15 学校の階段ならぬ猥談 その1
いよいよ新学期。無難に始まるとはとても思えませんね!
15 学校の階段ならぬ猥談 その1
9月の1日。今日から新学期。
俺は朝のルーティンで裸で音楽浴。今日はドボルザークの新世界だ。
大音量で体に染み渡る。新鮮な果物のミックスジュースを啜りながら瞑想に浸る。
細胞の一つ一つが活性化し体内にマナがみなぎるのかわかる。俺の横ではアリアも同じようにしている。ユリカに比べ少し筋肉質な体は第二次性徴をそろそろ終える時期なのか艶かしくも美しい。その素晴らしさに見惚れていると、
「ユリカのエッチ。いえ、今は悪魔のアークなのかしら。それにしても目がいやらしいわ」
自分から丸裸になっているのに恥ずかしいとは何事だ。いや、その前に今は覚醒している主体はユリカだ。現在、俺とユリカの意思は混濁しどちらが主導権を握っているかわからない状況。もうすぐクローンボディが完成し俺とユリカは完全に分離される予定だが早くしないと魂の融合が進みそれが難しくなるかもしれない。
「ううん、今はユリカよ。それよりも聞きたいことがあるの忘れてた。アリア、あなた魔法は使えるの?」
夏休みのテロ事件ではアリアはほとんど活躍することなく影に隠れていた。
「少しなら使えるわ。でも私がバンパイアってことが知られている以上、下手に魔法は使えないわ。バンパイアはやはり恐ろしい生き物だって思われるから」
「それもそうね。でもあの時、生徒たちに精神安定の魔法、こっそりかけていたでしょう?」
あのテロの時、俺は生徒たちがPTSDにならないようにこっそり精神安定の魔法をかけていたのだが生徒全員にかけた割にマナの消費量の少なさに驚いていた。メリダがかけたのかと聞くがあっさり否定されていた。
「やっぱりわかったのね。さすが中身が大魔王だけあるわ」
あの夏休みの事件は結局、テロ未遂事件として首謀者他犯人たちの逃亡ということで方がついてしまった。まあ俺が異世界に送り込んでしまったのだがな。警察としても犯人たちを追っていたのだが無駄なことなので裏から手を回して捜査本部は解散させてやった。俺の直接の眷属は警察内にはいないがベルの支配下の者たちがかなりいるとのこと。ベルフェゴールなかなかのやり手である。
その後もたわいない話が続くが、
「お嬢様方、そろそろお時間です。お着替えをお持ちしました」
芽衣がすぐ後ろに立っていた。いつ部屋に入ってきたのだろう。まあノックの音は音楽で聴こえないだろうが気配はわかるはずだ。やはり忍者の家系であるからだろうか。
その後、アトレリア女学院の制服に着替えリムジンで出立。なんとリムジンの運転手はメリダだった。
「服部侍従長にかわり今日から私がボディガード兼運転手を務めます」
「えっ、メリダ。免許証持ってたの?」
俺はついこの間まで龍神として封じられていたメリダが免許を持っているのか疑問に思う。と、
「全知全能に近い私ですよ。仮免、本免共に試験場一発合格です!!」
何気に有能なメリダ。が、現実の路上運転は危険がいっぱいだぞ。
お付きのメイドの芽衣も一緒に早々屋敷を出発。
車はすぐに地下首都高に入る。府中インターで地下トンネルを出るとあと十分ほどでアトレリア女学院だ。
「ええっと、お嬢様方。かなり渋滞しているようです。ナビによるとどうやら事故ですね」
車はいつも20分ほどの余裕を見て早く出ているのだがナビ情報によるとどうやら間に合いそうもない。
「今SNSで確認したところ、この先でトレーラーが横転しているみたいですね。最低でもあと1時間は復旧までかかるみたいです」
芽衣の報告に少し滅入る。夏休み前も同じような状況だったことを思い出す。まだまだ気候は夏。この中を汗だくで歩くのはもうごめんだ。
「今日は諦めて遅刻ですね。暑いし無理はしないほうが良いかも」
アリアもやはり暑さを気にしている。バンパイアだけに暑さには弱い。
「大丈夫です。こんな時のためにあれを用意しておきました。メリダさん。あそこの美術館の横に止めてちょうだい」
芽衣はしたり顔でメリダに指示を出す。
美術館前のバス停車用の少し広いスペースで車が止まる。まだ営業時間外なので他に車は止まっていない。芽衣は車を降りると後ろのトランクを開ける。そして何やら取り出す。俺たちも降りてその得体の知れないものを確認する。
「電動キックボードです。これならあと15分ほどで女学院に着きます。ホームルームにはギリギリ間に合いますよ」
折りたたみ式の電動キックボードであった。簡単な使用方法を芽衣から説明される。そしてヘルメットを着用して早速出発だ。芽衣によると女学院にはすでに電動キックボードで行くことを伝えているそう。なのでそのまま玄関口まで走行できるそうだ。
「電動キックボードは玄関で乗り捨ててもらって構いません。後ほど私たちが回収にあがります」
俺たちは安心してキックボードで走り出す。女学院指定の通学カバンはリュックみたいに背負えるので快適な走行ができる。
アリアはちょっとウキウキしてボードに乗っている。あと10分も走れば女学院だ。自転車、キックボードの専用レーンを快適に走行。
「もう女学院の入り口の坂が見えてきましたね。それにしても風が気持ち良いですね。ねえユリカ、帰りもこれに乗りたいわ」
ヘルメットに装着されていたインカムからアリアの楽しそうな声が聞こえてくる。
確かアリアのいたヨーロッパでは電動キックボードはあまり普及しなかったように記憶している。なんといってもルール無視の無謀運転が多すぎたのが原因だ。それに盗難も多く国によっては禁止しているところもあったらしい。
「おそらく電動キックボードだけで通学するとなると屋敷から2時間はかかりますよ。最寄りの駅くらいまでならなんとかなりそうですね。休日に近所の散策とか行ってみましょう」
「そうね。そうしましょう。私、日本の神社とかにも興味あるので今度連れて行ってちょうだい」
「近所というと松陰神社ですわね。ちょっと足を伸ばせば明治神宮というのもありますよ」
そんなたわいもない会話をしながら女学院の玄関に到着。あと2分でホームルームだ。なんとか間に合いそう。キックボードを乗り捨て教室へと急ぐ。
「なんだか静かですね。学院長の朝の訓示でも始まっているのかしら」
普段なら学生たちのざわめきで落ち着かない時間帯。が、今日は静まり返っている。ホームルームは8時半きっかりに始まるはず。時計ではまだ1分はある。
「なんだか嫌な予感がするわ。ユリカも感じるでしょ」
「ええ、微妙な魔力の流れ。マナの乱れを感じるわ。何かあるわね」
教室の入り口に近づくとクラスメイトの田町詩織が俺たちを見つけて走ってくる。
「ユリカにアリア。よかった。2人はなんともないのね。クラスのみんな、いえ全校生徒がおかしくなっているの」
詩織は顔面が蒼白だ。何か良くないことが起こっているは明白。
「どうしたの詩織。みんながおかしくなっているって?」
「中を見たらわかるわ。驚かないでね」
俺たちはそっと教室のドアを開ける。
「うっ、なんかすごい匂い」
アリアは教室から流れ出てくる匂いに顔を顰める。
「どうやらエアコンの電源が入っていないみたいですね。どうしたのかしら」
教室内はおそらく30度近くあるのだろう。少女特有の甘酸っぱい匂いが充満しているようだ。
そして俺たちは中を見て驚愕する。
「み、みんな全裸ってどういうこと!?」
そこに見たのはクラスのみんなが全裸で机の横に整列している姿だった。脱いだ制服は綺麗に机の上に置いてある。その上に肝心の下着も。そしてみんな我を忘れたように目がうつろになり視点が定まっていないようだ。
詩織が説明を始める。
「私が朝、教室に入るとすでに半分くらいの生徒が全裸でボーとしてたわ。そして教室に入ってきた生徒は次々に同じようにボーとなって服を脱ぎ出してこの状態。訳がわからないわ」
俺は全裸の生徒たちをじっくり観察する。
・・・うん、目のやり場に困るな。サマースクールのお風呂で全裸の状況には少しは慣れたとはいえ、学校の教室で全裸とは・・・
場違い感いっぱいな状況に少し戸惑う。脳内アーカイブではこの状況は解析できないため脳をネットに繋ぎ高速検索をかける。そして一番似たような動画がヒットした。田町詩織は俺の正体を知っているため今、俺が何をしているのかわかっているようだ。そして俺の脳内にある情報がヒットする。
「全裸登校日というアダルトビデオが引っかかったけど」
「うん、それ多分違うと思う」
詩織とアリアが速攻で答えた。
俺たちがとりあえず生徒一人一々の覚醒具合を確認してみる。ちゃんと瞬きはしているがこちらの呼びかけにはまるで反応がない。
肌の感覚があるのかと一人の生徒の胸を触ってみる。田中秋穂だ。着痩せするタイプなのか思った以上に胸がある。
「肌に感覚があるのかしら?」
撫でるように触ってみるが反応はない。念の為、胸の先端部分も触れてみるる。上半身では一番敏感な部分だからな。それでも反応はない。
『アーク、趣味でやっているのではないでしょうね』
元ユリカの声に俺は慌てて手を引っ込める。
「え、そんなつもりじゃないわ。でもこれは精神魔法みたいね。これならなんとかなるわ。それより誰か来たみたい」
人の気配に俺は出入り口の方を振り向く。
「あなたたちはやっぱり大丈夫なのね」
振り向くと教室の入り口に三島遥香がいた。ちゃんと制服を着ていている。そして俺は気づいた。詩織や遥香は俺の眷属となっている。それで今回の状況を免れたのだろう。アリアは元から魔族の一員。精神魔法にはかかりにくい。
遥香によると女学院内の全ての生徒、教職員が全裸となり意識が低下しているそうだ。人数が多いし全裸という状況。警察や救急車を呼ぶのもすぐには躊躇われる。とりあえず俺たちでなんとか解決策を考えよう。
「ここは私たちでなんとかしましょう。こんなことが世間に知られたら大問題ですから」
他の三人も俺の意見に頷く。
俺は首謀者がいないか探知魔法でマナの流れの大元を辿る。がマナはかなり拡散しておりなかなか辿れない。とその時、全裸の生徒たちが動き出した。マナの流れがなかったところを見ると事前にプログラミングされたものだろう。
全裸の生徒たちはカバンからスマホを取り出し電源を入れ始めた。そしてカメラを起動させようとしている。
・・・一体、何が始まるんだ
俺が怪訝に思っているとあちこちからシャッター音が鳴り始める。どうやら生徒同士でお互いの裸体を撮りあっているようだ。そして遥香がハッとした顔をして叫ぶ。
「まずいわ!! 犯人の目的が判ったような気がする。すぐに職員室のWi-Fiのブレーカーを落とさないと!! 」
その声と同時に遥香は猛ダッシュで教室を飛び出していった。
俺にもその目的が判った。犯人はアトレリア女学院の生徒の裸の写真をSNSで拡散させアトレリア女学院の評判を落とすことが目的だろう。裸の写真を拡散させられた生徒もたまったものではない。人生が終わってしまうと考えるものもいるだろう。このことに気づいた詩織は、
「ひどいわ!! こんな悪魔みたいな手段で女学院、いえ生徒を傷つけようとするなんて!!」
全く同意だ。が、詩織は俺の方を見て罰が悪そうな顔をする。そう、詩織は俺の眷属となった際に俺の正体が悪魔であることを知ってしまっていたからだ。
「あーーっと、悪魔にも良い悪魔もいるんだけどね。ユリカ、ごめんなさい」
「いえ、気にしていないわ。悪魔の評価って人間界ではそれが普通だものね。それよりWi-Fiはちゃんと切られたようね。ナイス遥香だわ。携帯の妨害電波もちゃんと機能しているようだし。後は生徒たちをなんとかしないとね。おそらく何かの呪いの魔術でもかけられていると思うの」
女学院内には始業から放課後まではスマホが使えないように妨害電波が出ている。ただWi-Fiは使えるようになっていたため遥香の判断は適切であったといえよう。女学院内のWi-Fiは特殊で外部との接続は三分間のタイムラグがあるように設えている。実はこの三分間の間に不適切な言葉、つまり人を誹謗中傷するような書き込みを排除する仕組みが作られているのだ。AIを利用しているのだが残念ながら動画や画像に関してはまだ完全対応はしていない。裸の画像などは撮った三分後には全世界に拡散される可能性があったのだ。
俺は少しほっとするが、後は生徒たちの覚醒を促さないといけない。
「お嬢様方。ご無事でしたか」
教室に芽衣とメリダがやってきた。なんでも電動キックボード使用のお礼に学院長のところに行ったところ学院長が裸で突っ立っていたそうだ。異変に気付き俺たちの教室までやってきたとのこと。
「すでに学院長にかけられた術は解きました。この後、私の広域魔法で生徒たちの術も解きます。なので私から少し離れてください」
メリダは何気に優秀だ。すでに今回の呪いの術を解析しそれを解く解呪魔法も編み出したとのこと。俺とアリアは自身の中にマナを持っているのでメリダの近くではそれが共振を起こし気分が悪くなるかもしれないと離れるように指示された。
少し離れてメリダの解呪魔法の発動を見守る。
メリダの体が発光しその光が女学院全体に広がる。発光は一分ほど続いたがそれが終わると教室の生徒たちがざわめき出す。
「キャッ、なんで私、裸なの!!」
「えーー、裸ってなによ!!」
「えっ、どうゆうこと。服を早く着なくちゃ」
あちこちからそんな声が聞こえみんな慌てて服を着だす。
「魔王様、いえアーク。どうやら解呪できたようです。それより犯人を探さなくては。またこのような事態が起こるといけません」
メリダは少しホッとしたように話しかけてきた。にしても犯人は誰だろう。
俺は精神を集中して探知魔法でマナの流れを探る。さっきよりもマナの流れがクリアになっているので探知しやすい。そして校舎の屋上に犯人らしき者がいることを察知する。
「犯人は屋上よ。メリダ。ついて来て!!」
犯人を追って屋上に。そしてそこは想像を絶する状態だった。
「アーク、これはポータルですね」
異世界へと繋がる門が開かれていたのだ。
少し長いので2話に分けます。さてポータルからは何が出てくるのでしょうか。それてもこちらから異世界に行くのでしょうか?
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