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タイガルフ  作者: 波左間たかさ
4月
7/81

6

 次の日の朝


「シュンく〜ん!」

 駐輪場から歩いてくる俺を見つけて駆け寄ってくる。

「はぁ、おはよう。タイガ」

「おはようございます」

 タイガは頷くだけの壁と化した俺に昨日徹夜でもしたのかと聞きたくなるようなハイテンションで牙狼タイガーについて語り始めた。

 教室の手前で牙狼タイガーヴァンプのDVDをほぼ無理矢理押し付けて自分の教室に入っていった。

「はぁ」

 ため息を吐いてからDVDをリュックにしまい、教室に入って自分の席で荷を下ろした。

「お前いつから男好きになったんだ?」

 そう聞いてくるのは小学校からの幼馴染、鈴木弘樹だ。

「いつから俺が男好きになったんだ?」

 心当たりはある。だが、俺はバリバリのフェミニストであり、同性愛者になった覚えはない。

「昨日から我が校が誇るイケメン武田大牙と一緒にいたじゃないか!」

 ペットボトルの緑茶を飲みながら、弘樹の話を聞き流す。

「今や学校中の噂だぜ、武田大牙とお前が付き合ってるってな!」

「ッボフ‼︎」

 俺の緑茶に爆薬が仕込まれていたわけじゃない。驚きのあまり口に含んでいたものを吐き出すなどフィクションのみの話だと思ってたのだが。

「っちょ、待て、俺とタイガが?」

「ん?あぁ、朝から放課後までイチャ付きおって、女子なんて『だからタイガくん女の子になびかなかったのね』って言っとる」

「えええええ…………」

 確かにタイガの浮いた話など聞いたことはないが……

「俺……好きな人が……」

「知ってる知ってる。明日香ちゃんだろ」

「バッカ!」

 俺は弘樹の口を手で塞いだ。

「何普通に言ってんだ!」

「大丈夫だって、誰も聞いてねぇって」

 言い合いをしている俺の背中を弱々しくつつく何かに気づいて振り向く。

「おはよう、シュンくん」

 目の前に太陽が落ちてきたんじゃないかと思うほど、彼女の笑顔は輝いていた。

「おはよう、吉田さん」

「もう、アスカでいいって言ってるのに」

 目の前で可愛らしく頬を膨らませて怒る太陽こそ、俺が恋い焦がれる吉田明日香その人だ。

「シュンってさ、女子みんな名字にさん付けだよな」

 目の前の黒髪ポニーテールの太陽のせいで完全に忘却の彼方に飛ばされていた弘樹がそう言った。

「昔からそうだったの?」

 吉田さんは俺とは小学校からの幼馴染である弘樹に問いた。

「いんや、小学校の頃は名前にちゃん付けだった」

「え!かわいい」

 小学生とはみんなそんな感じだと思うが、吉田さんは思うのほか食い付き、俺を見てイタズラに笑う。かわいい。

「ちょっと、やってみてよ」

「っえ⁉︎」

 驚きのあまり声が裏返る。となりを見ると弘樹もニヤついている。腹立つ。

「う、ん、うぅ……明日香……ちゃん」

 そう言うと弘樹と吉田さんは満足気に笑った。弘樹の腹には俺と拳が食い込んでいた。

「やっぱいいわ〜シュンくん癒されるわ〜」

 こっちの気など知る由もなく、吉田さんはそう言った。自身の顔が赤くなるのを何となく感じる。

「そういえばシュンくんさ〜、タイガくんと付き合ってるって本当?」

 日常会話の延長線上のようなテンションだが、瞬間的に教室はシンと静まり返り、全クラスメイトの視線は俺へと集中していた。

 小学生でももっとマシな噂を流すだろう……なぜこんなことがこの学校では鵜呑みにされているんだ?


 キーンコーンカーンコーン


 ベーシックなザ・学校のチャイムにより朝のホームルームがもてなされ微妙な空気の中、我が三年二組の担任、関将司が入ってきた。

「ほら〜席につけ、なんだお前ら反抗期か?」

 生徒たちの視線は俺から席先生へ移り、あまりのタイミングの悪さからクラス全体から大きなため息が吐かれた。

「な、なんだ?俺なんか悪いことでもしたか?」

 一人わけもわからず狼狽えている関先生を不憫に思い、俺たちはそれぞれの席についた。

 まぁいいさ、何も答えづらい質問じゃない。休み時間にでも誰かに聞かれたらはっきり言えばいい。それで誤解も解けるはずだ。


 朝のホームルーム終了後

「…………」


 昼休み

「シュンく〜ん!」


 放課後

「…………」


 誰も何も聞いてこなかった。

 一人自習をするために残った三年二組の教室で頭を抱える。

 なんで?なんで誰も聞いてこないの?聞いてよ!きいてくれよ!

 今日友人と話したのは当たり障りのない世間話くらいのものだ。

 触れちゃいけない話題みたいに扱わないでくれよ、ガチ感出るじゃん!

 吉田さんはあの後何も聞いてこないし、弘樹も何も言わないし、タイガは昨日と一緒でテンション高いし……

 もう、やだ。

「不登校になりたい」

 そんなことを呟いているとチャイムが鳴った。時刻は六時五十分。下校時刻を知らせるものだ。

 俺は使いもしなかった参考書と問題集を雑にバックにしまい、教室の鍵を閉めた。

「あ、シュンくん!一緒に帰ろ!」

 隣の教室を閉めるタイガとバッタリ……でもないな、多分。

 タイガの誘いを断る理由もなく、ため息を吐いてから頷いた。


 帰宅後、学校での怠けを取り戻すべく机に向き合った。

 時刻は九時。バッグに手を突っ込み、適当に取り出す。

 カチャ

 机に乗せたノートと参考書の間に何かある。それは朝、タイガから半ば無理矢理押し付けられた牙狼タイガーヴァンプのDVDだった。

「一話くらい見てやってもいいか」

 そう思ってDVDプレーヤーにディスクを入れた。

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