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キミと紡ぐ【BL編】  作者: Motoki
13/55

我君を…… 2


「だいぶ出来てきたな」


 ん? と訊き返してきた奥野に、アゴで油絵を示す。


「あぁ、なんとか個展にも間に合いそうだよ。――たぶん」


「だからギリギリんなってからアセる、その性格なんとかしろよ」


 先輩と一緒にやる個展なんだろ、と呆れた俺の言葉に笑った奥野が、筆を持とうと手を伸ばす。




 ――コンコン。




 今日2回目の、ノックが鳴った。


「はい」


 返事して、奥野がドアへと向かう。と同時に、俺はドアからは見えない物陰に隠れた。


「すみません。スケッチを見て頂きたくて」


 美術部の部長だった上田は、幽霊部員だった俺とは違って、真面目に絵を描いていた。




 そして真面目に、奥野を想い続けてきたのだろう。




「頑張ってるなぁ」


 感心したように呟いた奥野が、「見せて」と言う。そして廊下に出ると、ドアの閉まる音がした。


 俺に彼女との会話を聞かれたくないのか、上田に俺が居る室内を見せたくないのか――どっちなんだろう、と思ったりする。


 ボソボソと聞こえる話し声は、何を言っているのか判らない。


 しばらくすると上田の遠ざかる足音がして、奥野が室内に戻ってきた。




「部活が引退になってからもよく来るな、彼女」


 俺の言葉に「そうだね」と小さく奥野が頷く。


「彼女が行くのは有名な美大だから。不安なんだってさ」


 そう言って、肩を竦め笑った。


「でもこのままだと、ただの僕好みの絵になってしまいそうで怖いよ。僕好みの絵が、彼女の行く大学の教授が評価する絵かどうかはわからないから」


「あんた好みの、絵になりたいんだろうよ」


 じっと見つめながら言ってやる。


 俺を見返した奥野は、しばらくの間を置いて、クスリと笑った。




「矢野、お前は。たまに訳の解らない事を言うね」


 思わずハッと笑いが洩れる。


「あんたのそーいう、大人のズルい処は嫌いだよ」


 俺の言葉に、ヒョイと片眉を上げる。


 そうして筆に伸ばした手を、掻っさらってやった。




 ――相変わらず、綺麗な指をしていると思う。




 最初に好きになったのは、男のクセに細くて長い指だった。


 神経質そうで、繊細そうで。


 でも性格は全然神経質でも繊細でもないって、後から思い知らされたんだが……。




「先生の手、好き」




 呟いて、奥野の指へとキスをする。


 抵抗しない奥野は、けれどボソリと呟いた。




「さっきトイレ行ってきた手だよ」




 呆れる。


 そんなんで、止めさせられるとでも思ってるんだろうか……。




「手、洗ってねぇの?」


「いや、洗ったけど」


「……ま。あんたのなら舐めてやってもいいケド」


「はい、セクハラ反対」


 奥野のセリフに、クスリと笑ってやる。


 いつも油絵の具の匂いがする指は、微かに石鹸の香りがしていた。




 その指に、もう1度キスをして。




「先生が……好き」




 指を握ったまま、上目遣いで奥野を見つめ、告白した。


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