ある事に気がついた 1
アルバイトを終えてマンションに帰ると、同居人の中野浩行がリビングで酒を飲んでいた。
「何? なんか文句でもあんの?」
リビングに1歩入り、唖然としている俺に何やらからんでくる。どうやらすでにデキあがっているようだ。
「いや、別に」
俺は時計を確認しなから、リビングに隣接してる自室へと向かう。
「もう10時まわってんし、酒飲んでてもなんの文句もないよ」
この時間ですでにそんな状態になってるのには、ひと言いいたいけど……。
「大学で何かあったのか?」
何気に訊くと、ソファから立ち上がった浩行が、フラフラと部屋まで付いて来た。
「麻美に、フラれたんだよねぇ」
「また?」
俺の言葉に、ジトリと睨んでくる。しかしすぐにフラつくと、ガツンと肩をドアへとぶつけた。
その拍子に、持っていたグラスからウィスキーが床へと零れる。
「おっ前! 絨毯汚れんだろッ」
目を剥いた俺は浩行からグラスを取り上げ、そのままリビングの硝子テーブルへとグラスを置く。
ぞうきんを持って部屋に戻ると、
「お前は! こんな時に俺より絨毯取るのかーッ」
と、浩行が駄々をこねていた。
「当たり前だろ」
お前の部屋の絨毯ならともかく、俺の部屋の絨毯なんだぞ。
絨毯を叩くようにして拭いていると、ズリズリと浩行が腰を落としてくる。立てた膝に肘を付いて、俺を間近で見つめてきた。
「そんなだから、朋花にフラれんだろー。お前はー」
そう言いながら、肩を小突いてくる。
「バカ言うな。俺はフッた側だよ」
ぞうきんを持ち上げるついでに、浩行の肘を掴んで立ち上がらせる。リビングを通る時に、グダグダの浩行をソファへと座らせた。
まだフラフラと立ち上がろうとする浩行に「立つな!」と洗面所に向かいながら言うと、「なんでだよー」と手足をバタつかせる。
「ガキか、お前は」
そんなだから麻美にフラれんだろ、という言葉は心の中だけで突っ込んでおいた。
また部屋に来られても困るので、急いで着替えてリビングへと戻る。
「なんでフラれたんだ?」
麻美とは、結構うまくいっていた筈だ。俺が見る限り、どちらかと言うと麻美の方が浩行に熱をあげているように見えた。
自分の分の缶ビールを持って、浩行の向かいのソファへと座る。
「つまんないんだってさ」