この空の下で、キミに 2
手ぶらで教室に戻った俺に、友人達は「パン売り切れてたのか?」とおかずをくれようとしたけれど、「いらね」と断った。
「それより眠ィから寝るわ」
そう言って、机に突っ伏して残りの昼休みを過ごした。
午後の授業も、ただ、窓の外を眺めて受けた。
放課後になってようやく、俺は屋上へと上がった。
――ここって、こんなに寒かったっけ?
フェンスに背を預けて座り、膝に顔を埋める。
「…………今日だけだ……」
今日が終わったら、俺はちゃんと、いつも通りになれるから。
明日からはちゃんと、先輩ともいつも通りに話すから。
だから。
だから、今日だけ――。
「お。放課後に居るなんてメズラシーじゃん」
バッと顔を上げる。
カバンを小脇に挟んだ先輩が、俺を見て笑っていた。
「――先輩こそ。めずらしいッスね。普段は放課後に来たことないのに……」
「まぁなー」
ノンビリ答えた先輩は、当然のように俺の隣に座る。
「いやー。お前今日1回も来なかったからさー、ちょっと心配んなって」
「心配?」
「そ。今日バレンタインじゃん」
「あぁ……」
なおざりに答えた俺に、先輩が顔を覗き込んできていた。
「で? どうだったよ? 渡せたのか? 好きなヤツにチョコレート」
「…………フラれたッス。もうグロッキーってくらい……」
笑って言ったのに。
冗談にまぎれさせた、筈なのに。
一瞬顔をしかめた先輩が、俺の頭を引き寄せた。
「……なぁ。俺じゃ……ダメか? 俺じゃお前を、なぐさめてやれねぇか?」
先輩の肩に顔をうずめた状態で、このまま甘えてしまおうか、なんて弱い俺が思ってしまう。
けれど――。
ドンッ! と、先輩の体を押した。
「おま――」
何すん……と目を剥いた先輩が、泣いてる俺の顔を見て固まる。
「女に恥かかせないって意味、あんたちゃんと判ってんスか。……なぐさめるって、どういう意味で言ってるつもりなんスか」
「お前…………和美の、見てたのか?」
驚いたように言葉を落とした先輩が、『和美』と言ったことに、よけいに涙が溢れた。
1度、拳を握ってから、ポケットからチョコの包みを取り出す。
「いらないなら、捨ててほしいッス」
先輩の胸元に、押し付けた。
反射的にチョコを落とさぬよう手を遣った先輩の指先が、俺の手に触れて。
なごり惜しそうに手を震わせた俺は、俯いて、やっとの思いで手を引き剥がした。
先輩の顔も見れずに、駆け出す。
――そしてこれが、卒業してしまう先輩と話した、最後になった。