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月は四月。三年生という高校最後の一年が始まり、あるモノは勉強を、あるモノは部活を、またあるモノは就活を……色々なことに打ち込み始める月。
「シュンくん……」
「……」
目の前から珍しく静かに近づいてくるのは、なぜか俺との熱愛疑惑のあるタイガ。
「あぁ……終わった。全て終わったよ……でも、どうしてだろうな?俺は今、満足しているはずなのに……大切なものを失った気分だ」
「わかりますよ……その気持ち」
俺は一度深呼吸してから、タイガと肩を組んで下駄箱に向かった。
昼休み
俺はもう日常となったタイガとの昼食の場へと向かった。
先日は面倒だと思いながらタイガのマシンガントークを受け止める肉壁となっていたが今日は違う。
今日はタイガと語り合いたいことが山盛り……いや、メガ盛りくらいに存在している。
飛び蹴りされた日の俺に言ったら、それはもう仰天されることだろう。
いつもの談話スペースに行くと、そこにはもうタイガがいた。
俺はチャイムと同時に教室を出たし、三年二組の方がこの談話スペースに近いはずなのに何故お前が先にいるんだ?という野暮な質問はしなかった。
そんなこと、今の俺には些細なことさ……
「さぁ、タイガ……」
俺は弁当を置き、イスに腰を下ろした。
この質問がしたくて、したくて、いつも以上に倫理の授業が頭に入ってこなかった。
「お前はどっち派だ?」
「僕は蒼井語派です」
「戦争だな」
『牙狼タイガーヴァンプ』
主人公、蒼井語と彼の憧れる父、蒼井剣矢。そして語とは父の違う兄、獅子雄の物語。
兄弟である獅子雄と語は知らず知らずのうちに同じ女性に惹かれ……
父、剣矢はヴァンパイアのクイーンと恋に落ちる。
そして語は自分にヴァンパイアの血が入っていることを知らずに戦い続ける。
種族を超えて愛と自身がヴァンパイアであることを知り、悩む語。そして同じ女性を好きになった兄弟の恋の行方……
これは確かに子供には難しい内容だ。
タイガに聞いたどっち派のもう片方は蒼井剣矢だ。
剣矢は最初から最後まで自分の信念と愛する女性のために戦い続け、最後は自身の体が限界にも関わらず、語のために強がって笑った。
俺はそんな彼の生き様に魅せられ、憧れた。
「シュンくんは剣矢派なんですね」
そう聞かれ、満足気に頷いた。
「最初はただの女ったらしかと思っていたが、回を重ねるごとにどんどんカッコよく見えてきてな」
「わかります……わかりますよ。あと、ラスボスであるヴァンパイアのキングを倒すときの……」
「親子のタイガーキックか?」
不意にそう言うとタイガは表情をみるみる明るくした。
「そう、それですよ!」
その後も昼休みを目一杯使って語りあったが、チャイムとが鳴っても俺たちの会話は止まることを知らなかった。
授業に向かうため偶然通りかかった教師に叱責を受けてようやくチャイムがとうに鳴っていることに気付かされ、大急ぎで教室に向かった。