我君を…… 5
卒業式が終わった後の、賑やかな空間で。
奥野と2人で写真を撮ってもらっている上田を見かけた。
笑顔で写真を撮って。
笑顔で奥野に礼を伝えて。
けれど――。
奥野の居ない場所で。
友人達に囲まれながら、しゃがみ込んで泣いている彼女を見た。
数日前の、俺の姿がそこにはあった。
ああ、だけど――。
それでもその涙で、彼女は気持ちに整理をつけているんだと判った。
「……高校卒業、おめでとう」
彼女には直接言えない言葉を、聞こえはしない言葉を、呟いて。
俺は、校門を出た――。
友人達と、卒業証書と、1輪のカーネーションを持ったままバカ騒ぎして。その後の時間は過ごした。
けれどその間、ずっと考えていた。
彼女は、あれで自分への区切りとした。
――でも俺は?
俺はどうやって、この想いに踏ん切りをつけるんだ?
夜遅くに家に帰って。
時計を見た俺は、「忘れ物」とすぐに家を飛び出した。
人気のない高校の校門をよじ登って、校舎には入らずに中庭に向かう。
1つだけ明かりがついている『あの部屋』を見上げた。
腕時計を見れば、23時52分。
もう、居ないと思ってた。
もう、会えないと思ってた。
なのに――。
「どうせ、個展に出す絵が完成してねぇんだろ」
1人呟いて、笑う。
けれど、あいつのそーゆういい加減な性格に、初めて感謝した。