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ユリカは覇道を目指す!  作者: 名切沙也加
14/15

14 サマースクール その3

暑いですね。こんな時は涼しいエアコンのきいた部屋でゆっくり読書が最高ですね。

14 サマースクール その3


 サマースクールもいよいよ最後の三日目。朝食の時間。

 今日は近隣の水族館に行った後、昼食を食べたら帰路に着く予定。


「それにしても疲れたわね。昨日がハードすぎたわ。朝からお腹ペコペコ」


 鈴木愛理が朝食のビュッフェの皿にフレンチトーストを山盛りに持ってくる。


「昨晩もデザートのアイスを三人前食べたのにすごいわね。少し体型気にしないと」


 対して佐藤陽茉莉は和食でかなり少なめの盛り付け。

 それを見た愛理が、


「あなたはもう少し食べてほうが良いと思うわ。育ち盛りでしょ。このままだと出るところも出ないわよ」


 痩せ気味の陽茉莉に対しての当てつけであろうか。2人の掛け合いは見ていて面白い。やはり初等部からの幼馴染というのもあるのだろう。少し羨ましくなる。


「それにしてもユリカは見た目と違って意外と和食派なのね」


 愛理から振られるが、


「和食って健康的なイメージよね。今では3食和食でも全然大丈夫よ。特に納豆にご飯って最高の組み合わせよね。もちろんTKGも鉄板だけど」


 これは本当である。魔界の食事がいかにお粗末であったかということである。


「昨日の疲れが抜けきっていないみたいね。今日は体を動かすイベントもないしゆったり過ごしましょう」


 その後はグループの三人でたわいもない会話をしながら朝食をゆっくりと摂る。愛理の食べきれなかったフレンチトーストも分けてもらいながら。


 にしても本当に昨日は疲れた。サマースクール2日目は花菱のプライベートビーチでの運動系の一日であったからだ。

 お嬢様ばかりの女学院なので運動が苦手な子が多い。習い事はほとんどピアノやバイオリン、お花にお茶。運動が得意な子はクラシックバレエを習っている子がほとんどだが数は少ない。そんな関係でサマースクールの2日目は主にビーチで体を動かすことが主体となっていた。午前中はビーチバレー大会。なんと俺たちの班は優勝してしまった。


・・・ちゃんと魔力を使わずに優勝。最後の愛理の活躍にはびっくりしたけどな


 午後は海岸での水遊びの後、スイカ割り大会。こちらは最下位。極端な結果になったがまあこんなもんだ。スイカ割り大会では俺たちはほとんど体力を無くしていたのでやる気がなかったのも原因。

 それよりも、


「ねえ、バンパイアなのに太陽にこんなに当たって大丈夫なの?」


 かなりの生徒から聞かれたが今では99%普通の人間なので当たり前と答えてやった。これはアリアも一緒のようであった。日焼け止めの最高級オイルはたっぷり塗っていたがな。それでも今はちょっとヒリヒリする。きっと日焼け痕が残り水着のラインがくっきりするのだろうな。俺は出来るだけ日焼けしないようにワンピースのフレアのある水着だったが他の生徒は結構大胆な水着が多かった。三分の二くらいはビキニでかなり際どい子もいた。あらかじめ女子しかいないプライベートビーチと聞いていたので安心したというのも理由だろう。


・・・ちょっと目のやり場に困ったがな。まあアニメなら水着回ということで一話分だな


 朝食も終わり荷物を片付けいよいよ保養所を後にする。迎えのバスに乗り小一時間で水族館だ。揺られる心地よさにほとんどの生徒は居眠りしてしまっている。俺は一時間も寝れば完全休養が取れるのでスマホで色々情報を見る。


・・・ベルフェゴールからの連絡が入っているな。何々・・・


 久しぶりに部下であり盟友でもあるベルからメールが入っていた。大阪と九州にあるカジノの権利を取得したとの報告である。すでにラスベガスのカジノの三分の一の権利は取得していたと聞いていたがいよいよ世界にその覇権を広げているようだ。

 ただ横浜でのカジノの権利取得に苦労しているようで支援を頼みたいといっている。


・・・確か横浜のカジノは桃花教というカルトな宗教団体が実質的なオーナーという調査結果が出ているはずだ


 宗教団体がカジノとは少し違和感を感じるが宗教とてお金がいる。それにカジノで破綻した者を宗教に勧誘しているのかもしれない。

 とりあえず俺は麻衣子にメールを送りベルの支援を頼んだ。ちょっと厄介たがなんとかなるだろう。ベルに労いのメールを送り麻衣子との打ち合わせをするように指示した。


 やがてバスは水族館に到着。本来は休館日であるが貸切ということでゆっくり見ることができる。勉強の一環なのでただ見るだけではなく班ごとに将来の水産資源の動向、海洋生物の保護、アミューズメント施設のあり方等のレポートを提出することになっている。


 水族館に入るやいなや愛理は一直線にクラゲのコーナーに向かう。


「クラゲって見ていると和むわねーー」


 水槽にへばりつくようにして見る愛理。


 俺のいたアークランドでは動物園はあったが水族館などというものはなかった。海洋生物とは食糧という概念のみであったが見ても楽しめることにちょっと驚く。


「でもクラゲも食べることができるのよねー」


 やっぱり愛理であった。

 その後も各水槽を回るが、この魚は南蛮漬けにすると美味しいとかこっちは西京焼きが美味とか相変わらずである。タラバガニのコーナーでは舌なめずりしていたのにはドン引きであった。


 十時半からはイルカのショーがあるとのことで半屋外のプールへとみんなが向かう。あいにく低気圧が近づいているとのことでかなり黒い雲が近づいてきている。スマホの雨雲レーダーでは後10分ほどで雨になることが予測されている。観客は貸切ということで俺たちは最前列に陣取る。


・・・ギリギリ屋根があるので客席は雨で濡れることはなさそう。だがカミナリ注意報も出ているので気をつけないとな


 濡れないようにと学校指定のショルダーバッグからタオルを取り出す。これで多少は大丈夫かな。と思ったらビニールのカッパを渡された。どうやら前の方の5列まではイルカのはねた水が飛んでくるとの説明。


 そしていよいよイルカのショーが始まる。そこで気づいた。隣の愛理のさらに隣はメリダが座っている。ビジネススーツに身を包みいかにもできる美人秘書といった風体だ。生徒の中にいるとできる先生かな。


「えっ、メリダ。先に東京に帰ったんじゃないの?」


「はい、麻衣子さんという方から頼まれましてユリカの護衛をするように承りました。魔王様よろしくお願いします」


 魔王という言葉に愛理と陽真莉は不思議そうな顔をするが特に騒ぐこともなかった。これは俺の精神魔法が効いているのだろう。

 その後、イルカのショーを存分に楽しむ。かなりびしょ濡れになったが。

 そしてショーもいよいよクライマックス。イルカ同士のバスケットボール合戦。なんと俺のところにボールが飛んできてイルカがパスをするように促す。イルカに投げると器用に鼻先で受け取りプールに設置されたゴールにシュートする。それが見事に決まり拍手喝采。ボールのせいでさらにびしょ濡れだぞという野暮は言わない。

 最後にイルカたちが勢揃いしてみんなに挨拶。再び大喝采。


 と、その時、


ドガァーーーン!!


爆発音が周囲に響く。


「「キャーーーーーーーーーーー!!」」


 周囲に少女たちの叫び声が響く。一瞬、雷でも落ちたのかと音のした方を見る。海とプールを仕切る柵が見事に破壊されていた。そしてそこから20台ほどの水上バイクがなだれ込んできた。


「何かしら? ショーの演出か何か?」


 隣の愛理は不思議そうな顔をして見ている。


「まずいわね。どうやらテロリストみたいですよ。手には銃を持っているし」


 乱入してきた水上バイクの人たちは手に持っているマシンガンを空に向かって撃っている。


ダッダッダ、ダッダッダ


 弾が天井のコンクリートに当たりバラバラと破片が落ちてくる。

 生徒たちはパニックになりショーの会場の外に逃げ出そうとするが出入り口にもテロリストらしき人たちが銃を構えて待ち構えていた。これでは逃げられない。

 犯人たちは全員、白い法衣みたいなものを着ており顔にはアイスホッケーのキーパーマスクみたいなものをつけている。


 メリダが、


「完全に包囲されたようですね。魔王様。ここは私があやつらを殲滅しましょう」


 メリダのマナが急激に増えているのがわかる。体が薄く発光しだした。これはまずい。


「待ってメリダ。銃口が生徒たちに向けられているわ。下手に動くと死人が出るわよ。ここはまず状況を見ましょう」


 メリダの水流魔法で確かに殲滅はできるかもしれないが発砲されるのは自明の理。相手の数を考えると最低でも数人の重症者は出る。当たりどころが悪ければ死人も出る。

 生徒たちは何が起こったか分からずガタガタ震えているものや、中には泣き出すものもいた。 

 犯人の1人がショーの舞台に上がる。おそらくリーダーだろう。そして調教師のお姉さんからマイクを奪い取ると、


「我々は桃花教団の信者である。皆さんには人質となってもらう。なに単純なことだ。我々にはお金が必要だということだよ。たったの三千億円。ここにいるのは日本有数の資産家のお嬢様たちだと聞いている。三千億など端金だろう。明日の昼までにスイスにある桃花教団の口座に振り込んでもらおう。あ、ちなみに桃花教団とは俺たちの隠れ蓑であって振り込まれたのちはすぐに解散する予定だ。なので本当の俺たちの正体はわからないだろうよ。ちなみに今の状況はネットで全世界に配信されている。とりあえず無駄な抵抗はしないようにな」


 その言葉が終わると銃を調教師のお姉さんに向かって一発放つ。


ギャーーーー!!


 そのお姉さんは右の太腿を撃ち抜かれたらしく倒れて激痛に悶えている。

 そして、


「どうだ。俺たちは本気だぞ。まあ振り込みまでは最低でも二時間はかかるだろう。二時間後にはこの中から1人を銃殺する。そしてあとは一時間ごとに一人ずつ射殺していく。ははは、どうだ近年稀に見るショーの始まりだぞ!!」


 恐怖のせいか隣に座っていた佐藤陽茉莉が俺にしがみついてきた。


「大丈夫? 陽茉莉」


 ガタガタ震えているのがわかる。顔は真っ青だ。そして座っている椅子から何やら大量の液体が。どうやら失禁してしまったらしい。


「私がなんとかするから頑張るのよ」

 

 今はそんな言葉しかかけることしかできない。

 あたりを見回すとスマホで連絡をとっている生徒も見て取れる。先生の中にもちらほら。どうやら犯人たちはスマホで連絡を取ることには無頓着らしい。というかわざと連絡を取らせて現場を報告させているのかもしれない。


 すると俺のスマホにも着信が。ベルフェゴールだ。


「どうしたベル。今の状況は把握しているのか」


「はい、魔王様。今、テレビで臨時ニュースが始まったところです」


「魔王と呼ぶんじゃないベル。ここではユリカと呼べ。聞こえているぞ」


 スマホがスピーカーモードになっているのを忘れていた。元に戻して再び会話。


「ユリカ様。驚いたことに横浜のカジノですが先方から売りたいとの打診がありました。そして急ぎたいので明日までに2千億円用意してくれとのことです。これは相場の八割くらいですね。どうしましょうか」


「とりあえず保留だ。先方には明日までなら一千五百億ならすぐ用意できるとでも伝えておけ。それより桃花教団というのは怪しいな。今、俺たちを人質にとっているのが桃花教団だ。どうしてそんなに金が必要なのか探れ。いいなベル」


「承知しましたまお、いえユリカ様。急いで調べやす」


 犯人たちはネットを通じて現状を全世界に配信しているようだ。俺のスマホにもライブ配信でその状況が見て取れる。そして画面の右上に現在の身代金の合計額が表示されている。なんとすでに一千億円を超えていた。焦ったどこかの両親が慌ててお金を振り込んでいるのだろう。振込先も同時に配信されているのでもしかしたら生徒の両親以外からも振込があっているのかもしれない。


 時間は刻一刻と過ぎていく。身代金の額はすでに2千億円。犯人の要求する三千億円にはまだ届かない。そして二時間が経過する。


「どうやら三千億円には届いていないようだな。では1人射殺することにする。そこのお前、前に出てこい」


 なんと指名されたのは俺であった。ちょっとビックリするが魔法を使えば弾丸を服が通過したところで止めることもできる。そこで死んだふりをすればなんということもない。と思っていると、


「私が最初で構いません。生徒を見殺しにすることはできません!」


 名乗り出たのはなんとメリダだった。おそらくメリダも俺と同じことを考えているのだろう。魔力で弾を防ぐ。魔物なら容易いことだ。


「おっ、最初は先生か。生徒の恐怖感を煽るには最適だな。じゃ、ここにこい」


 リーダーらしき犯人はメリダをショーの舞台に呼ぶ。そして目隠しをすると正座させる。


「いいか、俺たちが本気であることを世界に知らしめる!! あの世でせいぜい俺たちを恨むんだな。あいにく俺たちはこの世界からおさらばするので関係ないが」


 その言葉が終わると同時にマシンガンが火を吹く。五発程度の弾丸がメリリダの胸を貫く。そしてメリダはドガっと前のめりに倒れ込んだ。


ギャーーーー


 あたりに生徒たちの悲鳴が響く。


・・・まずいな。PTSDにならなければ良いが。ことが終わったら精神魔法でなんとかするか


 この状況を反映してか身代金の額が一気に増える。今は2500億円を突破している。このままでは犯人たちの要望通りとなってしまう。


 俺が状況を危惧しているとメリダから念話が入る。


『魔王様。いえユリカ。私はなんともありません。それよりこれからどうしましょう?』


 メリダの無事にホッとするが俺は犯人たちに対する違和感を感じメリダに命ずる。


『メリダ。寝たままでも探知魔法は使えるはずだ。俺は犯人たちに違和感を感じるのだが犯人たちの肉体的、精神的な探知をおこなってくれ。おそらく何かあるはずだ』


『わかりました。実は私も何か犯人たちに対して変な感じがしていたのです。探ってみましょう』


 すると妹のアリアからも念話が入る。


『ユリカ、この犯人たちおかしいわ。なんだか私たちと同類の感じがするの』


 やはりアリアも違和感を感じていたようだ。ここは魔界随一といわれたメリダの探知魔法を頼るしかない。そして5分も経たないうちにメリダから報告が入る。


『ユリカ、大変なことがわかりました。ここにいる犯人たちは人間ではありません。ゴブリンですね。ただ限りなく進化してほとんど人間と言っていいものとなっています。体内にわずかながら魔石の反応もあります』


 やはりなと思う。違和感の理由は体内の魔石のせいか。それともう一つは全員が身長が150センチ前後と小柄であることだ。背の高くなるブーツを履いているのでそこまで違和感がなかったのだがそのブーツ自体にも違和感があったというわけだ。


 俺は念話でメリダ、アリアに伝える。


『魔石を体内に持っているのなら問題なく解決できる。ただメリダとアリアにはちょっと辛いことになるかもしれない。今から魔石暴走の魔法を展開する。魔石が二百度くらいの温度になるはずだ。周囲の肉体組織を沸騰させ死ぬか重傷を負うはずだ。2人は魔石の周囲の肉体組織を強化する魔法があると思うのでそれをかけてくれ。大丈夫かな?』


 2人から問題なしとの念話が入る。もちろん俺自身の魔石も熱暴走するが周囲の肉体組織を断熱構造に作り変える。

 スマホを見るとすでに三千億円まであと百億くらい。このままでは犯人の目論見通りとなってしまう。

 俺は立ち上がると両手を天に掲げ魔石暴走の魔法を展開する。


ヒートマナストーン!!


 魔石は瞬時に温度を上げる。犯人たちはもんどり打ってその場に倒れ込む。マシンガンを発射しようとしたものもいたが俺の遠隔アイスカッターで瞬時に手を切り落とした。


 生徒や付き添いの先生たちは何が起こったか解らずあっけに取られている。


「皆さん、もう大丈夫です。アリアと私のバンパイアの魔法で犯人たちを無力化しました。すぐに犯人たちの法衣を脱がし、それで両手両足を縛ってください。さあみんな協力してしましょう」


 我にかえった生徒、先生は俺の指示通りに行動する。実は精神魔法もかけており犯人制圧の達成感を与え勝利した時の感動と一緒の感覚を与えているのだ。

 そして死んだふりのメリダも立ち上がり。


「皆さん。私も無事です。私はユリカ様の護衛ですので防弾チョッキ着ていたのです。ご心配かけてすみません」


 生徒から歓声と拍手がメリダに送られる。と同時にショー会場に警察の機動隊が雪崩れ込んできた。どうやら配信を見ていて事態が急変したのを察したのだろう。


 俺はメリダの横で倒れている犯人リーダーの元に駆け寄る。そして機動隊が来るとまずいので不可視の結界をはる。まだ息があるのを確認して聞いてみる。


「どうしてこんなことを起こしたのだ。お前がゴブリンであることはわかっているぞ。魔物であるお前たちはひっそりと暮らしていれば良いものを」


「くそっ、人間なんかにわかるものか。人間には何もわからないかなな」

 

 俺はメリダに目配せする。メリダはそれを察知して竜化する。それを見たリーダーは、


「ひっ、お前は竜だったのか。それで死ななかったのだな。それに確かお前はアリア。バンパイアの女王だったな。ならば理由を話そう」


 どうやら俺をアリアと勘違いしているらしいが今は問題ない。


「友達のライカンから聞いたのだ。この地球に魔王サタンが現れたってな。そしてライカンたちは魔王に敗れ再びアークランドに送られることになったそうだ。俺たちは魔王が怖いんだ。金があればマナサイト鉱石を十分に買うことができ異世界への門を開くことができる。魔王から逃げることができるんだ」


 俺はこの話を聞いてちょっと後悔する。実はゴブリン族をアークランドから追放したのはこの俺自身であるからだ。アークランドで増えすぎたゴブリンたちは飢えて人間を襲うようになった。俺は怒りのあまり人間の多い地球に全員送り込んだ。その数五万。地球でもゴブリンは忌み嫌われその数を減らしていったが、人間と同化することで生き延びることができたと聞いていた。今では99%人間。唯一の違いはまだ体内に小さいながらも魔石があることと背が低いこと。


「今、ゴブリン族はどのくらいいるのだ。なんなら手助けもしてやらんでもない」


 俺はゴブリン族を少し不憫に思い申し出る。


「今は五千程度です。バンパイア族を真似てここの沖合で大型タンカーを改造した船にみんな乗り込んでいます。食料がつきかけているので早急にことを解決したいと思って大変なことを起こしてしまった。ああ、後悔先に立たずだ」


「そうか、そんな事情があったのか。悪いようにはしない。それにしても俺に直接相談してくれてもよかったものを」


 俺は魔王サタンの体を顕現する。禍々しいその姿にリーダーは恐れ慄く。


「ヒェッ、貴方様が魔王様だったのですね。お、お許しをーーー」


「そう恐れるでない。すべての発端の責任は我にもある。とりあえずエリアヒールでお前たちの傷を癒そう。ヒーーール」


 リーダーの体の中心部が光り傷は言えたようだ。


「あ、ありがとうございます。治っている」


 メリダが探知魔法で他のゴブリンの様子も探ってくれる。


「魔王様。他のゴブリンは43体。残念ながら4体は絶命しております。機動隊の突入時におそらく・・・」


「まあ仕方ないな。それでは俺の転送魔法でその43対とお前は沖合にいるそのタンカーとやらに転送する。その後、近くにゲートを出現させるので異世界に旅立ってもらおう。行き先は・・・ うん、ラートランドにしよう。なに、とても平穏で暮らしやすいところだぞ。高等生物はいないので好きにして良いぞ。いるのは虫に魚にウサギくらいだ。そこで頑張れば良い」


「あ、ありがとうございます魔王様。なんとお礼を言って良いやら」


「いや、礼に及ばん。この世界から貴様らがいなくなるだけで清々するのでな」


 俺は早速、転移魔法でゴブリンたちを船に送り届ける。ただゲートを開けるのには俺の膨大な魔力だけでは行えない。メリダのガイド魔法が必要になる。これがなければどこの異世界に転送されるかわかったものではない。


「メリダ。解っているな。それでは力を合わせて行うぞ」


「はい魔王様。では」


 周囲の結界が一度解かれるが、すぐにまた光りだす。それは強烈な閃光となり沖合のタンカーに向かう。そしてタンカーのすぐ手前で大きな光の球となる。


「今だ。その光の球の中に進め。新たな世界が待っているぞ」


 俺はゴブリン達に念話で伝える。そして光の球はタンカーを吸い込み五倍ほどの大きさに膨らむと消えた。どうやらうまく行ったようだ。


 俺は再びユリカの姿に戻り周囲を見渡す。まだ動揺から冷めやらぬものたちが多数いるようだ。生徒たちに俺は精神魔法をかけ心の平穏を取り戻させる。


 メリダが、


「どうやら一件落着のようですね。それにしてもラートランドですか。私たちの冒険者時代で最も厄介なところでしたね」


「そうね。厄介なところね。なんといってもウサギが肉食性で牛ほどの大きさがあるのにはびっくりしましたわ」


 そう、俺は知っていてゴブリンたちをあの危険な世界に送り込んだのだ。まあ、昔のゴブリンと違い、人間の知性を身につけているのでなんとかするだろう。


「あの危険な世界に送り込むなんてまるで悪魔ね」


「いや、私は悪魔なんだけど」



 その後の後始末は結構苦労した。

 なんといっても犯人たちが突然消えたのだ。映像が残っている以上、集団幻覚とかでは誤魔化せない。結局、犯人たちが身代金を諦め集団逃亡したとの結論になった。そして身代金だが、


「ベル。すぐにアメリカ、スイス、そして日本の裁判所に桃花教団に対する訴訟を起こして頂戴。原告はアトレリア女学院とその生徒たち。PTSDにおける後遺症の補償とか女学院に対する風評被害とかそんな名目で良いわ。そしてすぐに桃花教団の口座と資産の差し押さえの仮処分の申請も忘れずにね」


 その後、身代金は無事に帰ってきた。さらに良いことに横浜のカジノの権利も濡れてで粟状態で手に入れることができた。


 麻衣子からも、


「まるで悪魔のやり口ね。ほんとやり口が汚いいんだから」


 悪魔なだけに何も言えなかった。




ゴブリンたちははたして大魔女マーベラの配下なのか。こんごが気になりますね。

私の作品はamazonのKindleでも読めます。

「二度目の転生はハーフエルフでした」おっさんが転生してお姫様に!

「僕が読モでツンデレな件」男の娘がほんとうに女の子になっちゃう。

よしろくね。

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