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受験生になって、勉強に本腰を入れるようになった。しかし、だからといって、日々の授業を真面目に受けるようになったかと聞かれれば違う。今日の授業も日本史と倫理はぐっすりと眠っていた。
「ふぁ~」
日直の号令でビクッと目を覚まし、焦って立ち上がってあいさつの代わりにあくびをする。
机の脇に掛けてある弁当袋を手に取り、教室を後にする。
休み時間の教室は俺みたいなはぐれモノには居心地が悪い。同じクラスでまともに話せるのは弘樹と吉田さんくらいのものだ。しかし、その二人は休み時間になれば他の友人たちに捕まってどこかに行ってしまう。
結局教室で孤立してしまう俺はタイガといつも弁当を食べるテーブルに向かった。
到着すると、そこにはまだタイガの姿はなかった。
「ま、いっか」
一人で弁当を食べることに慣れていないわけではない。なんならボッチ飯歴は長い方だ。
だが、待っていればタイガが来るという確信的なものがあるため、少しの間、弁当を開けずに窓の外を見る。
「あれ、武田先輩はいないんですね?」
一人で窓の外を眺めていると、視界の端に一人の女の子が映り込む。
そこに立っているのはサイドテールでおしとやかさが外見と声からにじみ出た巨乳な女の子。
「えっと、石田さんだっけ?」
「幸花でいいですよ、それかチーちゃんみたいにサチって呼んでも構いませんよ」
「んで、シッダーは何してるの?」
「普通そこ抜き取ります?」
そんな会話をしていて気が付かなかったが、石田さんは片手に弁当袋を持っていた。
「チーちゃんが一緒にお弁当食べたいらしいんですけど、一人じゃ心細いみたいで……」
「サーチーカー!っうげ……」
遠くから声がしたが、転んだのか、大きな声と音がする。
音がした方向へ、石田さんが走っていく。
「チーちゃん大丈夫?」
「サチ、一緒に行くって約束したじゃん!」
「えへ」
「えへ、じゃないわよ!」
どうやら大声出して転んでいたのは千鶴だったらしい。
「なに、どういうこと?」
千鶴が転んだことまではわかったが、なぜ二人は急にここで弁当を食べようと思ったのか。
頬杖をつきながら、二人が戻って来るのを待つ。
「んで、どうした?藪から棒に」
生まれて初めて藪から棒なんて言い回しをした。
「さっきも言ったじゃないですかチーちゃんが……」
「うぎゃー!」
石田さんの発言を千鶴が大声を出して遮る。
「ど、どうしました?大きな声が……」
そう言って走ってやってきたタイガ。
「ややこしいからお前はあと三十分くらいしたらきてくれない?」
「休み時間が終わっちゃう!」
やかましい人間が一人増え、やかましい弁当の時間が幕を開けた。




