できそうだ。にしても今の状態はいつまで続くのかと心配しているとナターシャが、
「みんな大丈夫か。今の跳躍で月から一瞬で2万キロ離れた。攻撃は一応回避したようだがその理由がわからない。カルキン、何か知っているか?」
グレイのカルキンなら月からの攻撃が何かわかるかも知れない。一応、月にある巨大戦艦ウロボロスに対してはグレイのクリアの持ってきた敵味方識別用の魔石クリスタル発信機によって味方信号が送られているはずだ。クリアが、
「これはウロボロスからの攻撃ではありませんね。先ほどの攻撃直前のモニター画像からの解析ですが月の裏にある第75クレーターの位置からの攻撃と思われます。AIによるとレールガンによる劣化ウラン弾頭での攻撃の可能性が75%と出ています。これは我々ラカル帝国の技術とは違うものと推察されます」
いつの間にかグレイのクリアがこの機体の機器の取り扱いを周知しているのに驚くが、俺が映画を見ている間にこの機体の取説を読んでいたらしい。おそらく知能は驚くほど高いのだろう。
とりあえず危機は去ったが、一体、月には何があるのだろう。果たして任務は続行することができるのか。不安に思っているとマーベル中尉が、
「被害の確認ができました。重力制御用のリアクター8機のうち5機が損傷。推進力は40%しか出せません。このまま月に向かうとししてあと6時間ほどかかります。それよりまた攻撃を受ける可能性があります。ステルスモードでは2倍の12時間かかります。どうしましょうか」
ナターシャ大佐はかなり考えていたようだが結論を出す。
「幸いにして燃料と食糧はたっぷりあるのでステルスモードで月に向かう。みんな少し我慢してくれ」
12時間か。いくら液体でのエネルギー補給とはいえ大をしたくなったらどうするのか。不安になるが今は考えまい。アーカイブにある映画やドラマは山ほどあるはずだ。
先ほどの恋愛ドラマも全て観終わり次は何にしようかと迷っていると艦内にまた非常警報が響く。かなりの音量でヘルメット越しでも頭が痛くなるほどだ。ナターシャ大佐が、
「どうやら周りを未確認の宇宙船に囲まれているようだな。数は5隻。これは逃げようがないな」
モニター画面に映されているのは六角形をした宇宙船。かなり大きく俺たちのTRの10倍近い大きさだ。直径は500メートルはあるだろう。ある意味、宇宙戦艦とも言える。そしてその一隻の底部が開き俺たちの機体はその中の格納庫のような所に引き込まれた。ちょっと前に観た古いアメリカのSF映画を思い出す。1970年代のものだった。
・・・エピソード4かよ。姫様はすると・・・ 俺か・・・
しばらくするとヘルメット内に音声が響く。「安全なので機体から出てほしい。我々に協力して欲しいのでお願いする」と。俺たちはかの映画のように抵抗することなく機体の外に出ることにした。事前のチェックで格納庫内は空気で満たされ問題ないことが確認されている。
ハッチを開きタラップを降りると長い金髪にグリーンの目をした美しい美女が迎えに立っていた。色は抜けるように白く、長身だ。おそらく170くらい。錦糸に縁取られた豪奢なドレスに薄く透けるようなローブを身に纏っている。耳が少しとんがっているので人類とは少し違うようだ。付き添う2人の侍従らしき少女は銀髪でショートヘア。ブルーの瞳でこちらはミニスカートのワンピースだ。
「ようこそラムゼリアへ。私はラムゼリア共和国の女王アステリアです。先ほどは失礼しました。月の自動防御システムが暴走してしまいました。お詫び申し上げます。あ、言い忘れました。ラムゼリアは月の内部にある国家です。話が長くなりますので詳しくは艦内にある貴賓室にてお話をしましょう」
俺とナターシャ、マーベルが貴賓室に案内される。グレイ達は別室にて待機させられることとなった。宇宙戦艦とも言える巨大艦の中はまるで豪華な美術館の内部のようだった。廊下は厚手の真紅の絨毯が敷かれており、壁には美しい絵画が飾られている。所々に豪華な壺らしきものも置かれている。微かに薔薇の香りのようなものが漂い、ここが宇宙船内であることを忘れさせられる。そして通された貴賓室はさらに豪華だった。まるで西欧のお城の一室。シャンデリアに照らされた室内はそれほど広くはないがロココ調に統一され、その調度品は年代物の国宝級とも言える代物ばかりだ。そしてそこにはもう一人の女性が物静かに椅子に座っていた。長い銀髪に面長の美しい顔。華やかな刺繍に飾られたロングドレス。こちらも女王と言われても違和感ないレベルだ。その女性が、
「お久しぶりです大魔王アークサタン様。いえ、今はアリア様でしたね。こんな姿にはなっていますが、私がアスモデウスです」
? ? ? 疑問符が並ぶ。アスモデウスは立派な男子魔族であったはず。こんな女性ではなかったのだが。俺はカーテシーでお辞儀をするその女性にやはりカーテシーでお辞儀を返した。
あとがき
ひさしぶりの更新です。でもなんでアスモデウスが女性に? 続きは鋭意執筆中です。近日公開予定!
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