表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミと紡ぐ【BL編】  作者: Motoki
12/55

我君を…… 1


 一応ノックしてから、美術教師の教員室のドアを開ける。


 誰も居ない室内に入って、鍵をかけた。




 いつもと同じ、油絵の具の匂いが充満した部屋。


 卒業したらこの部屋に入る事もなくなるかと思うと、なんだか感慨深いものがあった。




 ――なんで在室してない時に鍵かけてねぇんだよ。




 普通逆だろ、とツッ込みながら、いつもあいつが座っているイスに腰掛ける。


 クルリとイスを回転させて、描きかけの大きな油絵を眺めた。




 人間と動物の目が、たくさん描かれた絵。




 あいつの絵には、たいがい目が描かれている。




「先生が描く目、俺好き」




 あの時は、心からそう思っていたから。


 意外にもきれいな目を描くな、と感心していた。




「本当に? それは嬉しいな」




 あんな、子供のように笑う顔は初めて見た。


「目には、こだわりを持っているから。そして一生の、課題かな」


 その言葉で、「あぁ、こいつは、一生絵を描いて生きる奴なんだな」とふと思ったりした。




 何年後、何十年後かに、あいつが何かの絵画展で大賞をとる。


 別格のように飾られたあいつの絵を、他の客達と一緒に、俺はきっと見上げるんだ。


 何のこだわりも『課題』も持たず、流れに任せた人生を送って、テキトーな会社に就職した俺は、一丁前の背広なんか着て。


 俺の事なんて憶えていないあいつは、他の見知らぬ客達を見るのと同じ目で、俺を見るんだろう。




『ありがとうございました』




 なんて、愛想笑いを浮べながら。


「………………」


 ――自分の想像なのに、なんかムカつく。


 けれどもきっと、現実になるだろうし、それが現実というヤツなんだろう……。




 コン、コン……。




 小さく聞こえたノックの音に、息を止めた。


「奥野先生?」


 聞こえた声は、きっと同じ3年の上田だ。


 もう1度ノックの音がして、諦めたように帰って行った。




「どこに、居やがるんだろうな?」




 片想い同士の親近感で、そっと呟いてみる。


 さすがにドアを開けて、直接言う事はできなかったが――。




 もう放課後になってだいぶ経つのに、こんな時間まで彼女は残っていたんだな、と思う。


 きっと奥野と、言葉を交わす為だけに……。




 ガチャガチャ。




 開いてるかどうかも確認しない。


 当然のように、無造作に鍵を開けて、奥野が入ってきた。




「あんたガサツ過ぎ」


 顔をしかめて言った俺に、「?」と不思議そうな顔をする。


 そうして、内側から鍵をかけた。


「ふつう逆じゃない? 居ない時に鍵かけろよ」


「放課後以外はそうしてるよ」


「………………」




 俺が入れるように? そう訊こうとしたが、違ってたらムカつくから止めておいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ