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キミと紡ぐ【BL編】  作者: Motoki
15/55

我君を…… 4


「月なんか、出てねぇよ」


 絞り出した自分の声が、ひどく震えている事に、涙が出そうになる。




「言葉なんて、要らねぇ」




 震えを止めるように何度も唾を飲み込んで、声を出した。




「もし、違うってんなら。もし――違う答えがあるってんなら。俺が『卒業』するまでに、あんたから俺にキスしろ。俺が、此処の生徒じゃなくなるまでに。――あんたから。……もう、あんたに呼ばれない限り、俺からこの部屋に来ることはしねぇよ」




 最後に焼き付けるように奥野を見つめてから、背を向ける。


 鍵を開けて、ドアを閉めてから、駆け出した。






 部屋から充分離れた場所で、壁に握った拳をあてる。


「もう……何なんだよ……」


 ズルリとしゃがみ込んで。冷たい壁に肩を預けるようにして。


「判ってた、ことじゃねぇか……」





 バカだ、俺――と。


 誰も居ない廊下で独り、身を震わせた。






 自分で言った言葉どおり、俺があの部屋に行く事はなかったし。


 当然あいつから、俺をあの部屋に呼び出してくる事もなかった。




 だけど卒業までの間、美術の授業は普通に受けたし、廊下であいつと擦れ違う時も、今まで通りの反応と挨拶を交わした。





 もし――。





 同じ相手を想う者同士である上田と俺との違いがあるとすれば、そこだろうと思う。




 キャーキャーとミーハーに友人達と騒ぐワケでもなかったが、上田の奥野に対する想いは真っ直ぐで、滲み出す想いが、周りにまで伝わってきていた。


 だから奥野も、彼女に対しては人一倍気を遣い接していた。




 心無い噂なんて、立つ事のないように……。




 ――あんな、ガサツなヤツでさえ。


 彼女を傷付けたくはなかったのだろう。




 俺は、2人の時以外は完全に『その他大勢の生徒』に徹していたから、奥野も気楽なモノだっただろうけど。





 そして――。





 俺達は挨拶以外の言葉は交わさぬままで。


 卒業式を迎えた。




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