3
それからというもの俺と紗栄子の距離は急激に縮まっていった。紗栄子のコミュニケーション能力の高さもあったと思うが、一番の原因は趣味の一致だろう。
委員会では隣の席であろうと一言二言しか話してこなかったのにただ読んでいる漫画が同じだけでこんなにも仲良くなれるとは。
「お前、いつから紗栄子さんと話す様になったんだ?」
昼休み、屋上で一緒に弁当を食べている光にそう聞かれる。
余談だが、屋上は通常立ち入り禁止だ。ただ鍵が壊れているため容易に入ることができる。
「授業中だけど?」
「何言ってんの?」
確かに隣のクラスの女子と授業中に仲良くなったと聞かれても訳が分からないという話だ。だが、事実だからなあ。
「授業中って、お前が新刊読みたいからってサボった日か?」
「何月の話してるんだよ」
季節は秋、セーターでは肌寒いくらいの日に学校をさぼって漫画を買って読んでいたら偶然俺と紗栄子は出会った。
大学受験を控えた時期に何やってるんだと聞かれればぐうの音も出ないが、月初めの単行本の発売日の昼休みだけは授業をさぼって漫画に没頭している。それさえ読んでしまえば次の単行本の発売日まで特になんの欲求もなくしっかり勉強している。
「でも紗栄子さんも授業サボるのか」
コイツは知らないんだな、あいつも漫画が読みたいがために授業をさぼったことを。と思い口角が上がる。
「付き合ってるってマジ?」
口に放りこんだ白米を咀嚼する。だが思考は停止していた。一度目を空に向け、風が当たらないところにいるといっても寒いなあくらいの思考を取り戻す。
咀嚼を終え、光の目を真っ直ぐ見る。
「は?」
なんとかしてその言葉が出た。
「今の間、なんだよ?」
「思考停止してた」
「なんで?」
「来るとは思ってなかったんだよ、そんな質問」
「おーう、倒置法」
心当たりがないわけじゃないが、別に付き合っていない。
「高校生ってそういう話題好きな」
「高校生だからな」
落ち着きを取り戻し、再び弁当を食べ始める。
「確かに最近よく話すし、漫画貸すし、方向一緒だから一緒に帰るし」
光は唖然として箸を落とした。
「それで付き合ってないのか?」
「え、うん」
「かぁ……」
そう言って今度は光が天を仰いだ。
「ふぅ」
一度息を吐いてから勢いよくコンクリートに拳を叩きつける。
「え、こわ」
「七三がり勉に負けた」
「いいだろ七三でも!毎日ちゃんとセットしてるんだぞ?まじめの象徴だろ!」
「うるせぇ、そんなんでモテるわけねぇだろ!」
「ぐう……」
「ぐうの音は出るのかよ」
真面目に生きてきたが故に今まで彼女なんて作ってこなかった。キチっとすればいつか好きになってくれる人がいるだろうと生きてきたがそんなこともなく十八年間を七三で分けてきた。
紗栄子を意識していないといえばウソだが、彼女にそんなこと期待していいのだろうか?
期待と不安が混在する中、光を見た。
「なんだよ」
「親友として言わせてもらう」
「な、なんだよ」
「ザマぁ」
「こんにゃろ!」
そう言って弁当箱を投げ出して殴り掛かってきた。




