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ユリカは覇道を目指す!  作者: 名切沙也加
22/23

第22話 新たな出会い その1

いよいよ年末ですね。今年は家でゆっくりする予定です。お正月は執筆専念ですね。

第22話 新たな出会い その1


 1月の8日。今日から新学期だ。

 今年の冬休みは7日が日曜日だったこともあり普通よりも少し長い。クリスマスやお正月には色々事件もあり学校に登校するにはちょっと気が引ける。


・・・悪目立ちしすぎたかもな。女学院ではどんな目で見られるか心配だ


 すでに魔法少女として俺やララ、そしてアリアは世間的には知れ渡り、ちょっとした有名人だ。現在、ララとアリアも花菱の屋敷に同居しているためみんな揃っての登校だが他の2人も絶対に他の生徒の視線が気になるよな。それは魔法少女への憧れか嫉妬か。

 まあ、その魔法少女も反重力技術のデモンストレーション的な要素もあるので世間一般としては俺たち個々人に対するどうのこうのはあまりないのかも知れない。


 今は朝の6時。起床してパジャマからアトレリア女学院の制服に着替える。

 ユリカの体、正確にはユリカのクローンなのだが着痩せするタイプか制服を着てもかなりスリムな印象だ。元のユリカはもっとボリューミーだったはずだが。

 アリアに言わせると胸のサイズが本物よりもツーサイズ小さいせいだと言うがアリアも同じくらいだ。

 銀髪の髪は昨日、美容院に行って少し短くしてもらった。ボブに近い感じだ。アリアも同じ長さにしたので完全に双子状態。美容師さんも見分けがつかないって驚いていた。

 元のユリカは本来の金髪に戻り髪は肩口をかなり超える長になっていたので印象はガラッと変わっている。

 そのユリカは今はアトレリア公国の正式な王女となり名前をシルフィエットと変えた。元々のユリカの正式な名前はユリカ・シルフィエット・花菱・アトレーリアということなので本来の名前に戻ったと言っても良い。ユリカとなった俺がいるのでややこしくなるかもとシルフィエットはシルフィと呼んでくれたら嬉しいと言ってくれた。つまり俺がユリカとして正式にこの世界でデビューということとなる。

 そのシルフィは昨日美容院を出るとそのままアトレリア公国へと戻って行った。


「ユリカ、準備はできているの? そろそろ朝食の時間よ」


 アリアが部屋まで起こしに来てくれたが無駄足だったようだ。すでに準備万端。部屋のドアが開く前に俺自身がドアを開ける。


「ありがとう。それよりララはどうかしら?」


 お正月以来、ララは毎朝寝坊だ。どうやらテレビゲームにはまっているらしく興奮すると夜中まで時々大きな声が聞こえることがある。


「なんとか起こしたわ。それより今日は大雪みたい。外は真っ白よ。メリダも今日は早めに車を出すと言っていたわ。急いで朝食をとりましょう」


 ダイニングにはすでにララが眠そうな顔で席についていた。


「おはよーー、アリア。あれっ、ユリカかな」


 見慣れているララでさえ俺とアリアの見分けがつかないようだ。

 サキュバスのララも大魔女マーベラのせいで可愛らしい美少女となっている。が、マーベラの手抜きのせいか元のユリカを参考に人間化してしまったので外見はユリカに非常に似てしまっている。

 ただし全てのサイズを95%といういい加減な基準で人間化しているのでちっちゃくて俺の妹と言った感じになっている。

 遠目には俺やアリアと見分けがつかなくなるので髪はポニーテイルにしてもらい差別化を図っている。

 この世界の設定ではララは妹ではあるが俺が4月の2日生まれ、ララが翌年の4月の1日生まれということで、ほぼ1年の年齢差があるが同じ学年ということになっている。アリアとは元々双子の設定なので問題ない。


 ララが朝食のフレンチトーストを突きながら、


「あー、美味しいけど、これ全部食べると絶対に太るわよね。どうしよう」


 呆れたようにアリアがララに、


「昨日までゲーム三昧にポテチ。もうすでに太っているはずよ。スカートのウエスト、かなりきついんじゃない」


「言わないでー、今日からちゃんとエクササイズ頑張るから」


「魔法の練習もちゃんとやるのよ。せめてユリカなみとは言わないけど自分の身を守れるくらいにはしてよね」


 お正月の着物切り裂き魔事件はララにとっても汚点となっている。魔界でのサキュバス状態なら刃物を持った人間が近づいただけで感知出来るし、さらに制圧できるはずだ。

 まあ、それを言うなら俺自身もちょっと迂闊だった。まさか人を害する人間が初詣の列の中にいたとか油断しすぎていた。しかも認識阻害の魔法結界を飛び出して犯人を追うとかあまりにも考えなしだった。俺の行動を叱ってくれたのはメリダだけだったが、叱ってくれたこと自体ありがたかった。


・・・自分自身の体、人間の体を手に入れたことに少し浮かれすぎていたな


 魔界では大魔王としてその権力に胡座をかいていた自分がいたが、この地球では単なる女子高生だ。いざとなったらマナコアに貯めた魔力で現実離れした魔力というか魔法を行使できるが、それはあくまで最終手段だ。


・・・この世界にまだまだ完全に馴染んでいない自分というものもしっかり自覚せねば


 朝食を終えると急いで通学用のリムジンに乗り込む。

 今日は始業式とロングホームルームだけなのでカバンは薄っぺらい。ただ、俺の入ってる生徒会は午後から2月末の予餞会の打ち合わせがある。予餞会とは伝統的なアトレリア女学院の催しで卒業する3年生を送り出すための壮行会みたいなものと聞いている。

 寸劇に合唱。ありきたりだが劇は毎年かなり盛り上がるそうだ。寸劇の主役には生徒会のものがなるらしく今年は俺だと事前に言われている。


・・・すでにこの女学院の生徒はほぼ俺の眷属となっているし、他のものが主役とかなると反乱が起こりかねないからな


 魔界であるアークランドでの眷属化とは違い、マナの薄い地球上での眷属化はそれほど強制力はない。魔界の眷属は主を守るためなら命を厭わないが、地球での眷属はせいぜい主が一押しのファン程度にしかすぎないのだ。


 屋敷を出るとかなりの雪だ。すでに道路は真っ白。積雪は5センチ程度か。普通のタイヤではすべって走れないがリムジンはスタッドレスタイヤ。しかも四駆だ。普段と変わりなくリムジンは走り出した。


 屋敷から首都高の入り口までは1キロ程度。すぐに地下トンネルに入る。ここ20年で首都高はほぼ地下道化された。もちろん雪にも強い。30分で首都高を出るとすでに西東京の乙女市。ここはさらに積雪がひどくかなり渋滞している。

 メリダがナビを見ながら到着時間を予測する。


「早めに出て正解でしたね。なんとか始業前に到着しそうです。でも帰りの方が心配ですね。予報では午後、積雪は30センチを見込んでいるそうです。もう休校にしてもいいくらいですのにね」


「今日は昼までの予定なので休校にはできなかったのでしょう。それにいざとなれば地下鉄で帰りますから」


 花菱電鉄も首都圏での地下鉄化が進んでおり昨年、アトレリア女学院前駅も地下鉄の駅となった。地上の地価が高騰しているし、今後地球の寒冷化が進んだ場合、地下鉄化は必須と判断したようだ。


・・・その花菱電鉄の社長にユリカの兄の嫁、麻衣子が今日付で就任したとニュースでやっていたな


 金の亡者麻衣子。変わらないなと思う。それに先見の明もあるのも確かだ。


 リムジンは車止めに止まりそこから校舎までは緩い坂を百メートルほどを歩いて進む。すでにその坂も積雪しておりかなり滑りやすい。登校する周りの生徒も普段よりゆっくりと歩んでいるようだ。

 が、突然ララがダッシュ。


「ララっ、走るんじゃりないの! こけますよ」


 俺が注意するが雪が珍しいララははしゃいでいるのか走り出す。


「すごい、アークランドでは積もることなかったから」


 確かに魔界であるアークランドでは雪が降るが積もることはない。北のトロールの大地にはかなり積雪すると聞いていたが。

 にしてもクリスマスの時もかなり積もったはずだが、でもあの時は魔法少女で空を飛んでたからな。雪道を踏みしめるのは人生初経験か。


「やばっ、転ぶ!」


 案の定ララは転びそうになる。俺は風魔法でその転倒を防ぐ。


「ヒョえっ、っと大丈夫だった」


 ララは変な声を出す。そしてスカートが捲れパンツが丸出しとなる。が周囲の生徒は見て見ぬふり。

 それよりも周囲の生徒は俺たちが魔法少女、正確には魔法少女っぽいコスプレで大活躍したことを知っているはずだ。が、無関心を装っている。

 すると、アリアが


「昨日付の女学院の連絡用のSNSに校長からのお達しで、あの魔法少女の件については個人のプライベート案件であるので学院内では触れないこと、と掲示されてましたよ」


 確かにタワマンの火災から助けたのは生徒会長兼エトワールである三島遥香の姉妹であったし、初詣の件に関しても俺たちの画像がネット上に過剰にアップされ個人が特定されてしまった。今後この件がヒートアップするとストーカー被害などの影響が出るかもしれないということだ。

 

・・・ストーカーとか、すぐに俺の眷属にして上手いこと使ってやるけどな



 新学期のホームルームも無事に終わる。

 驚いたのは今回の一連の事件で俺とアリア、そしてララは同じ1組となることが決定していたことだ。急なクラス替えであるが、これまでも学院内でいじめや不祥事があった場合はたびたび行なわれていたのとのこと。中等部からの持ち上がりである田町詩織が参考までに教えてくれた。


 俺とアリアが一緒のクラスとなったことでクラスメイトからは、


「本当に瓜二つね。見分けがつかない」

「ドッペルゲンガーみたい。でも2人ともすごく綺麗よね」

「はぁーー、お人形さんみたい。持って帰りたいわ」

「ほんと、妹さんのララも一緒なんてすごく和むわね」

「ずっと三人を眺めていたいレベル」


 とか揶揄されたがまんざらでもない。俺自身も超絶美少女のアリアやララを見ていると和むしな。そして俺もアリアと瓜二つともなれば悪い気にはならない。


 今日は昼で終業なのでアリアとララは詩織たちと地下鉄で帰宅することとなった。雪は降り続いており、かなり渋滞が発生しているためだ。地下の首都高も車が殺到しているそうでスマホで見る渋滞情報は真っ赤になっていた。これではメリダに迎えに来てもらうのも忍びないということで地下鉄でということとなった。

 俺は生徒会の打ち合わせがあるので後ほどの帰宅となる。


 生徒会室での打ち合わせは順調に終了。出し物は予想通り魔法少女の寸劇で決定だ。魔法少女に関しては現在、女学院内では箝口令が敷かれているが予餞会の日ばかりは大いに盛り上がってもらうことにする。


「これで3年生も心置きなく卒業できるわね。でも卒業式までもう二ヶ月もないのね。1年は早いわ。来年はもう私たちだし」


 三島遥香の言葉に人間にとっての1年は改めて貴重なのだと自覚する。魔界の王たる俺には永久とも言える寿命がある。不慮の事故で死なない限り俺の人生は遥か未来永劫へと続いていく。このユリカのクローンボディの寿命はせいぜい百年くらいだが、俺の本体であるマナコアにある意識体は死ぬことはない。再び他の体を手に入れ生きていく事になる。また、魔界に戻ればマナコア自体が体を成形しそれが本体として生きることができるのだが。


「あら、外はすごい雪ね。これでは帰るのが困難かも」


 三島遥香の言葉に生徒会メンバーは窓の外を見る。今いるメンバーは遥香と俺以外には2年生の書記と会計の4人のみ。書記補佐と会計補佐の1年生2人は寮生ということで女学院の敷地内にある女子寮にすでに帰ってもらった。寮生には食事の配膳当番が回ってくるらしく、あいにく2人とも今日はその当番となっているらしい。本題の演目が決まったので遥香が2人を早めに帰したのだ。

 すでに積雪は50センチを超えているみたいだ。


 細かい段取りを決めてようやく会議はお開きとなる。

 書記の金島さんがスマホの画面を見ながら困惑した表情。


「あら、地下鉄も止まっているみたいね。これでは私たち帰宅難民ね」


 俺もスマホのニュースを見る。どうやら地下鉄の地上変電所に雪が積もりすぎて安全のため送電を見合わせているらしい。


「ほんと、どうしましょう。迎えに来てもらうこともできないし。寮にでも泊めてもらおうかしら」


 遥香の提案は現実的だが現在、寮は満杯で空き部屋はないはず。

 例年になく寮生が増えたことを今朝、校長が言っていたのを思い出す。その情報を遥香に伝え、さらに俺は提案する。


「なら理事長室を使わせてもらいましょう。すぐに叔母さんに許可をもらいますね」


 この女学院の理事長はユリカの叔母である花菱智子である。女学院の経営者である母を通しても良かったが叔母からは女学院内で何かあれば直接連絡して良いと許可をもらっている。

 電話をかけるとすぐに出てくれた。どうやら叔母さんも女学院のことがこの大雪で気がかりだったらしい。現況報告をした後、理事長室使用の許可をもらう。こんな時のために理事長室には色々用意があるので心置きなく使ってくれと言われた。そして俺はそのことを他の生徒会メンバーに伝える。


「理事長室には一応宿泊できるようにベッドもありますし、シャワールームもあります。食事もレンチンでよければ冷凍のものがストックされているとのことです。ただベッドはクイーンサイズのものが2つしかないので2人で一つを使うしかないのですが」


 俺が説明すると、遥香はホッとした表情で


「クイーンサイズなら2人で寝ても十分広さはあるわ。問題ないわね。それよりありがとうユリカ。叔母さん、いえ理事長にもお礼を言っておいてね。後から私からもお礼入れるけど」


 すでに外は真っ暗となっている。しんしんと降り続く雪のせいかひっそりと鎮まりかえっている。

 

 静寂に包まれた女学院は少し不気味である。


 カシャン  


「キャッ!」


 電気が突然消え常夜灯のみとなる。三島遥香がビックリして俺に抱きついてきた。しっかりしているようで意外と臆病だ。でもちょつと可愛い。

 おそらく強制帰宅時間の六時半になったのだろう。にしても俺の胸に腕が当たりグイグイ押してくる。そんなに大きくない胸だが、それなりに感じてしまうのでそっと引き離す。でも絶対にわざとだろう。


 薄暗い階段を登り三階にある理事長室に無事に到着。あらかじめ教えられていた入口の暗唱ロック番号を入力。すんなりと入ることができた。

 エアコンと床暖房が完備とのことだが、すでに暖かい。気を利かせた叔母が遠隔操作でスイッチを入れてくれていたみたいだ。

 会計の野島里香がテレビのスイッチを入れる。すでに首都圏では完全に交通が麻痺しているとのことで臨時ニュースも流れている。


「久しぶりの大雪ね。これでは明日の朝まで交通機関は止まったままかも」


 里香の心配が心配そうに呟くが、


「あ、それね。今、女学院の一斉メールで明日の休校が決まったみたいよ」


 おそらく理事長から校長に連絡が入ったのだろう。叔母は仕事が早い。

 とりあえず遥香の指示で順番にシャワーを浴びることとなる。そして食事だ。専用の冷凍庫があり中にはパスタやシチューの冷凍食品。さらにはアイスやエクレアなどの甘いものもある。余裕で三日は籠城できそうな量。嬉々とする俺たち。



 シャワーと食事を終えベッドルームにあったルームウエアに着替えまったりタイム。

 金島さんがテレビ台の下にあったトランプを見つけみんなで大富豪をすることになる。


・・・大富豪か。すでに大富豪の俺は負けるわけにはいかないな



「ま、待って。それ出されると負け確定なの!」


 8切りされて俺の負け確定。


「次も大貧民スタートになっちゃったじゃない。でも次は負けないわ」


 結果、俺は連戦連敗。こればかりはままならない。いくら悪魔といえどもインチキは御法度だからな。


 時計を見るとすでに夜の11時半。明日は休校となったので夜更かしも問題ないが何があるかわからない。俺と遥香が一緒のベッドで寝ることとなった。この中では遙香が俺に1番近しい眷属なので問題はあるまい。

 女性と一緒にベッドを共にする。以前の大魔王の俺には極く当たり前のことだったがユリカの体となった今はちょっと躊躇する。遥香は普通の人間であり将来のある身。俺は今ユリカの体になったとはいえ女性に対する興味は全くないわけではない。このまま何かのきっかけで遥香の春を散らしてしまったらと思うのだが。


「ふふっ、ユリカ。今夜は寝かせないわよ」


 遥香の方が逆に積極的だった。俺は寝る時にはブラはつけない主義だ。その胸に遥香の手が伸びてくる。春を散らされるのは俺の方なのか?

 隣のベッドではすでに金島さんと野島さんは寝息を立てている。きっと精神的に疲れたのだろう。ベッドの寝心地も最高だしな。俺たちが多少音を立てても起きそうもない。

 このままやはり遥香とはそういう関係になるのか。


 そう思い覚悟を決めていると、突然理事長室のドアがノックされる。こんな夜中に誰だろう。夜は無人警備ロボットが巡回しているはずだ。人が来るにしても事前に連絡があるはず。

 寝室から出てどなたかしらと遥香が返事をする。と、突然ドアが蹴破られた。


ドガッ!

 

 遥香はもんどりうってその場に倒れる。


ドタドタドタッ

 

 何者かが侵入してきたようだ。と、同時に部屋は白い霧で覆われる。何者かがスモークを炊いたようだ。そして俺以外はみんな咳き込んでいる。どうやら催涙ガス成分もあるようだ。


 俺も今はユリカの体であるので少し咳き込む。が、このような非常事態に対応できるように日頃から訓練を積んでいる。急いで枕を口にあて直接ガスを吸い込まないようにした。そして俺の周りに防御結界を展開しようとする。がそれはかなわなかった。

 すでに俺の体は侵入してきた者に拘束されている。

 あまりの素早さに確実にプロであることがわかる。

 そして、


「抵抗するな。用があるのはお前だけだ」


 俺を縛り上げながら言い放つ。かなり大柄な男だ。迷彩の軍服に完全装備。肩からは自動小銃を吊るしている。ベレー帽にガス用のゴーグルとマスクも装着している。どこかの国の特殊部隊か。

 侵入してきたのは5人。そのうちの1人が大きな遺体収容袋みたいなものを持っていて俺はその中に押し込まれ部屋から連れ出された。口にはガムテープが貼られ叫ぶこともできない。


・・・魔力を使えばこのくらいの人数は瞬殺だが、おそらくこいつらは下っ端だろう


 そう考えた俺はしばらくこのまま拉致されたままでいようと思う。俺を拉致した目的と主犯がわからなければまた同じことが繰り返されるからな。


 ドタドタと担がれたまま階段を降り外に出たようだ。そして車に連れ込まれたようだ。微かなモーター音とチャリチャリ音がする。大雪になったのでタイヤチェーンをつけているのだろう。すでに雪用タイヤでも走行が難しいくらい積雪していたからな。すると犯人の報告らしき声が聞こえてきた。ロシア語だが俺は瞬時に脳内で日本語に変換する。


「目標のアルファ確保。間違いなく本人です。写真と照合しました。埠頭までは雪のため予定より30分遅れとなります。どうぞ」


「了解。こちらは出航準備完了している。事故なくたどり着け。終わり」


 埠頭に出港か。どうやら国外に出るつもりなのか。すると犯人達はやはり外国勢力。これはちょっと厄介だな。

 でもなぜ俺がアリアと間違われたのだろう。確かに先日、美容院で髪型を一緒にしてもらったがそれだけとは考えられない。

 ここは本人に確かめないとな。俺は魔法テレパスでアリアに連絡をとる。

 すると、


「今、三島遥香から連絡が来たわ。なんでも誘拐されたそうね」


 すでに連絡はいっていたようだ。

 俺があえて捕まったこと。そしてアリアと間違われて誘拐されたことを告げその理由を聞いた。


「あー、それならおとといの定例のバンパイア臨時政府の会見で私がアトレリア女学院の生徒会役員に就いたこと発表したからよ。確か私は渉外担当のはずよね」


 アリアは生徒会の渉外担当に就くことが決まっていたが仕事が忙しく実際の活動は予餞会の一週間前からで良いと会長の遥香に言われていた。

 にしても犯人達はなぜ今日、生徒会の集まりがあると知っていたのだろう。


「あーー、多分、私のおつきのメイドにかかってきたあの電話ね。実は今日たまたま予定が空いたので生徒会に顔を出そうと思っていたの。それをメイドに伝えていたのでそれかもね。でも急遽予定が入っちゃって」


 アリアのお付きのメイドには女学院の校長から電話がかかってきたという。行きますとの返事をしたそうだが実際には行くことが叶わなかった。校長になりすましての電話だろう。それにしても犯人達は俺たちに関してかなりの情報を持っているみたいだ。

 身内にスパイがいるかもしれないが今はそれどころではない。


 今の状況を魔法通信でメリダにも伝える。そして現在の俺の位置を魔法探知で特定してもらう。これでどこの埠頭に向かっているか判るだろう。


「どうやら東京第3埠頭ですね。すでに到着しているみたいです」


「とりあえず、どんな情報でも良いのでもっと調べてみて」


「ええっと、ここは貨物船しか係留されていないはずです。今現在の係留船舶を調べますね。ええ、5秒とかかりませんよ。出ました。今は1隻だけで極東アジア連合の穀物運搬船ですね。これはちょっとまずいかも」


 極東アジア連合国家群。通称、極東連合。東シベリア共和国、旧中国、朝鮮半島からなる国家共同体で共産主義国家を標榜しているがその実、汚職と腐敗に塗れた国家だ。ただ世界の寒冷化が進んでいる現在、豊富な石炭、石油で大規模発電を行い巨大な食糧生産工場を万の単位で持っている。そのため世界の食糧庫となりつつあり巨万の富を蓄えている。


 メリダの説明を受け俺は嫌でもアリアの誘拐の理由がわかった。


「つまりアリアの研究所が解明した重力の秘密。さらに花菱による商業化。これによって核融合発電が超低コストでできるようになる。そうすれば一気に世界のエネルギー事情は改善。その影響で食糧事情も良くなる。極東連合の地位が低下するってことね」


 今度はアリアから


「そうね。でもなんて卑劣なんでしょう。私たちの発明を横取りする気かもね。そうでないにしても酷い嫌がらせということかしら」


 最悪ただの嫌がらせか。にしても解せないところもある。


「まあこの際どうでも良いわ。行くとこまで行って皆殺しにすれば済むこと」


 俺の気持ちは収まらない。ならば首謀者もろとも国家を滅ぼしてやろうと思う。

 それを察してかメリダが


「ユリカ、いえ大魔王様。ここは人間社会です。国家間のいざこざに深入りするのはどうかと思います。まあ大魔王様なら東シベリアなど半日で崩壊させることができるとは思いますけど。でもそこの住民の大半は善良な市民なのですよ。あくまで上の方が腐っているだけと思いますので」


 まあそうだろうな。あくまで上だけ抹殺だ。上がいなくなれば俺が代わりに統治すれば良いだけだ。うん、そうしよう。


「大魔王様。今、その国家乗っ取ろうとしてませんか」


 図星を突かれた。

 

 どうやら俺はその穀物輸送船の中に連れ込まれたようだ。目隠しをされているが独特の塩分と油の混じった匂いと遠くから聞こえるエンジン音で船内だということがわかる。


「ここにスワッテイロ」


 少しイントネーションのおかしい日本語で男に命令される。

 硬い木の椅子のようで座り心地は悪い。俺は後ろ手に縛られ目隠しをされたままなので周囲の様子はわからないが、どうやら見張りは1人だけのようだ。


 出航して一時間くらいは経っただろうか。外は極寒のはず。部屋の気温も下がっているようだ。パジャマだけで連れてこられたので少し寒くなってきた。せめて暖房を入れてくれないかな。

 一応言ってみることにした。


「寒いので暖房入れてくれないかしら」


「ワカッタ、入れるよ」


 男は入り口横のレバーを下げる。おそらく温風循環のレバーであろう、下げられると部屋の上の方にある通気口から暖かい空気が流れてきた。

 いや、ちょっと暑すぎるぞ。部屋はものの10分もしないうちにサウナみたいに暑くなる。身体中から汗が吹き出してきた。

 どういう意図かわからないが俺は心眼を開き周囲を観察する。俺には目隠しなど意味はなさないのだ。

 どうやら男も暑いのかすでに上半身裸だ。しかもすでに汗だく。

 いや、これわざとやってるだろう。


「暑くなってきたね。服を脱がせようネ」


 男はズボンまで脱いで下半身はパンツ1枚。

 近づいてきた男はパジャマのボタンを外し前をはだける。

 ブラをしていたかったことを後悔。Cカップの乳房が男の前に露わとなる。男はそれを見てニヤつく。すでにパンツはテントを張っている。


・・・ヤバいな。これが貞操の危機ってやつか


 てっきり胸を揉まれるかと思ったがすでに男の手は俺のパジャマのズボンにかかっている。いや、パンツまでかかっているので一緒に脱がすつもりだ。


 男の目は血走っていてやる気満々だ。そして男の手は躊躇いなく俺のズボンとパンツをずらして脱がす。


ズルリ


 俺の下半身が露わになる。男性に見せるのは初めてのことだ。が、男は脱がしたパンツとズボンをすぐに元に戻した。そしてなんだかガッカリしたような目をする。下半身のテントもおさまっている。


「ちょっと待ってろ」


 男は部屋を出て行った。10分くらいして部屋がノックされる。そして入ってきたのは大柄な女性の戦闘員。おそらく先ほどの襲撃に加わっていたのだろう。ヘルメットやゴーグル類をつけていないが迷彩服を着ている。しかも微かに催涙ガスの匂いが残っている。間違いない。

 そして、流暢な日本語で話しかけられた。


「ごめんなさいね。さっきの男、あんたを襲おうとしてたんでしょ。ちょっと殴ってきたので勘弁してね。それよりこれ替えるわね。気づかなくてごめんなさいね」


 女性戦闘員が手にしていたのは生理用のナプキン。俺は2日目だったので血まみれだったというわけだ。男が萎えた訳だ。いや、その手の趣味の人間でなかったというだけだろう。

 女性は丁寧に濡れ布巾で経血を拭き取ってくれ、そしてナプキンを新しいものに替えてくれた。


「今から私が見張り役よ。あなたは大事なゲストですからね」


 いやいや、ゲストというなら拘束するなよと言いたくなったが、すぐに拘束は解いてくれた。まあ、海の上なので逃げようもないしな。部屋の温度も下げてくれ快適になる。部屋の片方には折り畳みベッドもありそれを展開してくれそこに腰掛ける。


「あなたバンパイアなんでしょ。やっぱり血が吸いたくなったりするの? お腹が空いたら私の血を吸っても良いわよ」


「いえ、普通の食事で大丈夫ですよ。元はバンパイアってだけで今はほとんど血も吸わないし食事もごく一般的なものですよ」


「へえ、そんなものなのね。実は私の祖先はライカンって聞いているけど今は普通の人なのよね。月夜でも変身しないし」


 この世界に魔族や魔物が最終的に来ていたのはおよそ500年前となる。その後、人間との混血が進んだのでよほど先祖返りしない限りは通常の人間と変わりないのだろう。ただ筋力や臭覚といったものは通常の人間より優れているのだろう。


 しばらくその女性兵士と世間話をした。名前はナターシャと言うそうだ。その昔、高校時代に交換留学制として来日、その後日本の大学で経済学を学んだそうだ。どうりで日本語が堪能なはず。

 話しているうちに少し疲れてきた。ベッドで少し横になる。興奮のためか眠くはならない。見ると女性兵士はうつらうつら。しばらくするともう寝るわと鍵もかけずに部屋を出て行った。

 実は俺の精神支配は緩いがこの船全体に現在及んでいる。眷属までとはいかないが、ある程度なら操れる状態となっているはず。


 部屋を出てこの船を乗っ取ろうと思ったがどうせ出ても外は極寒。それに乗っ取っても誘拐の目的がわからない以上このようなことは何度も起こるかもしれない。情報の収集が第一だ。ここはおとなしく部屋にこもっていよう。


 そんなこんなで再びメリダに念話で連絡を取る。


「どうやら船はウラジオストックに向かっているようですね。南回りで関門海峡を抜け日本海に出るみたいです。過去の航海記録から間違いないと思います。この調子でいけばウラジオストックには3日後の朝に着くみたいですね。どうしましょうか」


「今は様子見ね。心配ないわ。すでに乗組員の意識は私が支配しているの。割と快適よ」


 朝になる。どうやら快晴のようで昨日の吹雪が嘘のようだ。朝食を届けに来た見慣れぬ船員は何も言わずにテーブルにトレーを置くとすぐに出ていった。

 トレーの上には黒パン2切れとカップに入ったドロっとしたヨーグルトのみ。黒パンはかなり硬くて食べにくい。しかも量が少ない。ヨーグルトでパンをふやかして食べる。

 全部食べ終えたがまだ満足には程遠い。俺は魔法パントリーから熱々の肉まんを取り出す。同じく取り出した冷たい烏龍茶と共に食す。うん美味い。


・・・夜食用に用意していたのが役に立ったな


 昼すぎになり昼食をまったが何もなかった。夕方に何やら得体の知れない硬い肉の入ったシチューとやはり黒パン。やはりもの足りなかったのでこれまた熱々の厚切りベーコン入りのホットサンドを魔法パントリーから取り出し食す。運動せずに食べてばかりでちょっとお腹のお肉が気になる。

 室内で少しスクワットと柔軟体操。一汗かいたが残念ながら風呂はない。備え付けのタオルで体を拭くがなんだか臭う。いや、嗅ぐのはやめておこう。


 次の日には俺は堂々と船内を見学。すでに船員のゆるい眷属化は済んでいるので問題ない。俺は魔法パントリーから取り出した服に着替える。といっても予備の服はアトレリア女学院の制服一式しかなかったので制服だ。ついでに下着も替えておいた。汚れたものは再び魔法パントリーへ。残念ながら生理用のナプキンは女学院に残された俺のポーチの中。パントリーに入れとけばよかった。再び女性兵士から借りる。ちゃんと返すからな。日本に戻ったら。


 船内を色々探索してわかったこと。どうやらこの船は大麦と小麦を日本に届けた後の帰りのようだ。船倉はほとんど空だったが冷凍倉庫に和牛の肉が20頭分保管されていた。

 流石に景気の良い極東連合。おそらく党の幹部連中の胃袋に収まるのだろうな。

 

 その後、日本海は荒れていたのか船はかなり揺れたが無事に港に到着。

 迎えにきたどでかい黒塗りのリムジンに乗せられる。これは確か紅旗というかつて中国で作られていた高級車だ。党の幹部しか乗れないとネットのアーカイブにあった。

 一緒に乗ってきたのはおそらくロシア人。年齢は50は過ぎているだろう。白髪でかなりガタイが良い。


「ようこそアリア殿。私は極東アジア連合開発局の次長のソルゲイだ。これから貴殿をあるところに連れて行くがその場所は極秘となっている。悪いがまたしばらく目隠しをしてもらうよ」


 今度は縛られなかったが再び目隠しをされる。そしてそのある場所に向かった。車に揺られること2時間。

 その間、ソルゲイにバンパアイアのことなど色々聞かれたがすでに日本では公開情報となっているので聞かれたことにほとんど答えることができた。しつこく聞かれたのはこの極東連合にまだバンパイアの一族が残っていないかだったが、いたとしてもすでに自分がバンパイアであることを自覚できていないので問題はないと答えてやった。本当はまだ旧シベリア共和国だけで5万人以上のバンパイアがいてアリアに忠誠を誓っているのだが。そのバンパイアはもちろんアリアの一言で俺の手助けをすることができるという。


「もちろん魔法通信、念話でね。ユリカ、困ったことがあったらすぐに連絡してね。ついでに言うけどそのリムジンの運転手もバンパイアよ。結構、国の要職とかにもついているのでいつでもクーデター起こせるわ」


 恐ろしいアリアのバンパイアネットワークである。


 しばらくして車が止まる。どうやら到着したようだ。

 車から降ろされ目隠しをされたまま後ろから小突かれながらしばらく進む。

 するとソルゲイの声がすぐ横から聞こえてきた。


「これから見せるものは外国人には初めてのものとなるな。驚くかもしれないが我々の科学技術力の成果である。心して見るように」


 なんだかもったいぶった言葉だが目隠しを外され目の前にしたものに驚愕する。


「空飛ぶ円盤?」


 銀色に輝く円形の物体。直径は50メートルは有に超える。

 銀色といってもほとんど鏡に近いもので周囲の景色が綺麗に船体に映り込んでいる。厚みは10メートル程であろうか。5本のランディングギアで自立しているがそれでも不安定なのか二箇所でクレーンが支えている。

 少し目を右にそらすと2回りほど小さな円盤が並べておいてある。こちらはかなり破損しており、内部の一部が剥き出しとなっている。墜落でもしたのだろうか。表面の光沢もかなりなくなっている。が、内部のインジケーターらしきものが点滅しているところを見ると完全には死んでないらしい。


「大きな方はもうすぐ完成する地球製の空飛ぶ円盤だ。ちなみに右にあるのが異星人のオリジナルのものになる。我々はリバースエンジニアリングでこれを作り上げた。もちろん反重力システムもな。これでわかるだろう。君を誘拐した理由が」


 つまり日本で発表された反重力システムが最初ではなかったということ。


「我々はただ異星人の技術を真似ただけでその理論はわからなかった。が、先日の花菱の発表で全てが理解できた。やっと飛ばせる目処がついたと我々の科学者が言っていたよ。さて、これをどうしたものか。実は君には会ってもらわなければならない人物、いや生物がいるんだよ」


 俺もなんとなく察しがついた。

 俺は元々異世界の住人だ。そして数々の並行世界を見てきた。こことは違う別世界には異形の生物達が数多くいたが空のさらに上、つまり宇宙にまで意識が及ぶことはなかった。が、今から俺が会おうとしているのはこの宇宙というものの本質を知るものかもしれない生物なのかもしれない。

 ワクワク感もあるが少し怖い気もする。

 何はともあれそれに会ってみるしかない。


 その後、俺は小さな部屋に通された。少し薄暗い部屋の中で椅子に座っている何者かを見つける。

 その生き物はゆっくりと俺の方を振り向き口元をニヤリと歪ませる。それはいわゆるグレイと言われる異星人だった。


次回にこのお話は続きます。魔物ではなく異星人。はたしてどのような展開になるのでしょう?

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