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紗栄子との出会いは高校三年生の委員会だった。最初はクラスも違うし、男女の壁もあった。
しかし、隣のクラスで委員会のとき座る席も近かった。だが、最初に聞いた自己紹介の名前など積み重なる受験勉強の下敷きになって忘れてしまっていた。
そんな名前も知らない彼女の印象は……
「えぇ!なにそれ!あははは!」
大きな声でよく笑う女の子だった。
見た目も可愛らしく、きっと自分には縁の無いような人間なんだろうなと思っていた。
俺たち二人が隣の席であることをきっかけに心の距離が縮まることはなく、ただある日をきっかけに変わった。
それはある日の昼過ぎ、ワイシャツ一枚では肌寒くなってきた秋のことだった。
高校三年生の秋にやる学校の授業なんてほぼ自習と変わらない。ならばそれは教室でも図書室でもいいだろうと思い、授業時間という誰も生徒がいない時間に図書室で漫画を読んでいたときのことだった。
「あれ、隣のクラスのトラくんじゃん」
そう言うのは同じ委員会の女子。トラくんとはあまり話したこともないのに随分と馴れ馴れしい。
ついでにトラくんというあだ名は本名の虎丸から来ている。自分の名前は気に入っているし、このあだ名も嫌いじゃない。
「あー、君は……」
名前は出てこなかった。俺がそこで硬直していると、なんてノリの良い少女だろう、ズッコケてくれた。
「そういえば喋ったことなかったね、隣の席だけど」
そう言って姿勢を直し、一度咳払いする。
「私の名前は紗栄子、一之瀬紗栄子」
「へー、ばかうけじゃなかったんだ」
「何それ、ッハハ!私にもちゃんとした名前があるんだよ」
「ここ図書室なんだから静かに」
俺がそう言うと自らの口を両手で押さえ、しゃがみ込んで上目遣いこちらを睨んでくる」
「誰のせいで……」
そう呟き、立ち上がる。こけたり、しゃがんだり、立ち上がったり、忙しい奴だ。
「てか、こんなところで何やってんだよ、今授業中だよ?」
「それはこっちのセリフ、トラくんこそ何してるの?」
「何って、俺も高校三年生だよ?受験勉強以外に何を……」
そう言うと、紗栄子は俺の手元を覗き込む。
「トラゴンボール……」
「まぁ、息抜きも大切だよね」
「方向転換潔すぎ……っぶ……」
紗栄子は口元を押さえ、笑いを最小限に抑えた。
「んで、そっちは?」
そう聞くと紗栄子はバッグをガサゴソと漁り、一冊の本を取り出した。
「何ってもちろん勉強だよ」
その手に掴まれていたのは参考書でもノートでもなく、今俺が読んでいるものと同じトラゴンボールだった。
「同罪じゃんか」
それから俺と紗栄子の関係が始まった。




