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「君は言ったね、娘を守ると?」
義父の言葉に俺は黙って頷くしかなかった。
「君は言ったね、家族を守ると?」
それにも黙って頷く。これらは俺が紗栄子の家に結婚の挨拶へ行ったときに誓った約束だ。
「君は守れなかった……そうだろ?」
それにも黙って頷く。俺は確かに娘も、嫁も守ることが出来なかった。
「だから私はあのときに君を殴った」
それはカナデとサエコが死んだ日のこと。義父はカナデとサエコの死を知ったあと、俺を殴った。蹴った。怒鳴った。蔑んだ。
だが、それに文句はなかった。されて当然のことだと暴力も、侮辱も受け入れた。
「あれから私は一度も君に会わなかった。いや、会えなかった……」
義父は話の速度と声をのトーンを徐々に遅くしていく。
「あの行動は紛れもなく、私の八つ当たりだ。娘の死を……孫の死を……冷静に受け止められずにあの約束を盾にして君のことを殴った。蹴った。汚い言葉を吐いた……」
地に膝をつき、義父は頭を地面につける。
「ちょ、やめてくださそんな……」
自分はそんなこと望んでいないと言う前に、義父が口を開く。
「すまなかった……君に、謝りたかった。あのことは君に非はない……なのに、なのにだ……本当は気付いていたんだ。八年も経ってしまう前に、なんならその日の晩には気付いていた……それを私はずっと、ずっと……本当にすまなかった」
「……」
義父が悔いていたことを吐露され、言葉が見つからない。
「許してくれ、なんて言えない。そんなことを言うことすら恥ずかしい……だが、私は君に、虎丸くんにただ謝りたかったんだ……本当にすまなかった」
義母の手を借りて義父は立ち上がる。
「俺、いや僕が、お義父さんを許さないわけないじゃないですか」
許さないわけがないだろう。義父に非はない。彼はただ、約束を守れなかった男と許せなかっただけだ。大切な孫と娘を失って、その吐き口として俺に当たってしまっただけだ。
だから、許さないわけにはいかない。体の傷はとっくに癒えている。
「ありがとう……本当にありがとう」
義父と俺はお互い泣きながら両手で握手した。
「タイガもきっと会いたがってますよ」
「あぁ、タイガに会うのも八年ぶりか」
その一件以降、俺は義父にどの面下げて会えばいいのかわからず一度も義父母の元を訪れなかった。
一人で行けとタイガには何度か行ったが、タイガは「お父さんが行かないなら僕も行かない」と言って聞かなかった。
その後、三人で墓前に花を添え、手を合わせた。
昼食にも誘われたが、タイガとその友達を待たせていたため泣く泣く断った。
「今度は、タイガと一緒に遊びにいきますよ」
「あぁ、楽しみにしているよ」
そして俺は義父母と別れ、岩ノ森光太郎漫画館へ向かった。




