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キミと紡ぐ【BL編】  作者: Motoki
14/55

我君を…… 3


 奥野は僅かに驚いた顔をして、少しの間の後、フッと笑った。




「ありがとう。僕も矢野のこと好きだよ」




 軽い調子で返してくる。




「それは――。生徒として……って事なんだろうな」


 指を握ったままの俺の手はそのままに、「勿論そうだよ」とどうという事もないように微笑んだ。


「意外と絵には真剣な処も好きだし、僕が行っていた大学に合格してくれたのも嬉しい」


 教え子だし、今度は後輩になる、と。あくまで教師としての顔をして言った。




「俺、は――…」




 くやしくて、イラだたしくて、握る手に力を込める。


 震えてんのなんて、もうとっくに伝わっているんだろう。




「生徒として、言ったんじゃねぇよッ!」




 手を引っ張って、胸倉を掴むようにして。さっきまで俺が座っていたイスに、奥野を座らせた。


 ガタンッ! と。イスが大きく軋む音がして、痛みに奥野が顔をしかめる。


「お前ね――」


 文句を言おうとした奥野を睨みつけて、手は離さずに、座面の彼の腰の横へと膝を付いた。




 呆気に取られているのか、引いているのか。




 何も言わない奥野の両肩に、手を置く。


 止めろと言わない彼に、唇を近付ける。




 唇が触れ合う寸前、あいつは顔を逸らせた。


「……っ……ふ、……ふふ……」


 思わず、自嘲に笑いが洩れる。




 これが、俺達の距離。


 俺が、許される距離だ。




 手を握ることが出来る。指にキスもさせてもらえる。



 「好き」と言えば、「好き」と返してもらえる。



 座っているイスに、膝を付く事も、両肩を掴む事も許される。





 ――だけどキスは、拒むんだ。





「これが…………あんたの、答えってワケだ」


 顔を伏せて呟いた俺に、奥野は「だって」と言った。


「矢野は生徒で、僕は教師だ」


「そんな――言い訳……」




 俺は奥野から手を離して、膝も引く。




「じゃあ俺が卒業したら、今度はなんて言い訳する気だよ? さっき言ってたように『後輩だから』? それか『未成年だから』って? ……――そんで結局は、『お前は男だから』って最後まで俺を拒むんだろ?」




 向かい合って、あいつを見下ろした。


 俺を見上げていた奥野は、何かを思う顔をしたけれど、結局は何も言わずに笑いを吐く。




「なんだよ。『月が綺麗ですね』とでも言えっていうの?」




 笑って。肩を竦めて。


 この期に及んで、冗談に紛らわせようとした。





 ……卑怯だろ。





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