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キミと紡ぐ【BL編】  作者: Motoki
5/55

キミはオレの希望 5


 卒業式の後の教室は、なんだかぽっかりとあいた、俺の心の空間のようで……。


 もう聞こえない筈のクラスメイト達の声が、聞こえるような気がした。




 自分のだった机に1人突っ伏していると、ガラリッと幻聴ではない音がする。


 顔を上げると、扉に手をかけたままの檜山が、驚いた顔で俺を見ていた。




「何してるんだ? 皆もう帰ったぞ」




 扉を閉めて入ってきた檜山は、黒板いっぱいにチョークで書かれた大きな『祝! 卒業!!』の文字と、その周りの色とりどりのクラスメイト達の書き込みを眺める。


 しばらく微笑み見つめていた檜山が「菅田」と俺を呼んだ。


「何?」


「君の、書き込みがないんだけど?」


 思わず絶句する。


 皆、思い思いに書いただけで、全員が名前を書いている訳じゃない。




 それなのに、俺のがないと、判るなんて――。




「………………」




 俺は再び、机に突っ伏す。


「……なぁ先生」


「ん?」


「結婚して良かった?」


「………………」


 顔は見えないが、返事に詰まったらしい檜山は無言だ。


 どんな表情してんだろ、と思いながら、歩き出した檜山の足音を聞いた。




「あいにく私は、生徒相手にノロける趣味はないんだ」




 シャー、シャー、と。


 檜山が教室のカーテンを閉めていく音がする。


「聞けるのは、ノロケ、なのかよ?」


 俺の言葉に、全てのカーテンを閉め終えた檜山が笑った。


「さぁ、菅田。これで見るのは私だけなんだから、何か言葉を書いてくれよ」


 すぐ消すから、と笑いを含んだ声で言う。


 机の1つに腰掛け、本格的に待つ体勢を取った檜山に、渋々席を立った。


「――なぁ先生。俺が生徒じゃなくなって……また、会えたら。そん時は聞かしてくれる? 今の答え」


 檜山の答えを待たずに、黒板の前まで歩いて行って、チョークを持つ。





 『あなたに、また会いたい。』






 空いてる場所に、それだけを書いた。


 俺が無言で机に戻ると、カシャ、と音がする。見ると、檜山が黒板をスマホで撮っていた。


「あっ。――きったねぇー」


 すぐ消すっつったのに、と言えば、フフンと笑った檜山が「消すよぉー」と黒板消しを手に持つ。


 その手が、1つ1つ。全ての言葉を丁寧に消していくのを、ただ眺めた。






 教室の鍵をかける檜山と共に、廊下に出る。


「先生、色々とありがとう」


 それ伝えたくて残ってたんだった、と言えば、檜山は微笑み、右手を差し出した。


「いつか――また会おう。菅田」


 右手なのが当たり前でも、それが指輪のはまる左手でなかった事が、嬉しかった。


 パンッ! と。右手で檜山の掌を叩く。


「…………。ここは普通、握手だろう」


 不満げな檜山に、「握手はまた、会えた時に」と笑って背を向けた。





 あなたの手の温もりも、伝わらない程の、一瞬の触れ合い――。


 けれど右手は、これ以上ない程に熱を持っていた。







 なぁ、先生。


 また、会えた時。ノロケを聞かせてくれ。




「結婚して良かった」


 と。俺の好きなあの笑顔を見せてくれ。




 あなたは、俺の希望。


 いつか、また、あなたに――。




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