第19話 冬のイベントでの出来ごと その2
いよいよイベントは佳境に。でもその後・・・
第19話 冬のイベントでの出来ごと その2
日本コスプレ大賞のいよいよオープニング。
俺ことナイトメアホワイトと田町詩織のナイトメアレッド、そしてララのナイトメアピンクがステージに上がる。
三人がスポットライトに照らされると盛大な拍手が響き渡る。
・・・にしてもライトが強力だが、生地が透けないか心配になるな
俺の今来ているレオタードは割と薄い。その上に巫女服だが、この後、巫女服をはだけるシーンがあるんだよな。先ほど下半身の対応は一応しているが上半身はかなり無防備だ。近くで見ると乳首の突起が少しあるし。
俺の心配をよそに司会が端折ったストーリーを述べ始めた。
「さあ、魔界から現れたゴーレム出現の報を受け、湾岸倉庫にやってきた魔法少女ナイトメアたち! 果たして今日も世界を救うことができるのか?」
「ナイトメアホワイト、あなた魔法ステッキどうしたの。手に持っているのはどう見ても神社の境内を掃く箒よ!」
ホワイトはどこか抜けたキャラ設定。レッドの指摘に、
「あ、ごめんなさい。朝のお掃除の最中だったの。許して。ごめん」
俺はしゃがんで泣いたふり。
「いつものことでしょ。レッド、いじめないの! はいこれ、ホワイトのステッキよ」
ここでピンクの助けが入る。箒の代わりに魔法ステッキを握らせ、そしてしゃがんでいる俺を後ろから抱き起こす。そして向かい合い抱擁。
・・・薄手の生地なので胸の感触が直接俺の胸に伝わる。変に興奮するじゃないか
どうやらピンクことリリのサキュバスフェロモンも効いているのかもっともっと密着して触れ合いたくなる。ま、さいわいにしてこのフェロモンにはある程度耐性があるので行くとこまでは行かない。
そこをレッドが引き剥がし、
「何しているの。それは家に帰ってからゆっくりやりなさい。それより」
舞台の下手からロックゴーレムが現れる。いかにもダンボールで造形したかのようでちょっとチャッチい。予算ケチったのかよ。
「さあ、チャッチャッと片付けて家に帰るわよ。今日はクリスマス。パーティーの予定よ。だから最初から全力魔法。三人合わせてナイトメアショットよ!」
レッドを中心として手を繋ぎ輪になるとみんなで大きく体を後ろにそらし花の花弁のように開いたままその場で回転。そしてレッドが突然しゃがみ、それをホワイトとピンクが持ち上げる。そしてレッドはそのまま空中を飛びゴーレムの頭にキックを入れる。
実はこれはワイヤーアクションであらかじめレッドの肩のところにフックが付けられていたのだ。それをしゃがんだ時に吊り下げ用のピアノ線に引っ掛け空中に吊るす仕掛けだ。ぶっつけ本番だがうまく行った。
これも一重に花菱芸能という会社の技術。高度なコンピュータシミュレーションでワイヤーアクションの動きを完璧に制御できるシステムだ。とメリダが言っていたがその通りだった。
倒れたゴーレムが再び起き上がってくる。
「レッド。詰めが甘いわね。昨日、遅くまでゲームしてたのでしょ。寝不足みたいね。それじゃ力を発揮できないわ!」
これは俺のセリフ。レッドはゲームオタクで寝不足気味なのがたまにキズ。という設定なのだそうだ。
「トドメは私の役割ってことでいいですよね!」
俺、今はナイトメアホワイトか、が巫女服の上半身をはだけてレオタードを晒す。この時、アニメの設定通りに背中を見せ魔力チャージで背中の桜吹雪を光らせるのだ。光るのは実際にはLEDだけど。
「じゃ、光らせるわね。ポーズをとって」
無線で内耳に仕込まれた受信機にメリダの指示が入る。その場で背中が見えるように一回転し魔法ステッキを上段に構える。
「魔界のみんなが許しても、地球のみんなは許さない。ナイトメアホワイトビームっ!」
バリッバリッ バリッ!
大音響と共に舞台が点滅。背景のスクリーンにビームの閃光が映し出される。
グオーーーーー!
ゴーレムはその場で硬直。そしてその表面が剥がれ落ち中から死霊の魔物であるレイスが出てくる。といっても着色されたダンボールの表面を中の人がバリバリ破って出てきただけだが。
・・・頭骸骨の被り物に全身の骨がプリントされたボディスーツか。本物のレイスに比べるまでもないが、やっぱり少し予算削りすぎじゃないか
「まだまだだ、この程度で魔王軍は手を引かないぞ、手下どもナイトメアピンクを攫って逃げるぞ!」
情けない魔王軍にちょっとイラッとする。本物の魔王軍はもっと精鋭揃いだ。
「「イィッーーー」」
いつの間にか舞台には魔王軍団の戦闘員が5名ほど現れていた。
・・・これはっ! 何とレトロな。昭和のかつてのバイクに乗った改造人間の特撮物に出てくる戦闘員と全く一緒だ! というかヒーローショーの使い回しか
花菱芸能は日本で三本の指に入る大手だ。が、今回はワイヤーアクションなどに予算を取られすぎたのだろう。親会社主催なのにあまりのやっつけ仕事に少し腹が立ってきた。
会場はそれでも盛り上がる。写真撮影はフラッシュ撮影が禁止されているだけなのでカメラ小僧たちのシャッター音が凄まじい。
戦闘員たちがスモークを炊いて目眩しをするとナイトメアピンクを2人がかりで拘束し抱えて連れ去っていった。
「キャーー! 助けてぇーー!」
ナイトメアピンクの棒読みのセリフにちょっと白ける会場。
その声を合図に俺たちも舞台から下がる。
舞台の照明が再び明るくなり司会のセリフが響き渡る。
「果たしてナイトメアピンクは大丈夫なのか! 続きはまた後ほど!」
会場からは思ったより大きな拍手が。カメラ小僧たちには満足のいくレベルだったのだろう。俺たちしか写してないので。
コスプレは完璧だったと思うが、寸劇のレベルとしてはちょっとどうかというレベル。まあ、出演するコスプレイヤーたちの準備の時間稼ぎとしては問題ないか。
「ハイっ、お疲れ様。予定通り前半は終了よ。舞台裏の休憩スペースで休んでちょうだい」
メリダからインカムに指示が入る。
舞台裏。と言ってもパーテーションで区切られた8畳ほどのスペース。戻るとすでにララがいた。ララ1人しかいないところを見るとどうやら女性専用の待機場所らしい。
「あーーん、魔王さまぁーー、ララ頑張ったでしょ。褒めて褒めてぇーー」
ララが俺に抱きついてくる。元々のララはサキュバスの女王でもありそれなりの成人女性ではあったが魔女マーベラのせいで体型もだが精神も年齢退行している。幼児とまではいかないが小学生レベル。一応15歳の高一の設定と聞いているのだが。
「ちょっとララ、暑苦しい。汗かいているから抱きつくのやめてっ!」
俺が戻るやいなやララが抱きついてくる。なんだか今日はやたらベタベタするな。
「疲れている時はくっついてマナを分けてもらうのが一番なんですよーー。それに魔王様っていい匂いがするし」
一瞬、汗臭いかと脇を嗅ぐが大丈夫だ。サキュバスは純度の高いマナを良い匂いとして感じると聞いたことがある。おそらくそれだろう。
「はい、これ。空調が効いているけど汗を拭かないと風邪ひくわよ」
田町詩織からタオルを渡されレオタードの胸元をはだけて汗を拭く。そしてエナジードリンクで水分補給。
そこにメリダもやってくる。
「ええっと、魔お、いえユリカ様。声が漏れますのでお淑やかにお願いしますね」
ついついララがいるので魔界の魔王の気分になっていたが、今、俺はユリカであった。言葉遣いにも気をつけないとな。そんなことを考えていると詩織と目があった。
「それにしても今日の詩織はカッコ良かったわね。まるで本物のナイトメアレッドみたいだったわよ。ワイヤーアクションもぶっつけ本番なのに上手くいったし」
「ひとえに花菱の技術力のおかげですよ。なんで開始前に体重と身長とか身体測定されるのかと思ったけど、そうゆうことだったのね」
まあ俺ならワイヤーなどなくても空中の飛翔は当たり前にできるけどな。
「魔お、ユリカ様ならワイヤーとかいらないでしょうけど。でも人間じゃないってバレるのでやらないでね」
メリダ、わかっていたようだ。
その後、各プレイヤーたちの演技が終わり、コスプレ大賞の審査が始まる。いよいよ後半の俺たちの演技だ。
攫われたたナイトメアピンクを奪還すべく魔女の館へ。と言って館の情景はプロジェクションで映し出されているだけ。そこで再び戦闘員と対戦。最後は首領の魔界将軍を倒して終わり。
・・・魔界将軍があのなんとか博士の衣装ってなんだったんだ。使い回しにも程がある
チープな魔王軍に対して魔法少女ナイトメアの完璧なコスプレ。
物語は単純だが俺たちの迫真、いや、おざなりの演技であっても会場は拍手の渦に包まれた。ひとえに俺たちの可愛さのおかげだ。
そして審査も終わり日本コスプレ大賞の発表。そしてこのイベントも終わる。
「やっぱり「ララの魔女旅」のコスプレイヤーが大賞でしたね。今、1番人気ですからね」
ララ本人が主人公という設定なのでララもご機嫌だ。
午前中に俺たちがしていたコスプレと同じだ。が、クオリティは引けを取らず、また動きも十分研究されていた。
なんなら大魔女マーベラは俺自身が一瞬本物かと見間違えるほどだった。
・・・実際、ハイヒールなしで背も高かったし。出るところは出てるし。ちょっと嫉妬するレベルだったな
「まあ本物のサキュバスのララを知っている私としては複雑だがな」
俺とララは魔界であるアークランドではこの世界でいうところの爛れた関係であった。今こそララは清楚系で通っているが本来はメスフェロモンを前面に出したエロキャラだったのだが。
「私は今の魔王様との関係が一番ですよ。肉体関係が全てではないと知ったからですけど。でも、ちょっとは肉体的なことも・・・」
俺はララの頭を思いっきり叩いた。
控室でしばしの休憩をとっているとメリダが駆け込んできた。
「あの、みなさん宜しいでしょうか。どうしてもカメラマンの方達が皆さんを撮影したいと。これも花菱の宣伝になるので協力してもらえませんか」
にべもないと舞台に再び上がり撮影に応じる。思ったよりも大人数のカメラマンがそこにいた。
撮影会はなかなか終わらず1時間近くにもなる。
「えーーー、そろそろ最後にします。撮り終わった方はすぐに前列から離れてください」
メリダもなかなか捌くのが上手くなってきている。
再び汗だくになりレオタードが少しまずいことになっているがようやく終了。
・・・やれやれやっと終わった。これで無報酬のボランティアとかやってられないな
一応報酬はないことはない。今回、あのワイヤーアクションを開発した花菱の研究施設である花菱アイテックという会社の株である。1人あたり100株をプレゼントしてくれるらしい。魔界には株というものがなかったのでわからないが、1株が現在200円ということで2万円ということだ。まあ妥当な金額といったところか。
着替えのために例の会議室に向かうと入り口に関係者の腕章をつけた若造が2人立っている。
何事かと聞こうとすると、
「すみません。すでに着替えのための会議室の利用が終了となり鍵がかかっています。荷物はこちらにありますのでご案内の場所で着替えてください」
どうやら閉館時間が近づいているらしく掃除の業者がすでに来ているらしい。
仕方なくサブ会場にあるというその場所に向かう。が、案内された場所もすでにパーテーションもほとんどが取り払われ着替えるスペースもわずか。メイク落としの化粧品などを置く台もない。
「ちょっと無理そうね。どうしましょう」
田町詩織が困惑した表情でメリダに尋ねる。
「すみません皆さん。私のミスですね。もう少し早く切り上げていれば。あ、でもここから地下駐車場まですぐですので、そのまま車に行きましょう。近くの花菱ホテルに打ち上げの部屋とっているのでそこで着替えれば問題ありません。ここから十分もかかりませんよ」
流石に気の利くメリダである。すぐ近くに打ち上げ会場をとっているとは。
急いで地下駐車場に行く。そこでは芽衣が運転手兼メイドとして待機していた。
「お疲れ様です。お嬢様方。すぐに車を出しますね」
花菱自動車のリムジンに乗り込み少しホッとする。
「やっと終わったわね。あとはクリスマスパーティーを兼ねた打ち上げで終わりってことね」
田町詩織も少し安堵した表情だ。
イベントの後に打ち上げをすることを聞いていたが近くの花菱のホテルだったとは。クリスマスパーティーも兼ねていると聞いていたので各自へのプレゼントも用意しておいて良かった。
車内に入ると当然のごとくリリが俺の膝の上に乗ろうとする。
魔界でのリリは齢100歳。サキュバスの女王として君臨していたのだがマーベラの魔術によりこちらの世界では見た目15歳の少女だ。しかも精神年齢まで退行している。
・・・魔界でのセクシーなララも忘れ難いが、ユリカの体となったこの俺にはちょうど良いかもな
とりあえず膝に乗るのは拒否。が、ピッタリと体を寄せてくる。
「魔王様。私もちゃんと魔王様にプレゼント用意してるの。褒めて褒めてぇーー」
「いや、リリよ。そんなことぐらい私の眷属としては当たり前のことだ。それだけで褒めるというのはどうかと思うぞ。それよりちゃんと座ってシートベルトをしろ」
「えーー、私、不死身だし必要あるのかなぁ?」
「郷にいっては郷にしたがえだ。ここは魔界ではないのだぞ」
仕方なくリリはシートに座りベルトをする。
荷物は花菱の関係者の若造によってトランクに入れられた。三人分の着替え一式となると大きなキャリアケース3つ分。トランクギリギリだがなんとか入る。流石にプレゼントの入ったバッグは入りきれなかったので車内に持ち込む。大型リムジンなので車内がとても広く問題なしだ。
ゆるゆるとリムジンは地下駐車場を出る。時刻はすでに午後5時を回っているせいか日はほとんど落ち暗くなっている。地上に出ると街灯に照らされ白いものがチラチラと降ってきた。
「魔王っ、いえユリカ様。どうやら雪のようですね。気温が1度まで下がっています。積もらなければ良いのですが」
芽衣の言葉に外を見ると雪がちらついている。かなり気温が下がっているのか少し寒くなってきた。コスプレ衣装は薄手なので堪える。
「今、暖房の設定温度をあげますね。あ、うっすらと道路に雪が積もり始めていますね。ちょっとヤバいですね。でもご心配なく。この車はスタッドレスタイヤをすでに装着していますので安心です。けれど他の車が・・・」
駐車場を出たところでやはり渋滞にはまってしまった。年末でただでさえ交通量が多いところに雪だ。ノーマルタイヤでは進むことさえ憚れる。ゆっくりと進むが歩くより遅い。
そしていよいよ車列は完全に止まってしまった。これならホテルまで本当に歩いたほうが早いかもしれない。スマホのマップではホテルまで400メートルと表示されている。
とそこに緊急車両のサイレンが聞こえてきた。しかもかなりの数だ。だが渋滞により進行が妨害されているのかサイレンの音の大きさがあまり変わらない。しかもそのサイレンの数はどんどん増えている。何かよからぬ事態が発生しているのは間違いない。
「メリダ。何が起こっているのかわかりますか?」
俺の要請に応えメリダは花菱グループの専用タブレットで状況を探る。このタブレットは色々細工されており、なんなら世界中の国家機密まで閲覧できる機能を持っている。もちろん非合法であるがこれもひとえにベルフェゴールの仕事の成果である。ベルフェゴールはすでに世界の裏社会を完全に掌握、さらに各国の政府機関にスパイを潜り込ませている。密かに各国家のデータを閲覧できるように細工するなど朝飯前だ。
「魔お、いえユリカ様。消防と警察無線の傍受から状況がわかりました。この先のタワーマンションで火災が発生しているようです。現在、三人の子供がそのタワマンの30階に取り残されているみたいですね。他の住民は無事避難できたみたいですけど。情報によると中学生と小学生の姉妹みたいですね」
「すでに消防が出動しているなら問題はないわね。それよりそのタワマンはここからどのくらいのところにあるの?」
「ちょうどここから200メートルのところですね。ホテルまでの中間地点です」
メリダがタブレットの画面を見せてくれる。
「これなら反対方向に出て街をぐるりと一周回ってからホテルに行った方が早いかもですね」
芽衣がカーナビのガイド画面を見て提案する。
芽衣の説明では遠回りしてもここから30分はかからないそうだ。
が、その時メリダが、
「大変です。そのタワマンの20階付近で爆発が発生したみたいです。どうやらガス漏れが発生していたみたいですね。非常階段も崩落。取り残された子供を助けようと必死になっているみたいですが現場は混乱しているみたいですね。さらに消防のヘリが出動準備しているみたいですがまだ20分は最低でもかかるみたいですね」
「流石に心配になるわね。大丈夫かしら」
心配なのは本当だ。まだ若い命。できるなら助かってもらいたい。
「あっ、魔王様。今、人間のこと心配していたでしょ。そんなところも可愛いのよね!」
どうやら顔に出ていたようだ。
「ララ。私は魔界でも人間は大事にしていたでしょ。こちらでも一緒よ」
「ああ、てっきり魔王様は臣下の数を増やすためだけに人間を大事にしていたと思っていたのに」
「人間だけではないわ。全ての生命を大事にしていただけ。だからサキュバスにも優しかったでしょ」
「サキュバスだけに優しくしてほしかったのに」
「それは我が儘というもの。でも私にとってはララは大事なひとり。昔も今もララは私のパートナーよ」
「嬉しい! 魔王様大好き!」
ララが俺に抱きついてくるが今は拒否しない。魔界では散々ララを凌辱したからな。性的な意味でも。でもこちらでは清楚な姉妹関係でいたい。というかララに対して現在は性的な興奮が一向に湧かないというのもある。これもユリカという女性の体になってしまったからだろう。
が、ララを優しく愛でることに対しては嫌ではない。
・・・愛玩動物と一緒か・・・
あと少しで幹線道路に出るところでリムジンは一向に進まなくなった。
これでは逆回りでホテルにたどり着くこともままならない。
にしても火災は大丈夫だろうか。心配しているとメリダが、
「今、追加の情報が警察無線により判明しました。取り残されている姉妹の名前は三島聖奈、春奈、秋穂。中学3年に小学校6年の双子の姉妹ですね」
その情報に田町詩織の顔色が変わる。
「えっ、三島聖奈! 聖奈って三島遥香先輩の妹さんよ! 確かアトレリアの中等部の生徒会長。大変なことになったわ!」
ほう、俺の眷属である三島遥香は4人姉妹であったか。などと感心している場合ではない。俺としても自身の眷属の悲しむ顔など見たくもない。
「メリダ、助けに行くわ。ララも大丈夫?」
「魔王様の命令とあらばたとえ地の中水の中。命に替えても命令には従います。それに魔王様の眷属とあらば家族も同然。私の家族でもあります。行きましょう!」
俺とララは飛翔魔法が使える。ここは詩織には残ってもらおう。
「私も行きます。私も助けたい!」
まあ気持ちはわかるが人間には飛翔魔法は無理だ。と言おうとしたところララが、
「なら行きましょう! サキュバスの魅了魔法の一つに空中闊歩があります。私と手を繋いでいれば空を飛べますよ」
「いや、それでは手が塞がるし子供達を助けられないでしょ。それに魔力の根源となるマナがここでは薄いし」
俺がダメ出しすると今度はメリダが、
「大丈夫ですよ魔王様。私が魔力結界を作ります。半径10メートルの結界内にマナを収束させ詩織は私の遠隔魔法によりその中で空中浮揚させます。魔王様とララもその中にいれば魔力消費量も少なく100%パフォーマンスを発揮できますよ」
古代魔竜の生き残りで魔力ではこの魔王たる俺に匹敵するメリダだ。このくらいは朝飯前だろう。
「三人で行けば三人助けるのも容易。それに乗りましょう!」
俺たちは社外に出る。薄着なのでかなり寒いがメリダが結界を張ってくれたおかげですぐに寒さは遮断された。
「さあ、行くわよ!」
「ええっと、あの、カメラの列が・・・」
詩織の言葉に振り向くとあの会場でのカメラマンたちが一斉にこちらにレンズを向けている。どこから表れたんだと思うがやはり人気者だっただけに出待ちをされていたらしい。
「構わないわ。それより早く!」
俺たちは結界に守られながら飛翔魔法で飛ぶ。タワマンまではわずか1分ほどの距離だ。
あっという間に到着。どうやら30階というのは屋上のペントハウスのことのようだった。すでに家屋部分には火が回っている。三人の少女が屋外の庭の部分に避難しているのが見えた。
「えっ、ナイトメアホワイトっ?」
降り立つと小学生らしき姉妹の1人が驚いたようにこちらを見て叫ぶ。ここは否定せずに、
「ナイトメアホワイト参上! そう私はホワイトよ。レッドとピンクも来ているわ。それより早く避難するのよ。つかまって!」
俺はお姫様抱っこで1人を抱える。詩織とララもそれぞれ抱えて避難だ。体格の良い詩織、つまりナイトメアレッドは中学生をナイトメアピンクのララはもう1人の小学生を抱えている。少女たちの顔は煤だらけで足や手に火傷のあとがあるが命には別状なさそうだ。
「もう大丈夫だから安心して。それより他に取り残された人はもういないのかしら?」
念の為に聞くが少女たちの答えはいないとのことで安心する。
そして屋上の庭から飛翔、タワマンの前にゆっくりと降りていく。
その時、
ドドぉーーーーーーーん!
屋上が大爆発とともに吹っ飛んだ。そしてタワマンの15階から上が無惨にも崩れ去る。
「危なかったわね。あと5秒遅れていれば巻き込まれてたわ」
崩れ落ちた瓦礫でタワマンのすぐ下の消防車が潰れているのが見える。大丈夫なのか。
その時インカムにメリダの声が、
「消防士たちは寸前で避難してみんな無事よ。それより女の子たちは右隣にある公園に降ろしてちょうだい。まだ崩壊の危険性があるのでそこが避難場所に指定されたみたい」
メリダの指示に従いタワマンから100メートルほど離れた公園に着地。無事に少女たちを助けることができた。が、ここにもカメラマンたちが。どうやら報道関係のカメラマンもいるみたいだ。肩に担いだプロ用のカメラも見える。
たくさんのカメラマンたちがこちらに駆け寄ってくるのが見えたので再び飛翔。
すでにリムジンは花菱ホテルに向かったとのことで俺たちは隠蔽魔法で姿を隠し花菱ホテルの屋上に向かった。
タワマン火災から2時間後。
俺たちはホテルのスイートルームでくつろいでいる。すでにパジャマに着替えまったりモードだ。芽衣とメリダもパジャマ姿。
そう、この後は女の子同士のパジャマパーティーとなっているのだ。1人元男がいるが。
クリスマスパーティーも兼ねているのでこれからプレゼント交換会。にしても、
「あーー、隠蔽魔法使えるなら最初から使っとけばよかったのに」
なぜか清友麻衣子もパジャマでくつろいでいる。テレビの報道を見て慌ててやってきたそうだ。そして言い放ったのが先の言葉。
「隠蔽魔法は意外と魔力を消費するのですよ。ミッションコンプリートのためには飛翔魔法に全力を注ぐ必要があったので使用を躊躇ったのです。それより今後、どうするかということです」
メリダの言い訳。いや、絶対に忘れていただろ隠蔽魔法。
そして麻衣子がここにいる理由。あのカメラマンたちにより俺たちの素性がバレてしまったのが原因だ。テレビでは今盛んに本物の魔法少女による救出劇が報道されている。どのチャンネルでも前代未聞の本物の魔法少女の姿がバッチリと映っている。
俺たちの正体がセントアトレリア女学院の生徒たちであると詳しく報道しているテレビ番組もある。そこには俺、つまりユリカの顔がアップでとらえられている写真が大写しになっていた。テレビでは空中飛翔した様子から亡命してきたバンパアイアのアリアではないかと推測するコメンテーターもいた。
・・・アリアとユリカは瓜二つだしな。今となっては元のユリカもいるので瓜三つというところか
話題となっているのは救出劇よりも魔法少女の空中飛翔だ。人間が重力に逆らい空を飛ぶ。ある意味、最も非現実的なことが起こったことが世界中にいま拡散されつつある。
「これは大変なことになったわね。今回のコスプレの件は花菱グループが関わっているしなんとか説明を考えないとね」
そう、麻衣子がここにいる理由。それは花菱グループの科学技術部門の最高顧問に麻衣子が先日就任したからだ。
「さあ、今からパーティー抜きで後始末を考えるのよ」
「ええっー、そんなぁーー」
あからさまにブーたれるララ。そして他のメンバーも暗い表情だ。
俺たちは自分たちのしでかしたことの重大さをこの時はまだ知らなかった。
その3に続きます。飛翔魔法ってあるとほんとに便利ですよね。
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