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学校で下校時刻である夜七時まで勉強してから、いつも通りタイガと共に帰宅する。
「ドゥバベター……」
ただいまの代わりに『疲れた』という意味の謎単語を口にする。
「母さん、今日の夕飯なーッブべ!」
リビングのドアを開けると待ち構えていた何者かにビンタされた。
この家で無言でドメスティックでバイオレンスなことをしてくる人間一人しかいない。
「何するんだよナギ!」
我が家の暴君、それがビンタした正体だと思いながら横を向いた顔を戻す。そこにいるのは予想通り妹の渚だった。
「『何』だと、本当に思い当たる節はないか?」
「いや、ある」
今日、渚関係で思い当たる節なんて一つしかない。そのことを不安に思いながら一日過ごしてきた。
「妹として聞くけど、どっちと付き合ってるの?」
「兄として言おう、俺はどちらとも付き合ってない」
俺が好きなのは吉田さんだ!とは、さすがに妹といえど言えない。
「え、ウソ、本当?」
意外だったのか妹は豆鉄砲に撃たれた鳩のような顔をした。
「じゃあ、二人との関係は?」
その言葉に少しだけ答えに詰まる。石田さんとは昼ご飯を食べるくらいだが、千鶴とは何故か一緒に遊園地まで行っている。何故だろう……
「なぜか一緒に昼ご飯食べてる」
結局今は二人とのことを聞かれていることを考え、千鶴と遊園地へ行ったことは伏せた。
「おい、今の間はなんだ」
「ちょっとは考えるだろ。女の子とどんな関係かって聞かれたら」
しかも場所はリビングの入り口、あまり先ほどから気にしていなかったがソファーでは両親がテレビを見ながら恐らく聞き耳を立てている。
「というか何で二人と知り合ったの?」
「運動会で絡まれちゃって……」
今度こそ思考時間なく即答した。
「そんなヤンキーみたいな」
「そのあとガチヤンキーとケンカしたけどね」
「ッテヘ、じゃないだろ!」
妹がツッコミながら頭を叩く。
「でもん、聞いてくれよ妹よ。あの二人組な、俺とタイガが一緒に歩いてたら目の前で仁王立ちして立ちはだかってきたんだぞ」
「そう、忘れてた。なんでおにぃとタイガさんが仲いいの?」
「うぅん、原因はタイガーキックだな」
「は?」
「事実はタイガから聞いてくれ、だって勉強会って家でやるんだろ?」
「まぁ、そうだけど」
そして何となく考える。どの部屋で勉強するのか。
リビングのソファーはL字の四人掛けだが、今回は五人いるしテーブルも教材を乗せるには少し狭い。
「部屋は」
「おにぃの部屋」
即答だった。
「なんでさ……」
「私の部屋スペースないじゃん」
「散らかってるだけだろ……」
「うるさいなぁ、もう」
確かに妹の部屋は俺の部屋より散らかっている、片付けるにしても机をさらに置くにしても俺の方がいいのだが……
「本棚とポスター……」
部屋の本棚にはライトノベルや漫画、壁には特典などのポスターが貼ってある。今まであまりオタクであることがバレてこなかったが……
「どうしよ」
「片づけたら?」
「うぅむ、うぅむ、でもなぁ」
部屋の物は位置を決めるとそこから動かしたくなくなってしまう。ポスターなども結構位置にこだわって貼ったため、動かすには抵抗がある。
「くう、背に腹は変えられないか……」
「なんでもいいけど、今週の土曜日だから」
そう言って渚は脇を通って部屋に帰る。
「シュン、いい加減ご飯食べなさい!」
リビングの手前でいつまでも立ち往生している俺をとうとう母が叱った。




